異世界輝神シャインカイザーR

第三百三十六話 リムールでの休暇

　リムールには２泊して明後日の朝に経つ予定になっている。マシューの里帰りを兼ねて生まれ変わったリムールを視察するためにちょっとだけ長めに滞在することにしたんだけど、実はそれ以外にもここで２泊するというのには重要な理由があるんだ。

　レニーとフィオラから彼女達が住む村について聞いた時にはびっくりしたよ。２人の故郷はここからさらに北、あまりにも険しすぎて立ち入るものが居ないとされる雄大な山の向こう側に有るみたいなんだ。

　フィオラがこちら側へのルートを簡単に話してくれたんだけど、実は村からこちら側、旧ボルツ領に抜ける道は一応存在しては居て、彼女やレニーはそこを通って村からこちら側にやってきたんだってさ。

　ただ、長い間誰も使っていない道は荒れ果てていて、抜けるのに酷く苦労したと行ってたっけな。

　そして苦労に苦労を重ねてようやく抜けた先が旧ボルツ領だよ。荒涼とした赤茶けた大地を見て心が折れそうになったってフィオラが顔をしかめてた……。

　それでも、レニーを見つけなきゃと、持ち前の気合とサバイバル能力を駆使してスガータリワに抜け、そのまま南下をしてなんとかサウザンにたどり着けたんだってさ。

　旧ボルツ領東部がどんな状態なのかは、きちんと調査はしていないからわからないけれど、フィオラの話を聞く限りではあまり良い状況とは言えないよね。よくもまあ無事にたどり着けたものだよ。

　そういえばその話を聞いた時、何か引っかかりを覚えたんだよな。

　なんだろうなって思ったんだけど、それは村が位置する場所だったんだ。以前レニーから話してもらったこの世界の歴史、例の大噴火の後、私が眠りについてからどのようなことがあったのかを聞いた際に『聖地』と言う単語を耳にしたんだよね。

『ボルツは大陸の北部、聖地に隣接した土地に国を構え……』

　大陸の北にあるのはボルツ領と聖地。つまりレニーの村というのは……聖地と呼ばれている地域なのでは？

　まあ、そんな具合にレニーの故郷聖地説が私の中で持ち上がったわけだけれども、円盤が奉納されているのはほぼ間違いないし……多分、それであっているんだと思う。

　おっと話が横道にそれかけた、それで問題はその村の場所なんだ。険しい山の向こう側に有るってことで、道中厳しい環境にさらされることは確かだ。私達は機体にのって飛行していくから徒歩より大分安全で楽だけれども、ここからも薄っすらと見えるあの高い山脈はカーゴを抱いた状態で飛び越えるのは様々な事情から無理と判断した。

　もしもカイザーチームだけで行くのであれば、多少の無理をしてでも飛び越えて行けるんだけど、フィオラとラムレットが居る今、それは不可能だ。

　となれば、程よいところで着陸し、そこから先はロボの足で山を登り、反対側に抜けるほか無いんだけど……カイザーチームの出鱈目なスペックと違い、２人が乗るこちらの世界産の機体にはそこまでの無茶は不可能だ。

　それに、ロボで登山となれば、操縦にもかなりの気力と体力を使うだろうし、あの山は見るからに１日で登り切れる高さじゃない。となれば、途中何度も野営を繰り返す事になると思うんだ。

　これから先は厳しい工程になる。だからリムールでじっくり心と体を休めて、英気を養ってから行くべきだ。

　つまり明日パイロット達は丸一日おやすみだ。そのためにここで２泊する事に決めていたんだ。

　それにさ、ここはマシューの故郷で、両親が眠る土地だよ。久々の里帰りを果たしたマシューにはここで1日ゆっくりと過ごしてもらいたいじゃん。

　そんなわけで、一夜明けて。

　おうちの前で簡単な朝食を摂った後は各自それぞれ自由行動となりました。マシューはお墓参りに、ミシェルは市場の視察に、身体を持て余したラムレットは防衛隊の訓練に突撃し、舌を持て余したシグレはスミレと甘味を探す旅にそれぞれ出かけ……残ったのは私とヴァイオレット姉妹。

　……あれあれあれ？　どうしてこうなった？　これはまたリエッタの悪夢再来フラグなのでは？

「さ、カイザーさん。ブラブラしましょう」

「だめだよお姉。ルゥは私と行くの」

「……さ、３人で行こう……ね？」

　早くもお腹パンパンフラグをビンビンに感じながら、二人をなだめつつ、特に目的もなく適当にブラブラしている。幸いなのは二人共まだそれほど食に気持ちが行っていないことと、２人を誘惑する魅惑的な屋台がまだまばらであるということだ。

　どうやらここの屋台村が活発になるのは昼前からみたいで、今はまだ半分以上が準備中。シグレやスミレはがっかりしていることだろうけど、私にとってはこれ以上無いほどに幸運だったな。

