第三百六十七話 神星

 場の雰囲気がと言うか、急かされるような状況だったからというか……言ってしまえば火がついたロケット花火を持たされ『はい! 投げて!』と言われたかのような選択肢が無い状況だったし、正直な所言ってみたかったセリフの上位に入る「発進コール」をしろと言われて断れるわけがなかろうよ! ……というところがありまして……。


 特に深く考えないまま艦を発進させてしまった私、ルゥなわけですが……。


「ちょっとまって! 待って!? 発進って言ったのは私だけど、状況に追いつけない! え? 発進しちゃったんだよね? なんで? っていうかこの船どこに行くのー!」

 ?」


 超大型輝力炉の出力がグングン上がり、現在当艦はグングンと高度を上げています。私以外の皆も――フィオラですらこの状況に驚いているわけなんですが……。


「えっと、私もその……母さん……いえ、巫女長から渡されたメモを読んでるだけで事前の説明は一切なくて……もー! 後のことは良くわかんないんだよお!」


「ええい、そのメモをちゃんと見なさい。この後の事が書いてあるんじゃないの?」

「あ! そうか!」


 そしてメモ……と言うにはしっかりと製本され、最早マニュアルだろうと思わせるそれをじっと読んでいたフィオラだったが、ホッとした顔で今後すべきことを教えてくれた……のだが。


「ええと……こほん。神機グランシャイナーはこのまま暫く上昇を続けます。その際、ルクルァシアに感知されるかもしれませんが、奴にはまだ手出しができないだろうし、村の位置がバレてしまうのも今となっては問題ない……ってバレちゃうの?」


「レーダーや通信を扱う私達が言えたことじゃないけど、ルクルァシアって大概チートだよね……。何処に居るかわからないけど、私達の動きを感知できちゃうんだもんなあ。ずりー」


「続けるね。えっと、このまま高度400kmまで上昇し……神星を掴み上陸せよ……って書いてるけど……ルゥ、わかる?」


「神星……? 大神のせいなのか巫女達のノリなのかはわからないけど、私が知ってる呼び名と違う書き方してるからピンとこないとこがあるんだけど……でも、該当するのは1つしか無いよねえ、スミレ」


「ええ。恐らくは無人宇宙基地【ポーラ】がそれに該当すると思われます……しかし、衛星もそうでしたかが、ポーラとも何度か接続を試みましたが応答はなく、てっきり居ないものと思っていたのですが……」


「……あの神様のやることだ。グランシャイナーがあった以上、ポーラもまた存在してる事は間違いないだろうね。この艦同様に何らかの事情があって休眠しているのを我々が起こしに行く……そんな感じじゃないかな」


 無人宇宙基地【ポーラ】それはシャインカイザーにおいてそこそこ重要な役割を担っていた。衛星軌道上に存在するポーラには他の衛星とリンクをして我々の通信範囲を大きく……それこそ世界中にまで拡げる役割がある他、特殊兵装―いわゆるトドメ専用の超大型装備を格納していて、申請すると上空からシャインカイザーの元へ投下するという派手な役割もあった。


 アニメだからなんとも思わずに、ただただ派手でかっちょいいなあと思いながらみていたけれど、こうしてリアルな世界になった今、あの装備のことを思えばちょっと首を傾げてしまう部分もある。


 まず、こんな高いところから投げつけられた超大型武器の落下エネルギーがどれだけ有ることか。カイザーに渡さず、そのまま敵に当てたほうが効果的なのではなかろうか? そもそもそれが落ちてきた事による周囲への環境ダメージのほうが敵の攻撃より酷いことになるんじゃあなかろうか……。

 

 そもそも使い終わった後、また律儀に空まで帰っていく……のだろうか?


