第三百七十一話 提案
神様による壮大な仕込み……と推測される事情により、長年にわたって封印されていたポーラの輝力炉は停止寸前にまで追い込まれていた。完全に輝力炉が停止してしまえばポーラは姿勢維持ができなくなり、宇宙の彼方へ吹き飛んでしまうか、最悪の場合地上に落下してしまう。
その猶予はあと10日程度と、ギリギリであったが、なんとか我々の到着が間に合い、ポーラの犠牲は免れたのであった……ここまで神様の仕込みなんでしょう? 知ってるんだから!
「デブリが殆ど無い美しいソラなのが幸いだったの」
と、後にフィアールカがため息混じりに語っていたけど、細かいデブリがポーラに当たる度にいちいち姿勢制御をしていたらとっくに輝力は尽きていただろうね。
そこまできちんと計算してのことだろうけど、神のやつ、全く無茶なことをしてくれたもんだよ……。
グランシャイナーからポーラへの輝力充填はキリンの操作によりつつがなく終わり、各機能が復活した基地内には、見学に訪れたパイロット達から驚きの声が響き渡っていた。
「ほえー、これ空に浮いてるんだよねえ? 凄いなあ、こんなに大きな建物が空に浮いてるなんて」
間が抜けた声を出して感動しているのはレニーだ。厳密には浮いているのとは少し違うのだけれども、私自身、きちんと説明出来る自身が無いため敢えてそれには触れずニコニコと笑みを浮かべて誤魔化すことにした。
その様子をスミレに見られなかったのは本当に助かった。スミレが見ていたら『ふふ、カイザーならおわかりですよね。レニーに真実を教えて上げなさい』と無茶振りをしてくるはずだからね……何時も思うけど、ほんと勘弁して欲しいよ。
「まあ! まあまあまあ! なんて愛らしいんですの!」
「うわあ……うわあ! こっちにも、あっちにも! 働き者だなあ! お前達! うわあ!」
「ああ、ガア助にもこんな愛らしい時期があったのでしょうか? ああ……可愛いなあ」
基地内を忙しくチョロチョロと動き回る子グマ達にぞっこんなのが3名。ミシェル、ラムレット、そしてシグレである。マシューやレニー、フィオラもそれなりに子グマ達に目を細めてはいたのだけれども、特にこの3人はすっかりやられてしまい、見学の間もほとんど子グマたちにばかり構っていた。
「もー! そんなにかわいがってもあげられないんだからね! この子達はここのクルーなの! 連れて帰らないでね!」
「あらあら、フィアールカ? ヤキモチですの? ふふ、フィアールカが一番賢くて可愛いのはわかってますわよ! さあ、私のお膝にいらして? 毛並みを整えてあげますわ!」
「い、いらないの! 別にヤキモチじゃないの! もー! カイザー助けてなの!」
ミシェルに捕まりジタバタと手足を動かし抵抗をするフィアールカ。その気持は痛いほどわかるぞ、フィアールカ……。だが、すまない……今の私は無力だ……君を助けることは叶いそうにない。
やがて基地内の見学が終わってしまった。基地とは言え、あくまでも地上の補助を役割とする施設なので、特に面白みがないというか、説明のしようがないと言うか、見どころというものはなく、あっさりと終わってしまったんだ。
ただ、各機能は万全に可動しているのが確認でき、各種通信範囲の制限が解除され、テストとしてちょっぴりだけの時間だったけど、ようやく地上の基地に詰めるアズベルトやトリバのレインズ、そしてリーンバイルのゲンリュウにそれぞれ現況報告をすることが叶ったんだ。
突然の通信、しかも今までにないほどクッキリとした映像通信に皆が驚きの声をあげていたけれど、何より我々が遠く高い天の上に居るというのはにわかには信じられない様子だった。
「そのうちでっかい船で皆の顔を見に行くからね」
なんとなく言ったその言葉。ゲンリュウとレイは島や街に港が有るからさ、少々不思議な顔をしただけだったけど、現在基地にいるアズはとっても変な顔をして首を傾げていたよ。
ここでネタバラシをするのも面白くはないからね、どうやって天に上ったのかを含めての報告は後でということにしたんだ。ふふ、グランシャイナーを見たら腰を抜かすだろうな……。
通信機能の強化という嬉しい報告があった反面、非常に残念な報告もあった。本来ならばこの基地に装備されているはずの必殺武器、
フィアールカは勿論、キリンもそれを知らないということは、終盤のシナリオが大幅に変更されているらしい劇場版にてオミットされてしまったのだろうな……。
確かに空からクソデカソードをわざわざ落とす意味とは! って思ってたけどさ、ロマンに溢れていて好きだったし、この現実世界で使った場合どうなるのかちょっぴり興味があったんだけどな……。
やっぱりポーラを眠らせていた理由は私が考えたとおりで正解なのかもしれないな。グランドシャイニングブレードが使えないとなると、劇場版のはもちろん、地上波版のルクルァシアにだってとどめをさせなかったと思うし。
武器については非常に残念だったけれど、それを上回る嬉しいことがあった。それはフィアールカを連れ、グランシャイナーを案内していたときのこと。
「おお! おお! フィアールカ! ああ、フィアールカを直に愛でられる日が来るとは!いやあ、嬉しいなあ! 嬉しいなあ! もっとこちらに来たまえよ! 手のひらに乗りたまえ! じっくりとスキャンをしてあげようじゃないか!」
「うわあん! カイザー助けてなの! キリンはミシェル以上にくどいの!」
「わ、私をキリンと一緒にするのはやめてくださいません?」
フィアールカをグランシャイナーの格納庫に案内すると、まずは予想通りキリンの洗礼を受けることとなったんだけど、それをなんとか乗り越えた彼女は、私達の機体を一通り眺め、各機体とそれぞれ挨拶を交わした後、キリンと2機、興味深い話を始めた。
「ふうん、私やキリンが居ない世界から来た同じ様で別世界のカイザー達……でも、私達のカイザー達とあまりかわらないのね」
「そうなのだよ。とは言っても我々が知る彼らと違って、まだ換装していないというだけで、中身は全く同じだと思うけどね」
「そっかー。じゃあ、換装しちゃお? 基地に予備パーツは残っているし、それに必要なシミュレーションデータもグランシャイナーなら使えると思うの」
「それは良い! それは良いよ! ついでにOSもアップグレードしてしまえばより便利になるな! うむ、フィアールカの協力が得られるのであればそれも叶うだろうな! なあ、カイザー! 君達、新たな力を手にする気は有るかい!?」
「新たな……? それってまさか……」
「ああ、そうさ、なあカイザー! 君風に言う所の『後継機体』になろう!」
厳密に言えば最新型のものにパーツを換装し機体性能を上げるという話だったけど、機体によってはかなり手が加わり別機体となるとのことで!
僚機の皆の意見を聞いたけど、もちろん、1機としてそれを否定する者はいない。
皆が同様にその話に首を縦に振った。
「うむうむ! それでこそブレイブシャインだよ! よし、フィアールカ! 早速ですまないが支度を始めてくれたまえ! 私はカイザーやパイロット達に説明をしないといけないからね!」
「まったく目覚めてそうそうに忙しいの!」
そして慌ただしく事が進んでいくのだった。
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