　と、小さな女の子を連れた老人の姿が目に入る。向こうもこちらに気づいたのか、手を振りながらこちらに歩いてきた。

「おー、レニーさんにカイザーさん。あなた方が来ていると若い者から聞いていましたが、お会いできてよかった」

　にこやかな笑みを浮かべながらやってきたのはリムールの代表、ガシューさんだ。その後ろで目をパチクリさせているのはマリネッタちゃん。かつて海で行き倒れていた女の子だね。すっかり健康的になって、年相応に可愛らしく着飾る余裕が出来たマリネッタちゃんを見ると嬉しくってちょっぴり泣きそうになっちゃった。

「ガシューさんにマリネッタちゃん。お久しぶりです。元気そうでなによりだ」

「あれれ……レニーお姉ちゃんが……増えてる……」

「あはは……こんにちはマリネッタちゃん。増えてないよ。増えてないし違うからね。これは妹のフィオラだよ。私じゃないからね？　ね？」

　すごい。幼女すごい。これがリシューだったらレニーから烈火のごとく怒られていた所だよ。しかし相手はマリネッタちゃん。流石にレニーも怒れず、いや……それどころか『ほんとにかわいいなあ！　もう！』といったオーラ全開でデレデレしているじゃないか。

「こんにちは、マリネッタちゃん。私はレニーの妹のフィオラだよ。よろしくね」

「フィオラお姉ちゃん、マリネッタです。仲良くしてね」

「お……お姉ちゃん？　マリネッタちゃん……かわいい……」

「妖精さんも！　久しぶり！　ねえ、もうひとりの妖精さんは？　森に帰っちゃったの？」

「私は妖精さんじゃ……いや……スミレはシグレと一緒に甘いものを探しに出かけたよ」

「へー！　やっぱり妖精さんは甘いものが好きなんだね！　私といっしょだ！」

　っぐ……。相変わらずマリネッタは私のことを妖精さんと呼ぶ……。というか、小さな子どもを相手にする際には最早諦めて妖精さんを演じるのが正解なのかも知れないな……。

「はっはっは。皆さん元気そうで何よりですじゃ。ところでリエッタは……？」

「ああ、マシューなら両親のところに挨拶に行きましたよ。久しぶりの帰郷ですからね、積もる話も有ることでしょう」

「そうですか……。いや、カイザーさん。本当にありがとう。見て下され、あなた方のおかげで我らの土地がこんなにも立派になりました。あのままではいずれリエッタが帰る場所も無くなってしまっていたかも知れなかった。皆さんには感謝をしてもしきれませんわい」

「いえ、頭を上げてください。これは私達の手柄ではなく、リム族を含め皆で成し遂げたことなのです。ガシューさんもその一員として胸を張って誇ってくださいな」

「いやはや。カイザーさんに言われるとなんとも断りにくい……しかし、カイザーさん。なんだか話し方が随分と……その、柔らかくなったような……」

「あ、ああ……。それについては……まあ、いろいろとありまして……ははは」

　くっ、これも『妖精さん』同様に失踪以前の私を知る人との再会にはついて回ることなのかも知れないな。『カイザー』で話せばこんな苦労もないんだけどな……ちくしょう、こればかりはホントどうしようもないから困る！

「あ！　もうひとりの妖精さんだあ！」

　マリネッタちゃんが興奮気味に声を上げる。どうやらスミレ達もこちらにやってきたらしいね。

「おや、カイザー殿ではありませぬか。いやーまいりました。屋台がまだほとんど開いていなくて」

「私のデータを持ってしてもこれは想定外……あら、マリネッタ久しぶりですね。妖精さんですよ」

「うん！　久しぶり！　スミレの妖精さん！　今ね、白い妖精さんとお話してたんだあ」

「そうですか、じゃあ今度は私とたくさん遊びましょう」

「やったー！」

　マリネッタちゃんの可愛さにはブレイブシャイン一同がやられていたが、中でもスミレとミシェルはよりしっかりとやられていたからね。久々のマリネッタちゃんを堪能するスミレの表情と言ったら……普段見ないほどにでろんでろんになってるよ。

　……そしてガシューさんからマリネッタちゃんを預かった我々は暫くマリネッタちゃんとお話をした後――

「子供には糖分が必要です」

　――と、力説するスミレに押し負けて改めて甘味を求める旅に繰り出すこととなったのだが……そこで合流したミシェルがマリネッタちゃんに興奮し、有り余るお小遣い（財力）を使ってしまったがために……私まで大量の甘味攻めを食らうことになったのでありました……。

　ちなみにマシューとラムレットのアタイコンビだけど、当然のように串焼きの屋台にしがみついて肉を堪能していたよ。

『折角リムールに来たんだし、やっぱ肉食わねえとな』

『うむうむ！　ここで喰う鹿肉はまた格別だからな！』

『それな！　ラムレット話がわかるぜー！』

『アタイとマシューは肉姉妹だからな！』

　なんて……頭が痛くなる会話をしていたけど……はあ、今日は休日だし許す事にするよ……。