第三百二十九話 おねがい

 とうとうというか、ようやくというか。

 私は自分の正体を皆に明かした。今まで『異世界からやってきた』とは説明していたけど、転移ではなくて転生であると、異世界で放映されていたアニメの登場人物……いや、登場機体の身体を得て転生したと明かした。


 一体どんな反応をされるのだろう? これまでと対応が変わるのではないか? 等と心配していたんだけれども、それは杞憂……いや、改めて思えば彼女達に対して、そしてある意味巻き込まれるような形で実体化した僚機の皆に対して失礼な考えだったと思い知らされた。


 嫌われるどころか、増して以前よりも絆が深まった。

 私達は今日、真の意味で仲間になったんだ。


 ◇◆


「……なるほど。つまり前世のルゥが死んじゃった後、作られた新しいシャインカイザーのお話があると。こちらの世界に来たルクルァシアはそれが元になっていて、その……いたずら好きな神様がそのエンバンをこちらの世界に持ち込んでいる可能性が高い、そういうことなんだよね」


 私のお話が終わった後、レニー達の許可を得て改めて円盤の話を皆にすることになった。私が異世界からの転生者であり、一連の騒動に神の力が関わっているという前提があれば突飛な話でも無くなってしまうというわけだな。


 ……いや、十分妙な話では有るんだけど。しかし、私の話を聞いてもなお、受け入れてくれた彼女達には感謝しか無い。


 結果論だけど、私がカイザーとして転生したいと妙なことを言ってしまったがために、この世界の理が大きく変わって機兵文明というものが誕生してしまった。それによって、国家間の戦争が起き、大陸の国々は滅びの危機に瀕してしまうこととなった。


 それからなんとか立ち直り、文明を再構築していると、今度は『魔獣』という機械生命体が誕生してしまう。これはカイザーの動力源として搭載されている『輝力炉』やその装備品から発せられた余剰輝力が原因で動物やかつて『魔物』と呼ばれていた存在が変異したものだ。


 そして何より、わざわざ神が用意してくださったのはカイザーの天敵であるルクルァシアだ。人類を危機に陥れるこの存在。


 このどれもが、私が「カイザーになりたい」と変なことを言わなければ起きなかったことだ。でも、彼女達はそれに関して文句を言うどころか、どこか嬉しそうにしている。


 第二次機兵文明真っ只中の現代に産まれた彼女達にとって、機兵が無い世界、ウロボロスよりもたらされた異世界知識を用いた魔導具がない世界というのは考えられない、そういうことらしかった。


 もし、私が彼女達と同じ立場だったらば。仮に現代日本に現れた異世界人が「私が異世界知識で科学という物を持ち込んだから江戸文化が滅びてしまったんだ!」なんて突拍子がない事を言われたとしよう。


 その異世界人が来ていなかったら、今も平和な『お江戸の時代』が続いていたと言われたとして、スマホやパソコンが存在しない世界を思い浮かべた時どんな気持ちになるのか。


 そう思えばなんとなくスッキリはするんだけど、でも同時に私は災厄も連れてきてしまっているわけなので、やっぱり若干のモヤモヤは残っちゃう。科学と一緒に恐怖の大王を連れて来た感じなんだよ? モヤモヤするじゃんね。


 とは言え、いつまでもウジウジしてても始まらない。今は円盤の話をしよう。


「私が住んでいた世界にはカイザーの様な『アニメ』と呼ばれる映像が色々あるというのは前に話したよね?」


「ええ、シャインカイザーのような機兵……いえ、ロボットが主役のものの他にも、恋愛物やファンタジーと言う、剣と魔法の世界で戦うお話のものまで色々あるそうですわね」


 恋愛物のアニメが有る、と聞いた時に興味を示したのはミシェルと、シグレだった。シグレはああ見えてかなり女子力が高いらしく、ミシェルと二人、密かにそういう本のやり取りをしているらしい。


