第三百五十五話 器用貧乏
訓練を終え、通常空間に戻ると、それを合図にキリンも作業を終了させて元洞窟最奥部、現在私達が野営場所に使っている広場に戻ってきた。
「やあやあお帰り。何やら面白い事をやってたみたいで羨ましいよ。ああ、いや、そんなつもりはないからね。私は掘削作業が楽しくて仕方がないのだから。掘削中得られる資材は大体が石材なんだがね? ちょいちょい未知の鉱物が顔を出してくれてね。いやあ、ストレージが潤う潤う……っとすまないね。私の口にはブレーキがついていないのだよ」
「……ああ、うん。おつかれさま。少しでもルクルァシアに備えようとVR訓練をしてたんだけど……ちょっと意見を聞かせて欲しいんだ」
シャインカイザーの話は置いといて、キリンの訓練についてざっくりと説明をした。キリンから直にデータをDL出来ない以上、訓練時にフィオラ達が乗るキリンは、不完全な【暫定版】だ。
もしも、まだ私達がキリンから聞いていない秘められた能力があるのならば、勿論それは再現不可能だし、それを前提とした運用方法があるとするなら、今聞いておかないと、本来の性能を活かせない誤った訓練を続けてしまうことになる。
もう既にキリンに関するネタバレについては諦めたし、ここはもうぶっちゃけてもらおうと思ってね、訓練データを渡した上で、実際のスペックと剥離していないか、なにかもっと良い戦い方が出来るのかと……尋ねてみたんだけど……。
「ん、今スミレから訓練データをもらったよ。いやあ、面白い事してるねえ。この大きなスミレ、いいねえ、最高だよ! 我々も人型巨大兵器と呼べる物だが、このスミレ君はどうだ。人が持つ美しさとロボットが持つ強さを兼ね備えた素晴らしい出来では無いか! ああ、どうにかこれを現実世界で建造できないものか? そうだな、素材としてはこの未知の金属を……」
「キリン」
「お、おっとすまない。ううん……非常に申し上げにくいのだが……」
キリンがなんだかバツが悪そうな感じで言いにくそうにしている。
「なんだよ、ハッキリ言ってくれ。私達の運用法に間違いが有るなら直さないと今後の支障になるからね。ほら、遠慮なく!」
「いやその……なんだ、悲しいほど私のスペックを再現しているよ、このキリン【暫定版】はね」
「えっ……」
「ああ、いやそう肩を落とさないでくれ。君達が真に力をつければ……私ももう少し戦えるようになるはずなんだけどね。現状ではフィオラ君達が乗っていたシュトラールより若干性能が上……といった程度だろうか。ああ、勿論それは純粋な戦闘スペックに限った話だよ。そもそも私という機体はだね……――」
しばらくキリンから説明をしてもらったけれど、やはりキリンというのはシャインカイザーのサポートメカと言った扱いで間違いはないようだった。それでもシュトラールよりは戦闘力があるし、扱う武器次第ではちゃんと戦力になるのだという。
「そもそもの話、それぞれ何かしらの能力に特化されている君達や、それの相手として組まれた仮想機体【スミレカイザー】と、単体である私を比べるのはひどくないかね!? カイザーだって、私と似たようなスペックではあるけれど、それでも戦闘型なんだ、例え、強化前だと言っても私より強いのは当たり前だと思うのだよ」
ああ、そいつぁごもっともで。
「いやまあ、神獣形体で戦うというのは……私も経験が無いから新鮮だったけどね。成程たしかにあれなら高機動の相手でも対応は出来るね。ヤタガラスと対等にやり合える可能性を秘めていると知れたのは嬉しかったよ。まあ、問題は壱型には装備出来る武器が無いということなんだが」
なかなか強力な性能を持つ幻獣形態なのに、原作アニメで戦闘に使っていないとはどういうことなんだろう。突っ込んで聞いちゃうとシナリオのネタバレに繋がりそうだから言わなかったけど、ちょっと気になるな。
いや、それも気になるけど、必要なのは武器だよね。幻獣形体はともかくとして、ロボ形体で使える装備が無いのは困る。キリンがかぶっていた巨大な動物? はどうやって仕留めたのかと聞いたんだけど
「ああ、麓で拾った樹木を杖代わりにしてたのだがね? 服を作るために毛皮を得ようと思った時に、しょうがなくそれを使って仕留めたのだよ」
「……毛皮に棍棒って自ら鬼の姿に近づいてるじゃん。なにやってんだよ……」
「はっ!? そこに気づくとはカイザー、さすがだね! いやあ、せめてもう少し文化的な石槍に加工すべきだったか」
と……なんだか非常に疲れる会話になってしまった。しかし、それがヒントとなってキリンの可能性に気がついた。棍棒にヒントを得て金棒を使う……という話ではなく、キリンの特性を活かすというお話だ。
キリンが言っていた通り、ウロボロス達、僚機の皆はパワー型、スピード型、飛行型と、それぞれ得意とする物を持つ特化型だ。原作ではそれぞれ機体に合わせた武器を装備して、それはそれは素晴らしいパフォーマンスを発揮していたもんだ。
それに対してキリンは純粋な器用貧乏で、強いて言えば支援特化型というのだろうか。
純粋に戦闘面で見れば、カイザーの下位互換……という言い方は良くないけれど、私からメイン機体という最大の魅力を抜くと近いスペックになるのだとは、先にスミレ先生が言ったとおりのお話で……。
でもだよ、器用貧乏は逆に言えば万能なんだ。そう、どんな武器でもある程度対応可能なんだよ。ウロボロス達もパイロットにあわせて好き勝手装備を選んで使っているけれど、ほんとは機体性能に合わせた武器を使った方がよりパフォーマンスが上がるんだ。
でもウロボロスたちと違って、キリンは原作仕様でもソードでも弓でもなんでも来いのオールラウンダー。そしてキリンはデカい! シャインカイザーと同じくらい大きなその機体であれば、大型のソードも軽く振り回せるし、土木作業も可能なだけあって、繊細な操作が必要となる弓だって上手に扱うことが出来る。もちろん、その気になれば格闘術だってこなせる……というか、あの巨体を見るにかなりの威力になるだろうさ。
ただ、戦闘タイプである俺達と比べた場合、特に特化型である僚機のみんなと比べた場合にその性能差で劣ると言うだけの事なのだ。
そういうことであればシュトラールが使っていた装備をそのまま使えるわけで。でもせっかくだからキリンの体格に合わせた装備に改良すれば、今よりもっとパフォーマンスが上げられるのではいかと思ったんだ。
キリンは武器を作ることは出来ないし、いくらWorkshopを使ったとしても1から専用装備を作るのは時間がかかってしまう。でも、改良ならそう時間はかからない。
「みんな、休んでいる所をすまないがちょっと手伝ってくれ。シュトラールの装備をキリン用に改装するぞー」
私の呼びかけを嫌がるメンバーは誰もいなかった。皆嬉しそうに快諾し、キリン専用の弓と大剣が完成したのだった。
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