第三百二十八話 開示
「私が異世界から来た存在である事は知っての通りだと思うけど、私という存在は……元々はカイザーじゃなくってね、どこにでもいる普通の人間だったんだ」
さぞ、驚かれることだろうな、いや、気持ち悪がられるかも知れないな、なんて構えていたけれど、どうも様子がおかしい。
ラムレットや僚機のみんなは驚いた様子を見せている。でも、レニー達、初期メンバーとフィオラだけは何故か『やっぱりな』という顔をして居る。
「えっと、驚かないの?」
戸惑いながら私が尋ねると、レニー達は顔を見合わせて困ったように笑う。
「だって……カイザーさん、機兵なのに食べ物に対する憧れが強かったし……」
「うん、やっぱりそうだったのかぁって」
「なんというか、
「うむうむ。もしやと思っていたことがまことで、スッキリした気分でござる」
「私はほら、カイザーじゃなくてルゥとして付き合ってたから尚更ね?」
うう……私の食い意地が結果として功を成した、というわけなの?
「でさ、カイザー。お前一体どんな人間だったんだよ? ていうかなんで人間からカイザーになったんだ?」
マシューが話を促してくれる。ありがとう。そうだね、それを話さないとね。
「うん、じゃあ聞いてくれるかい。私の話を、人間だった頃の私の話をさ」
◆◇
初めに断っておくけれど、私はどこにでもいる普通の人間だったからね、別に大して面白い話じゃないんだ。
そうだね、私が元居た世界については、みんなが大好きなシャインカイザーを思い浮かべてもらえるとわかりやすいかな? 魔獣なんて居ないし、魔法も魔術も無い世界。まあ、人間同士が争うことは有るし、国家間の戦争も世界のあちらこちらで未だに起きているから決して平和な世界とは言えないんだけどさ、少なくとも私が住んでいた『日本』という国は比較的平和で過ごしやすい国だったと思う。
その国で私が何をやっていたかと言えば、うーん、なんて言えば良いんだろうな、この世界のもので例えると、魔導具に術式を書き込む仕事みたいなことをしていたんだ。
毎日毎日、そんな事をして生活費を稼ぐ日々でね、まあ、その仕事は嫌いじゃなかったけど、面白いとは思わなかったかな。日々の楽しみといえばプラモ……そうだね、ザックが作る機兵の人形みたいなのを組み立てるのが好きだったんだよ、私は。
そして何より楽しみだったのは機兵が登場するアニメを見る事。残念ながらみんなには見せることは出来ないけれど、シャインカイザー以外にも機兵を主人公とした物語が沢山あってね、私はそれを見るのが何よりの息抜きだったんだ。
……でね、何より肝心なことを言うと……私が住んでいた世界には……機兵は存在しないし、宇宙から悪い奴がやってくるなんて事も無かったんだよ……。
「ええ? 機兵が居ない? じゃあ、じゃ、じゃあ、アニメのカイザーさんは一体……?」
「カイザー達ってカイザーが住んでた世界から来たんじゃないのか? って元人間だって話だったな……あれ? あれ?」
「それじゃあ……あの闘いの日々をまとめた映像は、一体何を基に作られましたの?」
「また……別の世界があって、それをカイザー殿の世界の人間が物語にした……?」
「あ、そうだよ! 私も不思議に思ったんだよ。ルゥが知らない物語が――えっと、なんでもない!」
「あわ、あわわわわあわわ」
うん、みんなが混乱するのもムリはないね。違うんだ、創作なんだよ、あの物語は……カイザーは……スミレや、僚機のみんなも……真・勇者シャインカイザーと言う物語に登場する架空の存在なんだ。
「……!」
ごめんな、ウロボロス、オルトロス、ヤタガラス。スミレは……私と深く同期されてるからその辺りの事情は薄々気付いていたよね。
「はい……。そもそも私は僚機の皆さんと違って、作中の記憶がありませんからね。逆にアレを見てびっくりしました。私が知らない私がさも私のように振舞っていたのですから」
『ええと、カイザー……僕たちは架空の存在……なんだよね?』
『でも、こうしてここに居るし、かつての戦いの記憶も生々しく存在しているわ』
『難しいことはーわからないけどー』
『これはこれで~うん、よくわかんないな~』