 最も、そういった『考えるだけ無駄』な『アニメなんだから良いだろ』という理屈では証明できない謎は全て『アニメ特有の謎パワーでどうにかなっているのだ』で片付けられてしまうのだろうから私もいちいち気にしないほうが良いんだろうな。それを言ってしまえばそもそも、このグランシャイナーがどうやって……輝力を利用しているのだろうけど、どうやって浮上したのかも証明できないわけだから。


 今だってかなりの速度で上昇している筈なのにパイロット達はケロりとしている。Gを感じていないんだ。恐らくはこれも俺達機体のコクピット同様に謎パワーでどうにかしている部分なんだろうな。


「カイザー、指定高度に到達しました。対象……推定『ポーラ』を探査開始……補足完了。ドッキングに備え艦を前進させます。許可を」


「ああ、グランシャイナー前進」

「前進開始。凡そ327秒後に対象が目視可能となります」

「うん、任せたよ。ドッキング可能になったら教えてね」


 頼りになるよなスミレは。一応一通りのナビ知識は備えてるんだもんな。そりゃポーラとの接続マニュアルも頭に入ってるってわけか。


 ……と、静かすぎてパイロット達のことを忘れかけていた。


「どうした君達。フィオラやマシューまで大人しいじゃないか。何処か調子でもわるいのかい?」


 ブリッジの全面を覆うモニタには我々が住んでいる星が青く輝いている。そうだろうなとは思っていたが、流石にあの大陸以外にも大きな大陸が存在しているようだ。人が住んでいるかどうかはわからないが……全てが終わったらみんなで旅に出るのも面白いかもしれないな。


「……カイザーしゃあん? あの、下に見える青いのってもしかして……?」

「ああ、君達が住んでいる星だな」

「私達が住んでいる場所もまた天に光る星と同様に宙に浮いている大きな物質であると提唱する学者は居ますが……まさか本当だったんですのね……」


 むう。あれだけの技術力がありながら、まさか……。


「もしかして住んでいる星が球状ということや、他に大陸が有るってことも知らなかったり……?」


「あたい達が玉の上に立ってたってのは……置いとく……。他に大陸……? リーンバイル以外に島があるとは誰もしらないんじゃないか?」 


「リーンバイルに来られる船が多くは居ないということから分かる通り、安全に航海が出来る船というのはあまりないのでござる。それに……外海には昔から魔物が、今の魔獣以前から棲む魔物が居ます故、例え島があろうとも人が住める環境ではないだろうと言われています」


「なるほどね……。ま、いつかみんなで様子を見に行ってみようよ。このグランシャイナーなら魔物がいる海も関係ないしね」


「……なんでルゥはそんなに落ち着いてられるの? 住んでるところがおっきな丸い玉だったんだよ?」

「全くだよ。アタイなんてもうずっと心臓が飛び出しそうだ……」


「なんでって、私が住んでいた地球では子供でも知っている知識だったし、この惑星ほしでも他に大陸有るんだろうなあとは考えていたからね」


「誰しもが高度な知識を備える世界なのに……どうして機兵が開発されてないのか不思議で仕方がありませんわ……」

「それは私も同感だけど、ま、ロボットが実用化されないのには様々な事情があるんだよ。」


 この世界の事情を推測するに、魔物に対抗しうる船を開発するリソースが機兵に全て向かっていった結果、大航海時代が訪れず、そして大戦によって大陸の外に目を向ける余裕は消え去り、大陸外の事はうやむやになってしまったのでは無かろうか。


 一部の学者は天動説を提唱してみたり、地球も星であると研究してみたりしてはいるのだろうけど、やはりそれも『どうでもいい情報』として処理されているのかもしれないな。


 そしてこれは予想だけれども、私達の世界からもたらされた影響が無い別大陸には未だ旧世代の魔物が数多く生き残っていて、そちらはそちらで外に目を向ける余裕が無かったり、魔物に耐え得る遠洋航海が可能な船舶の開発が出来なかったりで未だに大陸間の交流が実現していないのでは……なんて。


