第三百五十八話 情報格差
現在私達は広場で休憩中……というか、状況説明を強いられていた。
「だからね? 外には機兵と言う機神みたいな乗り物があって……」
「まあ、こうやって来てんだから信じるけどさあ……この妖精様はなんなのさ」
「だからカイザーさんは妖精じゃなくてえ……」
必死にサナに説明をするレニー。
そうです、そうなのです。(このまま人形のフリをしてると後々面倒だ)と、早々に正体をバラした私がすべて悪いのです。
レニー達が皆を呼びに行っている間にと、自己紹介をしたら驚く驚く。まあ、私に驚くのは覚悟していたというか、当然だけれども、ここまで情報格差が凄いというか、機兵という概念すら伝わっていない土地だと言うのには驚いたね。
「だから、私は妖精じゃなくて、小さな機兵で……」
「キヘイってなに? 妖精様の種族名なの?」
ときたもんだ。サナに向かって必死に説明をする私を見たバルさんは折角気がついたのにまた気を失うし、それを見たフィオラは大笑いするしもー。
「まあ、ルゥについての詳しい説明は後でいいじゃん! ほら、お姉! それより皆の紹介しようよ!」
「うん……そうだよね。どうせ村の皆にもカイザーさんたちのこと説明しなきゃ無いし」
その一言で、それまで微妙な顔をして様子を伺っていたパイロット達が再起動を始めた。だよね、そうだよね。まるで異世界に来たかのような空気だもんね……。
「ええと……あたいはマシュー・リム・リエッタだ。長いからマシューって呼んでくれ」
「私はミシェル・ルン・ルストニアですのよ。よろしくね、サナ」
「え! ルストニアって……お姫様でしょう? 凄い! レニー、何処でお姫様とお友達になったのさ!」
「ええと、サナちゃん。私もびっくりしたんだけどさ……あのね、ルストニアってもう無いんだって」
「ええー!」
すごい情報格差だよね。フィオラは何故だかある程度、外の事情を把握していたらしいけど、レニーを含めた普通の村人たちが持つ外の情報は数千年もの間、止まったままらしい。
前に何処かで耳にした話しによれば、かつてはこの地にも聖地巡礼者が訪れていたらしいけれど、過去の戦争以降、それも無くなって、今生きている人の中で聖地に訪れたことがある人はいないのだという。
つまり、かなりの長期間、外部からの来客が絶たれているということだよね。その分情報が停滞しているのは頷けるけど、それだけ長い期間、外界から隔離された状態で滅びずに存在しているというのはかなり凄いのではないかと思う。
リーンバイルだって、鎖国していたとはいえ、ちょいちょいこっそりと大陸に来ていたみたいだからねえ。っと、そのリーンバイル代表のシグレが自己紹介を始めたぞ。
「ええと……よろしいかな? 私はシグレ・リーンバイルです。先に言っておきますが、リーンバイルは国家という体は取らなくなっていたのですが、最近また国家として立ち上げようという動きがあります」
「え? リーンバイルが無くなってまた復活して……? ええと、おめでとう?」
そうなのです。リーンバイルは大戦以降、国としての活動を辞め、国を持たない街として存続していたのだけれども、ルナーサやトリバとの交流が再開したのを皮切りに、戦争のこともあって再び国家として立ち上げようという動きがあるのです。
長きに渡って島を息災に納めてきたリーンバイル一族は住人達からの信用も厚く、そのままかつてのように王族として祭り上げようと住人達が張り切っているみたい。
『三カ国同盟』みたいな感じになってるから、トリバやルナーサとしては大歓迎みたいだね。
「ちょっとまって、もしかしてマシューも何かとんでもない秘密を隠してたりしない? どこかのお嬢様とかさあ……」
「え? いやあ、あたいは……。そうだなあ強いて言えばトレジャーハンターギルドの頭領で、ボルツが滅んだ土地に暮らすリム族出身だっていうくらいだぞ」