『カイザー殿、もう少し詳しく聞かせて欲しいでござる』
そうだね。前世の私についてはまあ、別に詳しく語る事じゃあないし、一番大切な事を話すよ。
今話した通りね、私は毎日大して変わらない退屈な日々を過ごしていたんだけど……。
あの日は……こちらの世界に転生したらしい日はさ、シャインカイザーの映像がまとめられた円盤の発売日でね、仕事が終わるとすぐに会社を飛び出してさ、店に駆け込んでそれを受け取って。それはもう、天に登るような気分で家を目指して歩いていたんだ。
ああ、そうだよレニー。その日お店で受け取ったのはみんなに見せたシャインカイザーの映像が入っている円盤さ。映像だけじゃなくって、おまけも色々とついててね、私はそれを買う日を楽しみにしていたんだよ。
シャインカイザーの円盤を手に入れて、最高に上機嫌で家を目指し歩いていた、そこで私の記憶は途絶えてるんだ。
まるで、良く晴れた日に気持ちよく目覚めたかのようにパッチリと目を開けてみれば、そこは私の部屋じゃなくって、見知らぬ真っ白な部屋だったんだ。
家を目指して歩いていたはずなのに、気づいたら部屋で寝ていた、かと思えば目覚めた場所は見知らぬ場所だった……何もかもが突然の事だったから何が起きたのかと混乱したよ。
その疑問にはその場に居た存在が答えてくれたんだけれども、ざっくりいっちゃうと、とにかく帰り道に私は……死んだらしいんだな……そう、文字通り天に昇ってしまったわけだ。
なんだか場の雰囲気に飲まれたというか……不思議とそれを受け入れちゃってたというかで、自分の死因を聞くという事をしなかったんで、どうして死んじゃったのかについては未だにわからない。まあ、とにかくさ、私は死んだ後に魂となって、謎の白い空間に飛ばされたらしいんだ。
「しんっ……死んじゃったの? カイザーさん……」
ああ、レニーそんな顔をしないで。死んだのは私だけどカイザーじゃないから。
「でも……! 死んじゃうって悲しいことだよ……大切な人達ともう二度と会えなくなっちゃうんだよ?」
そう……だね。でもね……。
そのおかげでっていうのは我ながらどうかと思うけど、でも、こうして転生しなかったら皆と会えなかった。
前の人生に未練が無かったかと言えば、そんな事はないんだけどさ、こちらの世界で過ごした日々は掛け替えのない物だから……まあ、そこは気にしないでおいておくれよ。
「そう言われましても……なんだかやっぱり気にしちゃいますわよ」
「そうだぜ、カイザー。嬉しい事言ってくれてんのはわかるけどよ……」
「あちらのカイザー殿の冥福はそれはそれとして祈らせてもらいますよ」
もう……気にしないでって言ってるのに。でも、ありがとうね。
……ごほん、話をつづけるよ。
それでね、私が居た謎の白い部屋って言うのはさ、神様の部屋……って言って良いのかな? とにかくそこにはこの世界を作った存在が、神様と呼べる存在が居たんだ。
そう、私はそこでこの世界の管理者……神様と会ったんだよ。
「「「ええええ!?」」」
だよね、びっくりだよね。でね、神様はこっちの世界に来るなら、望みの姿に転生させてあげよう、そういったんだ。
どうせもう生き返ることは叶わないわけだし、こちらの世界に来れば自分が望んだ存在に生まれ変わることが出来る。そうじゃなければ、犬や猫、ううん、カブトムシやありんこなんかに転生するかもしれないんだ、断る理由はないよね。
さて……ここまで言えばもう分かるよね?
「ま、まさか……カイザーさん、あなた……カイザーに……き、機兵に……なりたいとでも願ったんですの?」
そうだね! 大正解だ! というか、私の存在自体がもう答えだよね。厳密に言えば『真・勇者シャインカイザーにしてください!』って言ったんだけどさ――あれ? 皆どうしたの? そんな顔をして……。
「……まったくカイザー、お前は……」
「あは……変な人だよね、カイザーさん」
「どうしてまた……そんな願いをしたんですの?」
「驚いて何も言えませんよ……」
だ、だって! なんでもっていうじゃないか。だったらカイザーになってこっちの世界でドラゴンとか、魔王とかと戦ってみたいと思ったんだよ!
