第三百五十一話 新装備開発

 立ちはだかる岩の壁、それを乗り越えるべくキリンが提案した打開策はまさかの『掘削』で……それを成す道具を自作するのだと言うのだから驚いたのだが……――『なに、作業場なら心配するな』と、『ワークショップ』なる形態に変形したのだから、ネタバレを叩きつけられた俺は驚くというよりも酷く酷く狼狽することになったのであった。


 というわけで、現在洞窟の中に突如現れたシュールな工房……という物の中でパイロット達が一丸となり、掘削機を製作中なのだが……。


 いやほんとにこれシュールだぞ。前人未踏の洞窟最奥部にこんな立派な工房があっていいものだろうか? 詳しい仕様については、余計な口を滑らされては敵わないのでキリンに尋ねることはしていないけれど、見た感じ我々のメンテナンスは勿論の事、素材さえあれば新たな機体すら組めそうな程に設備が整っている。


 工房を照らす大きなライト、パーツを釣り上げるクレーンなどが配置されている他、輝力炉をエネルギー源とした電動工具達がずらりと並んでいて、普段似たような魔導具でメンテナンスをしているマシューは誰よりも目を輝かせ、嬉しそうに腕を奮っている。


「いやあ! すげえよ、すげえよ! この道具達! じっちゃん達に教えたら悔しがるだろなあ……きっしっし」


 スミレとウロボロスが設計した図面にキリンが案を加え、ミシェルが適切な素材をストレージから取り出してこれはどうか、あれはどうかと提案している。シグレとラムレットが加工したパーツをマシューとレニーが組み上げ、じわりじわりとだが、通常よりもハイペースで新装備が開発されていく。


 さて、手が空いているは何をしているかと言えば、フィオラと二人おさんどんに精を出している。私だって手伝いたい気持ちはあるんだけど、この体ではとてもパーツの加工はできないし、カイザーになって動けば逆に邪魔になってしまう。そしてブレーン役は優秀な方々が3人もいらっしゃる……となると、私の出番はないわけで。


 ならばならばと、同じく手を余していたフィオラを誘って軽食を作ることにしたんだ。


「で、なんでご飯を丸めるの?」

「こういう時はオニギリって相場が決まってるのさ」


 にっちらにっちらとご飯を握り、オニギリを作っていく。まあ、私の手は小さいので、皆の分を握っているのはフィオラなんだけどね。

 

 そんな私が作ってるのはスミレと自分用の小さなおにぎり。細かく砕いたごはんをにっちらにっちらと握ってミニオニギリをせっせせっせと作っているんだ。


 並行して温め中だった豚汁もいい香りを立てている。遠目にマシューとラムレットがそわそわし始めてるのがわかる。良い頃合いだし、そろそろ声を掛けるか。


「おーい、みんなー。休憩にしよう。オニギリと豚汁ができたよーう」


「「「わああ!!」」」


 腹ペコ達が嬉しそうに駆け寄ってくる。小腹がすいた所に味噌汁の香りは反則級に効くからね。


「はい、スミレもお疲れ様」


 私が作った特製ミニおにぎりを見てスミレが嬉しそうな顔をしている。


「まあ、凄いですね。私サイズのオニギリですか」

「ああ、私達でもそれらしく食べられるようにね。ご飯を砕いてみたんだよ。どうかな?」

「ふふ、美味しいですよ。ありがとうございます、カイザー」


 わいわいとしながら食べていると、刺すような視線が……うっ……キリンか。


「……どうしたんだい、キリン。そんなに見つめられると穴が空きそうなのだが」


「いやあ、その妖精体、ルゥちゃんモードは興味深いね。成程、食事も可能なのか、羨ましい限り」

「食事が可能というか、実際そのためにスミレにねだったようなものだからね」

「そういえばそうだったね! ううむ、スミレ! いつか私にもどうか! その妖精体を、義体を作ってくれないかね! 食事というものには前々から興味があってね、いつか体験出来たらなと思っていたのだよ!」


