第三百六十六話 空中母艦へ

 パイロット達と別れハンガーを目指す。せっかくだし、ここはゆっくりと艦内を見ながら向かおうじゃないか。


 我々が乗り込んだ場所は機材搬入口で、本来ロボやサポートメカは艦体上部から射出されるように発進し、また帰りもそこから内部に帰還するようになっているため、ここから中に入るのはなんだか新鮮な気分がする。


 艦体上部の出入り口はそのままハンガーと繋がっているため、俺達がここをこうして歩く事を考慮して設計されているわけもなく。移動の最中、何度か低い天井に頭をぶつけそうになってしまった。


 一応、アニメ作中でもカイザー達が艦内を歩き回り、資材の運搬やら艦の修復やらを手伝うシーンがあったから、強度的には多少歩き回っても平気なようには出来ているんだと思うのだが……それでも少しヒヤヒヤするな。。


 いやあ……しかしだよ。これは素晴らしいな。外装こそちょっとびっくりしたけれど、内部はアニメで見た通りの箇所がちらほらあって、なんというか、なんというか、だ!


 これはある意味聖地巡礼なのではなかろうか。ああ、聖地ってそういう……。


「カイザー? なんだか浮かれていますね」

「む、バレてしまったか。ある意味憧れの場所に来れたわけだからな。今だけはカイザーではなく、前世のとして楽しんでしまっている」


「お気持ちはわかりますが、後でゆっくり見て回りましょう」

「しかしだな……」

「グランシャイナーは逃げませんし、何よりルゥの身軽な身体で見学したほうが楽しいですよ」

「む……それは確かに。お楽しみは後に取っておくとするか」


 とは言え、とは言えだ。向かう先にあるハンガー。これはこれで楽しみなのだ。リックの工房に初めて訪れた時も胸が踊ったもんだが、やはりオリジナル……というか、我々専用に作られたハンガーというのはやはり格別だ。


 興奮しないわけがないのだよ。


 逸る気持ちを抑えつつ、ハンガー出入り口前に立つと……


『機体名カイザー、及び僚機を確認しました。お帰りなさいませ、皆様。ごゆっくりお休みください』


 これこれ! これだよ、これ! スミレと何処か似た感じの無機質な自動音声のお出迎え。音声とともにゆっくりと、重たそうに開く分厚い扉! うわあ、これは感動だ。


「スミレくん。なんだかカイザーがやたらはしゃいでいるように見えるね?」

「その通りですキリン。カイザーは暫くこの調子でしょう……」


 うるさいぞ。憧れの艦に乗っているんだ。これがはしゃがずにいられるか。


 ……はああ……ハンガーもやはり素晴らしい……。

 この、何に使うかわからない機材や、どう見たら良いのかわからない謎計器等が収まった壁! 天井からぶら下がる太いケーブルは無駄に多く、壁や床には謎のメカメカしい模様が入っている。


 艦の目覚めとともに起動したのか、小型のサポートメカ達が仕事もないのにせわしなく動き回り、ハンガー中が謎の無駄に溢れていて……これは……素晴らしい……。


「スミレくん……カイザーが良くわからない事に感動しているように見えるのだが?」

「その通りですキリン。恐らくマニアにしかわからない良さを噛み締めているのでしょう」


 だからうるさいってば……。いやまあ、そうなんだけどさ。あんまり無駄無駄って言うと怒られるけど、ほんとムダが多くて最高だ!

 このハンガー、いずれは基地の皆にも披露することになるんだろうけど、リックやジンがどんな顔をするか楽しみだな。いや、その前に艦を見て腰を抜かすに違いない……ふふふ……。


 と、久々にウキウキとはしゃいでいると艦内放送―フィオラの声が聞こえた。


『こちらパイロットチームです。ルゥ達はハンガーで大人しくしていますか? ……ああ、そうかこの放送は一方通行なんだった。ええっと、今からちょっと試練のための儀式を始めるんで、各機自分のスペースに収まっててください』


 なんだか賑やかな感じで一気に喋り、喋り終わると問答無用で切ってしまった。通信で喋れば一方通行になることもなかったろうに、さては艦内放送をしてみたかっただけだな?


 それはそれとして、儀式が始まるとなれば急がねばなるまい。よく見れば既に皆はそれぞれきちんと自分のスペースに収まっていて、フラフラとしてるのはどうやら俺一人だけだったようだ。


「ふふ、子供のようにはしゃぐカイザーなんて新鮮で面白いものが見られたよ」

「うるさいぞキリン……」


 ベクトルはちがうのだが、キリンもまたスミレのようなからかい方をしてくるからたまらない。ああ、キリンが妖精体を手に入れてしまったら、と思うと本当に気が重くなるな……。


 やれやれと俺のスペースに入ると、足や腰、肩に向かって何やら伸びてきてがっしりと固定されてしまった。拘束……というわけではなく、恐らくシートベルト的な奴なのだろうな。


 ……シートベルト?


『こちらブリッジ。全機のロックを確認。ええと……輝力母艦……グランシャイナー起動……発進準備に入ります。んと、艦長代理としてルゥ、急いでここまで来てください。スミレさんも出来れば!(……ねえ、この数字何かな?)(フィオラ……それ発進までのカウントダウンじゃねえか?)(うわ、まじで?)ええと! あと5分……いえ、4分以内に来て! 急いで! ルゥ! 早く来て!』


 何だかな! さてはカンニングペーパーを飛ばし飛ばし読んで適当に進行したな!


 もう! ブリッジには後でゆっくり見学しながら向かおうと思ってたのに、全くしょうがない奴だな!


「スミレ! というわけで急ぐよ!」

「はい。急ぎましょう」


 幸いなことに艦内マップはデータとしてもらっているから最短距離を迷わず行ける……って!


「ああ、ちくしょう! エレベーターのボタンが反応しないぞ! 身体が小さすぎるんだ!」

「カイザー、落ち着いて。私達なら押さなくても艦に直接指示を送ればいいじゃないですか」

「……そうでした。自分がロボなのを忘れてました」


 いやあ、急がなきゃ急がなきゃ! って思ったら頭がぐちゃぐちゃになっちゃって……だめだな。


 上層に到着した私達は急ぎブリッジに飛び込んだ。


「フィオラ! 来たぞ! それで私は何をすればいい!?」


「ええと……あと1分程で発進しーくえんす? が完了しますので、そこの椅子に座ってこのセリフを言ってください」


 差し出された紙には『艦長(代理としてカイザー様(光の女神様))が発進のセリフを言う』と書かれていた。なんだよ、それだけのために呼ばれたのか……っていうか、そうならそうと先に言ってほしかった。これ絶対予習してなかったやつだな~~!


 ……言いたいことはいっぱいある。ある……が、この状況は良しだ! ああ、そうさ! 嬉しくて仕方がないのさ!


 カウントダウンが10秒前に入ると慌ててフィオラがそれを読み上げ始めた。


「……5秒前、4、3、2、1……」


「輝力母艦グランシャイナー発進ッッ!!!」


 って、待って!? ついつい流されるままノリノリで言っちゃったけど……発進しちゃうの!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る