第三百五十四話 キリンの機体性能
キリンの機体性能が低い……というわけではないけれど、4機合体しているシャインカイザーに比べるとどうしても性能差が現れてしまう。
いや、非合体時の僚機達と比較してみても、やっぱり若干性能で劣っているように感じるんだ。それがサポートメカの宿命なのかも知れないけど、キリンは新型機体だろう? それでも、きゅ、旧型……の、私達より劣るという事は無さそうなんだけどなあ。。
今日のところは取り敢えず私やスミレが測れる部分で能力を見て、訓練終了後にキリンから話を聞いてみることにした。
「よーし、ではシャインカイザー組はスミレの指示どおりにスイッチングの訓練をしててくれ。私達はちょっとキリンを見るからさ」
あちらもあちらでアドバイスを続けたいところだけど、まずはキリンだ。幸いVR空間は体感時間を調整することが出来る。今日のところは通常速度で軽く流すに止めるけれど、明日からはじっくりと訓練が出来るように調節するつもり。ふふふ、時間はたっぷりとあるのだ、みんな頑張って強くなるんだよ。
「フィオラ、ラムレットちょっとこっちきて」
通信で呼びかけると直ぐにこちらにやってきた。
その動きを見る分には、機体性能は決して低くはない。低くはないのだけれども、びっくりメカめいた変形に比べると普通すぎるというか、これで後継機ポジションなの? と感じる程に今一つなのは明らかだ。
「取り敢えず普段どおり、機動訓練をしてみてくれ」
キリンのメイン装備がわからないため、取り敢えずソードを召喚し手渡した。
……キリンが言うには、俺達の装備は大体装備出来るらしいからな。ずるいというかなんというか、これが……新型の力って奴か! なんてちょっぴり嫉妬しちゃうよ。
なんて事を考えていると、ブンブンと剣を素振りし、その感触を確かめている姿が目に映った。剣が得意なのはどちらかと言えばラムレットだったけど、シュトラールの訓練のお蔭で今ではフィオラもそれなりに剣を振れるようになっている。二人から話を聞いた限りではキリンの操縦感覚はシュトラールとそう変わらない感じみたいで、ちょいちょいと、メインコントロールをスイッチしながら器用に機体を動かしている。
それこそ、レニー達が今必死で訓練している操縦を元から二人はやっていたわけで、シャインカイザーのパイロット達よりも一歩先を進んでいると言ってもいいね。
(こうして見ている分には、そう悪くはない機体性能なんだけどな……取りあえず実戦形式でチェックしてみますかね)
「仮想敵出すよー。まずは1体」
まずはジャブ代わりにブレストウルフを召喚。今までの戦闘データから生み出した平均的なスペックの個体と戦ってもらう。
うん、悪くない。悪くないが……良くも悪くも普通。これならシュトラールとそう変わらない。危なげなく一閃して撃退しているあたりは素晴らしいけど、機体性能と言うよりパイロットの腕前だなこれは。
続けて出したヒッグ・ホッグも難なく片付けたので、今度は射撃武器、リボルバーを手渡してキランビを召喚する。
これもまた、割とあっさり撃破したね。フィオラが持つ狩りの才能、弓で培った未来位置の予測がうまくハマった結果なんだろうな。
「よーし、次は難しいぞ。覚悟してかかれ」
『え……これって』
『ガアスケじゃないか!』
ヤタガラス、ただし帝国の諜報として敵対していた頃のヤタガラスだ。ロボ形態には変形せず飛行形態で戦う難敵だぞ。
まずはヤタガラスの攻撃からスタートか。このヤタガラスには少し手を加えてあって、飛行形態からクナイを射出する事ができる。まるでバルカンを撃ちながら飛行する戦闘機のような具合だけれども、どうかな、避けれるかな?