 面倒なのに面倒な興味を持たれてしまった。他の僚機達は別に興味を持たなかったのに、やっぱキリンは変わっているなあ。


「……そ、そうですね。色々片付いて暇になった後でなら……考えなくもありません」

「うむうむ! そうやってボカした返答でも嬉しいよ。またいずれ頼むからね!」

「え、ええ……善処します」


 スミレが若干押し負けている……! これは珍しい光景だぞ……。しかしスミレよ。キリンには悪いがすべてが終わるまで耐えてくれよな。もしキリンが妖精体になったとしたら……四六時中私やパイロット達の間をチョロチョロ飛び回りながらずっと喋るんだぞ……。


 それは……ちょっと大変だから……せめて、せめて世の中が平和になった後まで耐えて欲しい!


◆◇

 

 作業はどんどこどんどこ進んでいく。二日目からは作業がより大掛かりになり、俺もカイザーとなってそれに参加することになった。主にドリル部分の加工を担当することになったのだが、その素材として白羽の矢が立ったのがヒッグ・ギッガの牙。


 まさかアレがこんな所で役に立つとはな。リックへのプレゼントということで、素材はあらかた基地に置いてきたのだが『つうかこんなにいらねえよ! ありがた迷惑とはこのことだぜ! ああ、ああ、本気で邪魔くせえから半分は持って帰ってくれ!』と、半分以上……戻されてしまったのだ。


 あまりにも混沌としているストレージをスッキリさせたくて、無理にでも全部押しつけようと頑張ったのだが……本当に迷惑そうな顔をされたからな……まあ、結果としてこんな所で役立っているのだから、押し返されて正解だったというわけなのだが。



 そしてさらに1日が経ち――洞窟内に歓喜の声が響き渡った。


「「「できたあああ!!」」」


 とうとうというべきか、もうと言うべきか。3日という、恐ろしい速度で新装備『カイザードリル』が完成したのだ。


「凄い……本当にできちゃった」

「何いってんだレニー! あたいや皆が居るんだぞ! お前だって大活躍だったろ!」

「でも正直驚きましたわ……まさかこんな早く出来るなんて」

「未知の道具のおかげでもありますな。キリンの道具は凄まじいでござる」

「うんうん、私もオニギリ握った甲斐があったよ!」

「そうだな、フィオラとルゥの差し入れには助けられたよ。ありがとな」


 出来上がった物はドリルと言ってもロマン溢れるあの形ではなく、一般的にトンネル掘削機等と呼ばれるようなものだ。しかし、よく見れば中々に厳つい形をしていてかっこいい。

 うまく使えば戦闘にも使用できそうだし、これはこれで見ているだけでワクワクしてくるな。


「では、今日はこのまま自由時間にして掘削作業は明日より開始としよう。皆よくやってくれた。後はゆっくりと休んでくれ」


「「「はい!!」」」


 想定しているトンネル掘削作業完了までの時間は凡そ35時間。大体1時間に10mずつ掘り進む計算になるが、パイロット達の休憩も必要になるため、余裕を持って5日間かけて掘り進めることに決めた。

 制作時間を合わせれば脱出までにけっこうな日数をかけてしまうことになるけれど、ここで穴を掘っておけば帰りもまた使うことが出来るからな。


 山側のルートを整えれば今後はもっと楽に村へと行くことが出来るようになるだろう。もし、村の人達が好んで外界と断絶した生活をしているわけでないのであれば、リムールとの交易路を作るのも悪くはないだろうな。


 ただ、リムール側の入り口がかなり高いところにあるのはいただけないので、もしそういう話になった際にはリムール側も低い位置に入り口を作るか、レニー達が使ったという洞窟を調査して拡張する必要があるな。

 

 とは言え、まずは明日からの掘削工事だ。事故が起きないよう、気をつけねばな。

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