第三百三十二話 リエッタ

 レニー達の村を目指し、基地から旅立った俺達は楽しい野営を終えて再び空を飛んでいる。

 昨夜は皆でチキンカレーに舌鼓を打った後、お楽しみの上映会となった。今回は普段とは違い、それぞれからリクエストを聞いて見たい回を放映するという方式を取ったのだが、メインメンバーの4人がそれぞれ自分が乗っている機体が活躍するシーンをリクエストしたため、ちょっと笑ってしまった。


 その光景が面白かったというか、すっかり機体に愛着が湧いてるんだなって思ったら嬉しくて自然と笑みが漏れたんだ。


 フィオラとラムレットが搭乗する機体は残念ながら作中に搭乗しないこの世界オリジナルの物なので、メインメンバー達のような楽しみ方は出来ないだろうと申し訳がなかったのだが、それでもラムレットは俺の活躍回を熱く語りながらリクエストしてくれて、なんだかとっても照れてしまった。


 カイザーは一応主人公機だし、合体時のメイン機体なので出番はかなり多いのだが、中でもラムレットのお気に入りは2話でカイザーが自律機動をするシーンだった。そのシーンを見ながらレニーと出会い、俺がカイザーとなって初であった自立起動を試した時の話をしてやると大いに喜んでくれた。


「はー、でもいいなあ皆。アタイもカイザーさん達みたいな機兵が欲しかったよ」


「気持ちはわかるが流石にそればかりはな……。まあ、基地に居るゴーレムに使用されている術式を発展させれば、自我を持つ機体の製造もいつか実現するかも知れないがな」


「ほんとうかい!? ようし、機体に恥じないようアタイも腕を磨いておかないとな!」


 そんな感じで野営の夜は大いに盛り上がり、結果として現在パイロットたちは皆眠そうな顔でコクピットに収まっているというわけだ。


『まったく、君達は……。カイザーチームの機体はいざとなったら自分で動けるからいいが、普通の機体で居眠り運転なんかしたら酷いことになるんだぞ』


「わかってるよ、わかってるってカイザー……ふぁあ……てわけで……少し寝ても……」


『いいわけないだろ。これも訓練だと思って耐えろ』


「ちぇー」


『というわけでだ。カーゴの君達も操縦中のつもりで寝ないようにな』


『え? う? ふぁああ? わ、私ねてないよ、ルゥ!』


『……フィオラ……』


 ただまあ、実のところ今回の旅ではそこまで厳しくするつもりはない。

 調査ミッションという重要な目的のために長距離移動をしているわけだが、レニー達の故郷でミッションを済ませた後は、二日ほど滞在して観光をしようと思っているし、旅の途中、マシューの里帰りがてら、久々にリムールに寄るというちょっとした楽しみもあるのだ。


 つまりこの旅は、今日まで頑張ってきたブレイブシャイン達の慰労目的という面もあるのだ。ムチだけではなくアメもしっかりと与えていかないと、良き司令官とは言えんのである。


 しかし、今日のブレイブシャインはほんとにぐだぐだで、このまま無理をさせても良い事は無さそうだな。


 まったしかたが無い奴らだ。早速甘やかしてやろうじゃ無いか。丁度……休憩にもってこいの場所が近くにあるし、久々に寄ることにしよう。


『全くしょうがないな、君たちは。今日は早めに宿泊場所に行こうと思ったが、こう明らかにパフォーマンスが落ちているのに無茶をさせるもそれはそれで事故を招く原因に繋がるからな。しょうがない、少し行った所で着陸し、そこで昼休憩を3時間とろう。

 無理せずゆっくり休んでから行こうじゃないか』


「ほんと? 流石カイザーさん! 話がわかるー!」


『なに、丁度リエッタの直ぐ近くまで到着していたからな。せっかくだから昼休憩はリエッタに降りてそこで取ろうと思ってね。俺は暫く来ていないが……結構立派な宿場町になったらしいしな』