「ええ!? ちょっとまって!ボルツって無くなったの? ええ? どうりでずーっと商人たちが来ないわけだよー」
「お前は一体何歳なんだよ!?」
「え? いやー、大人達がもうずっとこないねーって」
「ボルツ無くなったのって、お前の爺さんの爺さんの爺さんの爺さんの……ってくらい前だぞ」
「ええーー!!」
そんな会話が続いたものだから……。
「ええと、アタイはラムレット・ロッパーだ。面白くもなんもない、しがない酒屋の娘さ。よろしくな」
「ラムレットさん……私はアンタ好きだよ……」
「ええー!?」
「レニーの仲間にちゃんと普通の人もいるんだなってほっとしたよ……」
まあ、その後『ルナーサ領の酒屋だよ』と、要らないことをいってしまったものだから『ルナーサって何処?』と始まって『ルナーサはかつてのルンシールですわよ』とミシェルのアシストが入ったものだから『ええー!? ラムレットさんも普通じゃなかった!』となってしまったわけですが。
住んでる場所の地名が変わっているってだけで、ラムレットは普通の娘さんなんだけどな……。
「で、私だね。私はカイザー。この姿でいる時はフィオラから『ルゥ』って呼ばれているけど、本体はあっちのでっかい白いやつだからね」
「えっと、ルゥは妖精様で機神様なの?」
「機神様ってのは知らないけど、あのデカいのも私だよ。私は身体を変えられるんだ」
「ふうん???」
「で、そこでかくれてみてるのがスミレ。おい、スミレ! 出てきなよ」
「まったく……。私が出ていくとややこしいことになるでしょうに……。こんにちは、お嬢さん。私はスミレ。カイザーの戦略サポート……いえ、カイザーの相棒ですよ」
「わあ! 妖精様がまだいたの!?」
「いえ、ですから我々は妖精では……ああ、カイザー。僚機の紹介をすれば理解が深まると思いますよ」
「それは思ったんだけど、分離しなくてはいけないでしょう? 二度手間になるしさ、それは村に行ってからにしない?」
「成程、たまにはカイザーもまともなことをおっしゃいますね。手間が省けてよろしいです」
「その言い方は少し引っかかるけど、そういう事。そろそろバルさんも目を覚ましそうだしね」
大きいのが沢山ワイワイやってる中目を覚ましたらまた気を失うだろうし……控えておいたほうがいいだろうさ。
そしてまだどうも理解が追いついていないらしいサナを連れ、村に向かうことに。まだ少し距離があるようなので、
「ねえ、サナ。よかったらあのおっきいのの手に乗って帰るかい?」
と、提案してみた所、大喜びで了承してくれたので、バルさんと一緒に手のひらに載せて運ぶことにしたんだけど……。
「わー、凄い! 本当にこれレニーが動かしているの?」
『そうだよーってサナちゃん動いちゃ駄目! 落ちるから! バルさんみたいにじっとしてて!」
「バルさんみたいにって、気を失ってるだけじゃん……」
喜んでくれてなによりだが、落ちないようにな……。流石にこの高さから落ちるとシャレにならん。
そして15分ほど歩いたころ、森の奥に畑が広がっているのが見え始めた。更に奥には家がそこそこ立っているのが見えた。どうやらレニーとフィオラの故郷に到着したようだな。
レーダーを見る限り、思った以上に人間の反応が映り、想像していたよりも人口が多いことが判明して大いに驚いた。
……バルさんは未だ目を覚まさないままだけど……サナが居るからきっとフォローしてくれるはず……うむ。
しかし機兵が認知されていない土地で数千年もの間情報が断絶している土地か……大戦をきっかけに断絶したのであれば、機兵の事を知らないというのは不思議な話だが、俺を見て『機神』と呼んでいたのも気にはなる。何かし……神様絡みの事情があるのかもしれないな。
……なんにせよ、ここは他の土地と大きく事情が違う。なんだか緊張してきたぞ……。
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