「うん。それでね、それらのアニメ達は基本的に毎週決まった曜日の決まった時間に『テレビ』と言う道具に映像が送り届けられるんだけどさ、よほどの理由がない限りは後日『円盤』にまとめられて販売されるんだ」


「そのエンバンがあればカイザーさんのアニメみたいにいつでも好きな時にみれるんだっけ」


「そうだね。その円盤はアニメを制作する会社……職人をたくさん雇ってる商会みたいなもとこね、それが会社の利益になるわけなんだけれども、この作品はもっと金を稼げるぞとなった時に作られるのが劇場版なんだ」


 厳密に言えば、スポンサー様のお力で作られる映画も多々あるからその限りではないけど、そこまで説明するのは面倒だし、突っ込むような人もいないんだからそこはざっくりとね……。


「劇場版? 演劇みたいに舞台でカイザーのアニメやるのか?」


「ちょっと違うけど間違いではないかな。映画という文化があってね、劇場に据え付けた大きなスクリーンに映像を投影してさ、入場料を取って大勢の客に見せるんだ。いつもみんなが見てるアレとだいたい似たような感じだね。

 それで問題はその内容なんだけど、アニメの劇場版という物は、本編の総集編……この間見せたように、1話から最終話までを2時間程度の尺に収まるようにまとめたものを見せる場合もあれば、全くの新作を放映する場合もあるんだよ」


 予告編で多数の新規カットを見て興奮しながら見に行ったら、それは全部で15分もなくって、殆どが総集編だったという悲しい事もあるからね……。


「それでカイザーの映画はどちらなのか? それは先に言った通り私はわからない。ただ、以前神様が映画の内容を少しバラしやが……漏らしたんだよね……」


「なんてひどい事を……わたくし、神という存在に少し疑問を感じ始めましたわ……」

  

「だよね、だよね! でね、それによると、最終決戦に大きくテコ入れがされてるっていってたんだよ。と言う事はさ、神様の言う事を信じるならば『ラストシーンが大幅に変更されたリメイク』と言う可能性が大きい」


「リメイク? カイザー殿、それはどういうものなのですか?」


「わかりやすく言えば、古いものを現代の技術で作り直す……と言った感じかな? 私がこの世界に来てから何千年も経ってるんだよ。あっちとこっちで時間の流れが同じとは限らないけれど、それでも結構な時が経っている可能性は高いよね。

 私が死んで暫く経ってからカイザーの人気が再燃してリメイクが作られた、そういう話は十分考えられるんだ」


 そう、あっちで数千年経っている……ってことはあまり考えたくはないけれど、あっちはあっちで時間が経っているわけで、もしかすれば……だ。


「だからレニー、フィオラ。私に君達の村に有る円盤を調べさせてくれないだろうか」


 改めてレニーとフィオラに頭を下げ、お願いをする。円盤を調べに村に行くことにより、レニーが隠していた何かが露見することになるのかも知れない。彼女にとってそれは避けたいことなのだろうと言うことは、今日まで村の話を避けていたことから想像ができる。


 ここまで逃げ道を封じてからお願いをするなんてひどい奴だって我ながら思うけど、それでもレニーやフィオラが嫌だと断るのなら無理は言わないさ。そこでこの話はおしまいだ。


 そう決めて二人に改めて答えを求めた。


「……いいですよ。うん、いいよ! 村の皆には私がなんとか言う。父さんと母さんにも私から言う。ばっちゃは……フィオラが……」


「ちょっとお姉!? ばっちゃが怒るのは逃げたお姉だけでしょ! あたしを巻き込まないでよね! うん、大丈夫だよルゥ! なにも問題は無いよ! 行こう、私達の村に!」


 2人はイヤイヤという事もなく、心から私のお願いに首を縦に振ってくれた。

 ……ばっちゃなる存在が気にならないこともないが……まあそれはレニーだけの問題のようだしね……。


「ありがとう、ありがとう二人共……」


 そして私達は、ブレイブシャイン一同はレニーとフィオラが産まれた村に向かうこととなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る