「そうなんですの! お父様や商人仲間の皆さんが張り切りすぎて……今や以前の面影はまったくありませんわ。もちろん、良い意味で、ですのよ」


「へー! リエッタって新しくできた街なんだよね! 私も行ってみたかったんだーって、うーん? リエッタってどこかで聞いたような……?」


「ま、まあ街の話はそのへんで良いじゃねえか。な、カイザー昼休憩って奴はさ、つまり自由時間、なにやってもいい時間なんだろ?」


「なにやってもって……まあ、君たちが変な事をするとは思えないからな。食事をとったら仮眠をとってもいいし、街で買い物をしても良い。ああ、事前に話していたとおり、夜はリムールの街に泊まるからな。リエッタでの買い食いは程々にしておくように」


「「「はーい!」」」


 そして、ややあって我々はリムールとパインウィードを結ぶ宿場町、『リエッタ』に到着した。なんと言うか、本当に見違えている。恐らくは非戦闘型機兵土木作業用ロボによる活躍の賜物なのだろうが、いくらなんでも早すぎるというレベルで立派な街が出来上がっていた。


 街を取り囲む頑丈そうな石壁にも勿論驚いたが、何より驚いたのは辺りが緑化され、街のあちらこちらに立派な木が生えている事だ。ミシェルによれば、機兵でしっかりと土壌改良を行い、草花の種をまいたり、森から木を運んで移植したりしたとのことだが……かつての赤茶けて火星の遺跡と呼べるような景色が嘘のように見違えている。


 機兵も楽に通れる大きな門に向かうと、何人かの商人が馬車と共に並び入門手続きを待っているようだった。ああ、こうやって並ぶのもなんだか久々だなあと思っていると、こちらに気付いた衛兵が1人機兵に乗って駆け寄ってきた。


 まもなく、機内のスピーカーから若い衛兵の声が聞こえてくる。この地を護るリムール防衛隊のメンバーであり、同時に我ら同盟軍の一員でもある。


 うちえ開発されている機体には漏れなく通信機がついているからな。余所の工房ではまだでは出来ない芸当だよこれは。

 おかげでかなり便利になった。以前であればコクピットハッチを開いて顔を出す必要があったからなあ……あれはあれでかっこいいのだが、戦闘時はそんな悠長な真似してらんないからな。新たに機体を設計するとなった時に真っ先に実装したいと、マシューやジン、そしてリックが3人口を揃えてしたのが通信機能だったからな。


 搭乗者からの評判も上々だし、ほんと皆良く開発してくれたよ。


『カイザーさん! お久しぶりです! 俺です、リシューです! 覚えてますか!?』


 通信機越しに届いた若い声の主はリシュー、彼は……確かリム族の集落……今はリムールか……。そこに居た少年だったな。そうだそうだ、選抜試験に合格をしてライダー隊になった見どころがある少年じゃないか。


『おお、覚えているぞ。マシューと演習をしてライダー隊に選抜された少年だろう!』


『へへ……覚えててくれて嬉しいですよ。カイザーさん達は俺達の家族同然、今更面倒なチェックや手続き不要ですよ! ようこそ! 交流の街リエッタに! 歓迎しますよ!』


 リシューが照れながらそんなセリフを言った瞬間、シグレとミシェルが盛大に吹き出し、マシューが顔を赤くしてプルプルと震え始めた。


「あー! リエッタって、マシュー、村の名前になったの? すごいじゃん!」

「レニー、お前はようやく今気づいたのかよ! おせえよ! てか気づくなよ! つか村じゃねえよ!」


「あー! そっか! マシューさんの名前ってマシュー・リエッタ・リムだ! わ、すごい! 名前になるなんて何やらかしたんですか?」

「何もやらかしてねえよ! あーもう!お前ら姉妹はほんと……ほんと!」


「「あははははは!!!」」

「ミシェルとシグレは笑うな! あ! カイザーもスミレも笑うな! もー!」


 1人ラムレットだけ、きょとんと不思議そうな顔をしていたが、フィオラから説明されて状況を理解したのか、遅れて微かな笑い声が聞こえてきた。


「あーっもう! ラムレットまで! 畜生! お前ら覚えていろよ!」


 そう言えば以前、まだ記憶が戻り切る前、ルゥとしてシグレから『リエッタ』について教えてもらったことがあったな。あの時シグレが愉快そうに話すのを聞いた時は、イマイチネタがわからない身内ネタを聞かされているかのような寂しさがあったのだが、記憶が戻った今は……ふふ……ははは……。


 ああ、ちゃんと大切な物が帰ってきたんだなと、俺が俺に戻ったんだと実感するなあ。

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