第三百四十八話 ファントムペイン

「おお! 君たち中々やるではないか。初めてにしては上出来だよ」


「へへーん。元々似たような機体に乗ってたからね。今日のために訓練してたようなもんだよ」

「だな、ってかさ、シュトラールより動かしやすいよな!」


 キリンに乗り込み、親しげに話しているのはフィオラとラムレット。まるで用意されたシナリオをなぞっているかのように、新機体と新パイロットが丁度揃ってしまって、唐突に戦力増強が叶ってしまった。


 ようやくこの世界の言語を理解できるようになったキリンは、現地民……ブレイブシャインのメンバー達と話が出来るのが嬉しくて仕方が無いのか、いつにも増して饒舌で……私は朝からずっと無い胃がキリキリとするような感覚に悩まされている。


 そう、キリンが異世界言語を習得した、してしまったのだ。


 私が持つ言語システムをキリンに上げられれば楽なのにと思っていたのだけれども……それが出来ちゃったんだよね。


 そう、此方からキリンのデータを読み込むことは出来なかったけれど、キリンがこちらのデータを読み込むことは出来たんだよ。

 キリンが持つカイザーシステムは私達の物よりバージョンが新しい物。スマホなんかでもそうだけどさ、最新OSじゃないとインストール出来ないアプリはあっても、旧バージョンじゃ無いとインストール出来ないアプリって開発が止まって対応出来ないという場合を除いてないでしょ?


 それと同じ事で、下位互換……っていうとなんかムカつくけど、こちら側のデータは問題なくインストールすることが出来たんだよなあ。


 なんかこう、もやもやっとするけどさ、異世界知識、言語を含めたこの世界の情報を渡すことが出来てほっとしたよ。キリン単体で意思の疎通が出来ないのは面倒だし、知らずに変な事をやらかされても困るからね。ほんと知識は宝だよ。


 てなわけで、色々と知識を得た上にパイロット達とも会話可能になって、ご機嫌過ぎるほどご機嫌なキリンが朝からもう、ずっーーーーとペラペラペラペラと、何かしら質問したり、逆に答えたりしてるもんだから……いつネタバレが聞こえてくるかかヒヤヒヤしてるんだよね……もういっそ音声の受信を遮断しちゃおうかしら……。


「キリン? おしゃべりも良いけど、ちゃんと訓練してやってくれよ? 明日には村に向かって洞窟を進むんだからね」


「わかっているよ、カイザー。いやしかし素晴らしいな! パイロットが居るというのはやはり違う! バージョンアップされてパイロット登録がされて無くとも動けるようになっているとは言え、やはり心の穴が埋まる感覚というのだろうか? 居るのと居ないのとでは大きく違う! それに見たまえよ! フィオラとラムレットを! 初めてだというのに、なんと言うことだろう! ツインシャイニーシステムを完全に使いこなしているではないか! あちらでの私のパイロットであるアーシュとアーニ……」


「わー! わー! だから喋りすぎんなって! バカ! ばかばか! キリンのばーか!」


「はっはっは、その姿のカイザーはまるでそこらの少女のようで愉快だな。ああいや、すまない。そうへそを曲げるな。私が悪かったよ。つい口が滑りかけたのは本当に許して欲しい」


「まったく……」


 キリンと居ると調子が狂うな! 嫌な奴とは思っていないし、寧ろこの手のキャラは好きなんだけど……あーもう! 早くネタバレを回避してこのストレスから離脱したいよ。


「ふふ、子供みたいで可愛いですよ、ルゥちゃん」

「スミレまで! もー!」


 ……というわけで、今日はフィオラとラムレットの訓練として1日開けることにしたんだ。と言っても、シュトラールでの経験があったおかげで問題なく乗りこなせているみたいだけどね。


 そもそも、シュトラールを含めた新型機兵の操縦システムはカイザーシステムをほとんどそのまま移植したようなものだからね。輝力か魔力かの違いだけで、後はほとんど一緒。お誂え向けに登場したキリンはシュトラールがそのまま輝力で動くようになったようなもんだから、動かせないわけがない。


 一応、輝力と魔力とでは制御方法が若干違うみたいなんだけど、今の所問題なく動かせているようだね。2人のセンスがいいのか、私達と共に過ごして輝力慣れしてたのが良かったのか。どちらにせよ、二人がきちんとパイロット登録出来てよかったよ。


 特にラムレットが正規メンバーになれたのがうれしいね。


 彼女はどこか一歩引いてレニー達を見ているフシがあったからね。『憧れのブレイブシャインに私が!?』なんて喜んでは居たけれど、乗っている機体は我々とは違うこちら産の機体で、当然合体は不可能だ。

 私達が合体する度に羨ましそうにみていたからね……考えてみれば結構寂しい思いをさせてたんだなって思う。


 ……しかし合体かあ。恐らく……いや、間違いなくキリンも私と合体するんだろうね。最終決戦お約束のファイナルフォームってやつだ。アニメ最終話だと確か新装備でルクルァシアを倒していたけど、お約束のファイナルフォームは登場しなかったんだよな。


 良くある『新しいおもちゃは2期で出すよ!』って感じだと思ってたんだけれども、結局私が生きている間には2期というか、後継作すら作られなかったし。ロボットアニメ自体が下火になってたもんな……はあ、世知辛い世の中だよ……まあ、私の死後、劇場版がでてくれたみたいだけどね! くそ! くそ!


 ただ、今のところは合体は不可能だろうな。そもそもOSのバージョンが違うもの。あちらからアクセスできるだけじゃだめなんだ。私が、メイン機体となるカイザーがあちらにアクセス出来なければどうしようもないからね。


 そんなこんなの問題を解決する鍵、それはきっと村にあるんだろう? どうせ神様がさ、なんか仕込んでるんだよ。だって聖地だぞ? わかりやすく岩山に囲まれた土地なんだぞ?

 飛空挺でしか行けない場所には大事な物がある……ってそれはRPGの話だけれども、この流れからしてキリンを運用するために必要ななにかが村にあることはもう疑いようが無い。


 だってあの神様だもん。


 それに当初の目的である円盤も勿論興味深い……というか今直ぐにでも見たい!


 ちなみに洞窟の脱出ルートは既に確保してある。キリンのデータをダウンロードすることは出来ないけれど、キリンが投影したデータを閲覧することは出来るからね。彼女が投影してくれた3Dマップをスミレがスキャンをするという荒技で地図データを手に入れたんだ。


 なんというか、モニタをカメラで写したような残念感があるけど、そこはそれ、謎パワーでしっかりと綺麗なデータに清書できるからおっけーなのさ。


 キリンが最初に落下という、エクストリームな入り方をしたというだけあって、出口と思われる部分がちょっとキツそうにみえるけれど、シャインカイザーになれば飛んで上がれるし、それが出来なくとも最悪ヤタガラスに上がって貰えば後はワイヤーを垂らして貰うなりなんなりできるから問題無さそうだね。


 さあ、まってろよ私の劇場版! いや、ちがった。ルクルァシア打倒の鍵達よ! 必ず手に入れてやるからな!

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