『ちょ、これ、ずるい! 避けるので精一杯だよ!』
「ほらほら、反撃しないとヤタガラスを倒せないぞ!」
『そんなこと言っても……こいつ、速くってさ! ガアスケ! お前そんな攻撃したことないだろ!』
そしてじわじわとクナイで削られ、とうとう大破判定をうけてしまった。
「どうだい、つよいだろう? ヤタガラスは」
『シグレさんは頼りになると思ってたけど、敵として戦うとこんなに手強いんだね……』
『ちくしょう! もっかいだ! もっかい!』
勿論、再戦はしてもらうつもりだけれども、ちょっと待ってね。先に難しい顔でデータを取っていたスミレさんの意見を聞いてみようじゃないか。
「さて、スミレ。君はキリンの機体性能をどう見る?」
「キリンの全機能を把握していないため、現状からですが、分離状態の我々とそう変わらない能力は出せていると思います。しかし、あくまでもカイザーの下位互換、僚機が見つかっていなかった頃の器用貧乏なだけだったカイザーと同等……といった評価ですね」
……その判定は地味に私にも刺さるのだが。
「うーん、そうですね。では二人共。変形して戦ってみてもらえますか? 今外で働いているアレではなく、もっとスマートな形体ですよ」
『変形ね……えっと、これを押して』
『なんだっけ、そうだ叫ぶんだったな! 行くぞフィオラ!』
『うん!』
『『チェエエエンジ! MODE:KIRIN 壱の型!』』
いや別に叫ぶ必要はないんだけど……私が嬉しいから突っ込まないでやらせておく。 現在、現実空間で元気に働くずんぐりむっくりなアレではなく、スラリとした脚を持った……私的にはビールのラベルでおなじみのあの形態、竜と鹿を足したような姿が現れた。
「その形態では余り動いてないでしょうから、まずは準備運動がてら走ってみてください」
『言われてみれば変形して動いたことなかったね』
『試しに変形してちょっと跳ねたくらいだったもんな。よーし、走るぞ』
うっわ、なにこれ……はっや。スラスターで滑るシャインカイザーに匹敵する速度で地を駆けているじゃない。これって……もしかして変形したカイザーよりずっと速いんじゃ。
「カイザー……貴方、馬失格ですね。見てくださいあの速度。馬の貴方より大分速いですよ」
「馬じゃないし! ユニコーンだし! いやでも言いたいことはわかるよ。なにあの子……むっちゃはええ……」
「はい、では仮想敵【ヤタガラス】を再召喚しますよ。そのまま戦ってみてください」
『え、ええっと武器は武器は……』
『取り敢えず角か? 頭の角で狙うか? って、クナイが来てるぞ! 避けろー!』
うん、かなりいい。やばいこれ、ロボ形態よりよっぽど動きが良い! 軽やかなステップでクナイをひょいひょいと躱している。 ……躱しているだけで飛んでいるヤタガラスには手も足も出ていないけどね……。
『うーん! 空ずっこい! もーーー! 飛べないなら跳んじゃうぞ!』
『飛べないなら飛んじゃう……? ああ! 飛ぶじゃなくて跳ぶか! ようし!』
いいね、息がピッタリじゃないか。ヤタガラスの高度はそれほど高くはない。確かに跳べば届きそうだけど、果たしてうまくいくかな? 空中では避けようがないんだぞー?
『『うおおおおおおお!!!』』
な……なるほど、そう来たか。ヤタガラスをビルエリアにおびき寄せ、そのビルを足場にヒョイヒョイと上に上にジャンプで移動をしている。アクションゲームで見られる三角跳びの様でもあるし、崖を気軽にひょいひょい飛んで移動するヤギや鹿のようでもある。
空中を立体的に移動しながらぐんぐんヤタガラスに迫っていく。ヤタガラスはそれを嫌って急降下で距離を取ろうとしたが……それは悪手だろう。ほら。
ビルを蹴り下に向かって飛び降りたキリンがぐんぐんとヤタガラスに迫る。慌てて方向転換をしようとしたが、間に合わないな。うっわ、エグい。キリンの角がぐさりと羽根を貫いてもろとも地上に真っ逆さまだ。
「……引き分けですね」
『なんで!? 倒したよね? 落としたよね!?』
『あの手応えなら確実に仕留めたはずだぞ!』
「あー、君達。 君達だって落ちたんだよ? 大破判定がでているよ。 コクピットは緊急射出され、機体は大破。勢いをつけて飛び降りたため、輝力炉は8割が破損。修復まで最速で5日はかかる大怪我だね」
「敵の前でこんな真似をしてしまえば機体は追撃を受け破壊されてしまうかも知れませんよ」
「なにもさ、パイロットの君たちまでキリンの真似して落下ダメージで大破しなくてもいいだろ」
『ぐ、ぐぐぐ……』
『そうか……落下ダメージな……考えてなかったよ……』
なんというか、この子達を見ているとレニーとマシューの訓練を思い出して楽しくなるんだよな。いや、面白がってちゃダメだ。ちゃんと反省させないとね。
「機体はよほど酷い壊れ方をしない限りは直るけど、フィオラ達はそうじゃないんだ。仮想空間だから無事だったけど、これが実戦だったら大怪我していたかもしれないよね」
『う……そうだね……うん、ありがとうルゥ。気をつけるよ』
『キリンもあんなだし、アタイ達なら仮想空間じゃなくてもやりかねないからね……仮想空間でやらかしておいてよかったよ』
さて、これで基本的な能力値はわかったぞ。
現状を鑑みるに、ロボ形体よりキリン形態の方が今のところは戦力になりそうだけど、きっとその考えは間違っているはずだ。ロボットアニメの花形である、メイン形態でまともに戦えないなんて事は無いはずなんだ……そうさ、キリンにもきっとなにか上手く戦う方法があるはずなんだ。
まずは今回の訓練結果をキリンに報告しつつ、意見をきいてみよう。
きっと、良いアドバイスをしてくれるはずさ。
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