第三百三十話 出発

「うわあああああああああああ!! と、飛んでるううううう!?」

「ひゃっほーい! 見てみて! ラムレット! 向こうに見えるのフォレムじゃない?」


 現在我々は久々に空の旅を満喫すべく基地上空に飛び上がったところだ。僚機と合体し『シャインカイザー』となった俺はヤタガラスを飛行ユニットとし、自在に飛行することが可能となる。


 サブメンバーの2人が乗っているのはシュトラール……ではなく、4人乗りの小型カーゴだ。長時間のフライトでも快適に飛べるようにシートはフカフカのソファのようなものが採用されており、魔導冷蔵庫やオヤツ棚まで完備している要人用の特殊カーゴなのだ。


 流石にトイレまではない……というか、そもそも俺達にもその手の装備は流石についていないため、パイロットたちの用足しも考慮して1時間おきに休憩を取りながらのフライトなのである。


「目的地までは空を飛んでいく」


 俺がそういった時、2人はシュトラールに乗り、それを抱えて飛ばれるのだと考えたらしい。フィオラは多少動揺こそしたものの、特に拒否をすることはなかったのだが……ラムレットの拒否っぷりといったらもう、それはそれは凄かったな。


「嫌だ嫌だ! 嫌だぞ! 飛ぶってだけで恐ろしいのに……しゅ、しゅとら……機体を抱えて飛ぶっていうじゃないか! 飛んでる途中で落とされたら為す術無く下に……うわあああ! 考えちゃった! 考えちゃったじゃないかあ!」


 と、酷く取り乱して大変だったのだ。そこでシュトラールはバックパックに『収納』し、2人は快適なカーゴに乗せて運ぶのだと説明をしていると、その様子を見ていた同盟軍パイロット達が口々にカーゴの旅の『良い点』だけを上げてくれて、非常に感情が不安定になっていたラムレットをどうにか落ち着けてくれたのであった。


 ありがとう……空の経験者たち……余計な事を言わないでくれて本当に感謝する!


 それでようやくこうして出発することが出来たのだが……まあ、慣れるまで大変だろうな。快適なのは快適だろうけれども、落下の危険性はシュトラールを抱えて飛ぶのと同様に存在するのだから……いや、万が一にも落とすような事はないがな。


 今回の旅について、パイロット達以外の仲間には若干情報をボカした説明をした。彼らを信用していないわけではない。寧ろ家族同然の気が置けない存在だと思っている。しかし、現在この世界を構築している文明の根源が、異世界からやってきた冴えない人間の『ノリ』から産まれた偶然であるとはやっぱりどうにも話しにくかったのだ。


 彼らが知っている俺の素性『異世界から転移をしてきた機兵の始祖』という設定を上手く使い『俺がこちらの世界に来た後、向こうの世界で作られた対策映像が送られてきている可能性がある』と、彼らには説明をし、今回はそれの探索に向かうという事になっている。


 実際探しに行くのは俺の死後に制作されたであろう『劇場版 真・勇者シャインカイザー』の円盤なのだが、それを『蘇って猛威を振るった強化ルクルァシアと戦った向こうの仲間たちが作ってくれた対策映像だ』と言い切ってしまえば……一応は筋は通るのである。通るったら通るのだ。


 多少胸は痛むが……酷い起源の話を聞くよりはよほどマシであろうよ。


 しかし長距離フライトは久々だ。今日までパイロット達や機兵達はそれぞれが何らかの仕事を受け持ち、日々忙しく決戦に向けて用意をしたり、訓練をしたりしていたため、こうして完全合体をして飛行をする機会はなかったからな。


 乙女軍団も久々に4人揃ったコクピットでのんびりと空の旅を愉しんでいる。


「はー、やっぱこれだよね。シュヴァルツも面白い機体だったけど、広々としたコクピットで皆と一緒に乗れるのはやっぱり最高だよ」


「へへ、カイザーが嫉妬するぞ?」


「な? べ、別に俺はレニーが他の機体に乗ろうとヤキモチを焼いたりはしないぞ」


「ふふ、カイザーは私にしつこくシュヴァルツの性能について訪ねてましたよ」


「あらあら……カイザーさんも可愛いところがありますのね」


「そそそ、そんなつもりで聞いたわけじゃあ……」


「あははは。いやあ、ガア助も嫉妬深いところがありますからな。納得でござる」


 パイロット達が皆揃い、心より楽しそうにしているのは俺としても非常に喜ばしいのだが……どうもスキを見せれば俺を弄り始めるのでほとほと参ってしまう。


『しかしホント、この体になるとルゥって口調がそっくり変わるんだねえ』


「そうは言うがな。本来こっちの口調が正しくカイザーなんだぞ。フィオラは先に知り合ったのが『ルゥ』だったから違和感がすごいとは思うがな……」


『あ、アタイはこっちのカイザーさんも好きですよ。ルゥも可愛くてスキだけど……カイザーさんはかっこいいからな!』


「ありがとうな、ラムレット。どうだ? そろそろ空の旅にも慣れてきたんじゃないか?」


『あ……思ったより揺れないし、普段見れない景色が見れるのは……楽しいかな……。で、でも! 怖いのは怖いからあんまり揺らさないでくださいね!』


「ああ、わかってるさ。何か有れば遠慮なく言ってくれ。直ぐに着陸するからな」


 ラムレットは『カイザー』と話すときだけ口調が若干丁寧になる。仲間なのだから気にするなと言ったのだが、どうもそこには譲れない何かがあるらしい。反面、俺が『ルゥ』と化している時は遠慮なく捕まえては胸元に入れ、頭を撫でたり『果物食うか? ああ、クッキーが良かったか?』と、過剰すぎるほどペット扱い……いや、子供扱い? をしてくるから不思議なもんだ。


 しかし、4機のパイロット達と出会い、これ以上メンバーが増えることはないだろうと思っていたが……何が起こるかわからないものだな。



 ルクルァシア打倒のためという重要な旅ではあるが、これまで頑張り通しの皆に対する慰労の目的もあるんだ。良い思い出となるよう、素晴らしい旅にしてあげたいな。

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