 地球のペースで行けばもうとっくに宇宙進出可能な文明が起きるくらい時が経ってるからそれはちょっと適当すぎる推測だけれども……。魔物が居る世界だから何か事情があるのかもしれんなあ。神様が退屈がって私を呼んだくらいだものな。


そしてルクルァシアは『世界を滅ぼす厄災』と呼ばれてはいるが、おそらく他の大陸には見向きもしないのではなかろうか。


 アニメ、シャインカイザーに於いて、ルクルァシアが滅しようとしていたのはあくまでも日本……それもどこかの地方をピンポイントでだ。


 一応は子供向けアニメということで、スケールがやたら小さいことになっているわけだけれども、こちらにやってきているルクルァシアも律儀にそれを守っている可能性は大きい。となれば、他の大陸になど目を向けず、現在我々がいる大陸の滅亡のみを狙っているのではなかろうか。


 ……もっとも、『私達がいる世界』を滅ぼされてしまってはたまったもんじゃないので、全力で阻止させてもらうけどね。

 

 と、気づけばどうやらそろそろドッキング可能な頃合いらしい。話に夢中になっていて気づかなかったけど……ああ、これはまた……実際目にするとやたらと大きいなあ……。


「やっぱり神星とはポーラの事だったんだね」

「カイザー、もうずっと視界に入っていましたからね。ようやく気づいたんですか? 思考に入り込みすぎるのはよくありませんよ」


「ごめんごめん。えっと、ごほん。では【ポーラ】へのアクセス開始」

「了解、ポーラへ接続開始……無線接続を試行しましたが応答は得られませんでした」

「ん、地上からアクセス出来なかったから予想はしてたよ。では有線接続を試してくれ」

「了解。有線通信ユニット射出……対象に到達。ケーブル接続完了……アクセス開始……なるほどこれは」


「なにかわかったかい?」

「輝力炉がほぼ停止状態です。こちらから輝力を提供することにより最低限のドッキングは可能となりますが……」


「よし、ドッキング後、グランシャイナーより輝力を装填開始、最低限の機能の起動が確認でき次第、私とスミレで様子を見に行こう」

「なるほど、我々ならば周囲環境に関係なく行動できますからね」

「うん、元々無人機なのも有るし、何よりこの状況で生体維持装置が働いているとは思えないからね」


となると……この艦の管理者権限は……と。


「キリン、今までの会話聞こえていたよね?」

『ん? ああ、勿論だとも。いやあ、何を言っても君のネタバレになってしまうからね? 口を開かないようにじっとしてるのがもう、大変で大変で』

「キリンストップ。……ええとというわけで、私とスミレはポーラの様子を見に行ってくるから……キリンはこの艦を頼むね」


『了解だとも。大船に乗ったつもりで行ってきた前よ。ああ、これより私はグランシャイナーにメインシステムを回すから、文字通り私が大船になるわけだけれどもね! はっはっは』


 なんだか良くわからないジョークのようなことを言っているが、そこは面倒だから無視をしよう……。


「……カイザー、キリンと遊ぶのは終わりにしてください。これよりドッキングを開始します」

「遊んでたわけじゃないんだけど……。いいよ、カウントダウンどうぞ」

「接続開始……10秒前……3……2……1……接続作業に入ります……コネクタ接続完了……輝力放出開始……ポーラへの輝力供給……成功。現在ポーラの輝力充填率3%……一部機能が使用可能になりました」


「ありがとう。うん、問題ないようだね。じゃあ、みんな。私とスミレはちょっとあっちの様子を見てくるから、君達はここでキリンの指示を聞きながらモニタリングしててね」


「気をつけてくださいね、カイザーさん、お姉ちゃん」

「ああ、お土産は……期待出来ないが、行ってくるよ」


 フィオラのマニュアルは「上陸せよ」「現地にて神託をうけ試練をうけよ」で大まかな指示は終わっているらしいし、後はどうなるかわからない。悪いようにはならないだろうけど、さあ、何が待っているのかわくわくするね!

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