「ルゥ……そこは普通、大賢者とか勇者とかじゃないの? 貴方ってちょっとやっぱり……」
「り、理解が追いつかない……」
ま、まあ! とにかく! 私はこっちの世界にカイザーとして転生したんだ。でもね、カイザーの身体を手に入れただけじゃなくって、素敵なおまけが付いてたんだ。
アニメを見た君達ならわかると思うけれど、カイザーには最高の仲間達が居るだろ。スミレにオルトロス、ウロボロス、そしてヤタガラス。そうさ、彼らもまた、私の転生と共にこちらの世界にやってきた。だって皆がいないと私はカイザーのまま。願ったとおりの姿、シャインカイザーになれないわけだからね。
私と合体した状態……シャインカイザーとして共にこちらの世界にやってきたんだ。
私以外の皆は元々アニメの……架空の存在だから、異世界からやってきたというのはちょっと違うのかも知れないけど、でもさ、私は思うんだよ。オルトロス達はシャインカイザーの世界でちゃんと生きていた。私や、地球でカイザー達を応援して見ていたファンからすればちゃんとその世界で生きている存在だったんだ。
『カイザー……』
『そっか、私達はテレビの向こう側で生きてたんだね』
ああ、そうさ。君達はあちらの世界でちゃんと生きていた。毎週毎週、テレビを見つめる私達に熱い戦いをみせてくれてたんだ。私達ファンは、架空の存在としてではなくって、きちんと意志をもって戦っている存在として応援していたんだよ。
君たちはこうしてこちらの世界で私と一緒に実体化して、私と分離後も自我を持って行動出来た。
もしも君達がただの合体パーツでしかなかったらば、君達に魂が宿っていなければそうはならなかったと思う。僚機のみんなにはちゃんと魂が宿っていたんだよ。だからこそ、私と共にこの世界で個として生を成す事ができたんだ。
『んー? わかんないけどー』
『ありがとね、カイザ~』
『拙者の胸に残る記憶は、思い出達は偽りではない、そうなんでござるな……?』
勿論さ。君たちは確かにあの世界で竜也たちと戦い、ルクルゥシアを下して世界に平和を齎したんだ。その記憶は君たちにとっても、私にとっても掛け替えのない宝物さ。
――というわけでさ、私は元々人間だったわけだけど、今こうしてカイザーとして、ルゥとして生きていることになんも後悔はないよ。重ねて言うけれど、スミレや僚機の皆とこうして話せる事は最高に嬉しいし、レニー達と出会えて本当に嬉しく思ってる。
だからどうか、今までと変わらず私と付き合ってくれると嬉しいな。
「当たり前だよカイザーさん! カイザーさんが元人間だったとしてもそれは私が知らない話だよ。私が知ってるカイザーさんはカイザーさんだもの」
「ああそうだ! カイザーは馬鹿だけど良いやつだ。あたいはそんなカイザーが好きで一緒にいるんだ。今更付き合い方が変わってたまるかよ」
「カイザーさん。私、貴方のことがますます好きになりましたわ!」
「レニーが言う通り、カイザー殿はカイザー殿でござる。そこに何の違いもないのですよ」
「ルゥってカイザーだったり人間だったり忙しいよね。でも、それが全部貴方ならそれでいいじゃない」
「これまでの話は頭に入らなかった! だからよくわからないけど! アタイは全部いいと思う!」
みんな……ありがとう……。
『ところで、カイザー殿……。前世の姿は一体どんな姿だったのでござる?』
「ガア助お主……空気を読めとアレほど私が……」
ああ、いいんだよ。シグレ。ちゃんとそれも含めて……明かそうと思っていたから。スミレ、お願い。
「本当にあれを見せるんですか? 後悔しませんね? しませんよね?」
いいよ。ていうか、スミレが嫌なんじゃないの?
「う……。わかりました……。皆さん、見てください。これはあの日、カイザーシステム内で私とカイザーが共にルクルァシアの眷属と戦った時の映像です。この時使用した仮想機体には私とカイザーが搭乗していますが、その際にカイザーが取っていた姿こそが前世の姿なのです」
そしてスミレはあの日の映像を皆に公開した。皆が私の姿を見て驚いていたけれど、それ以上に『仮想機体』をみてびっくりしていたよ。
巨大なスミレの姿が、カイザーの外装を身に着けて戦ってるんだ、もうインパクトが強すぎるってもんじゃないよね、あれは。
結局、皆の興味はそっちに強く引っ張られちゃってさ、私の『前世』の感想はなんだか有耶無耶になっちゃったけれど、私はそれはそれでいいと思ったんだ。
誰がどう思おうとも、私は私、俺は俺。ここにこうしてカイザーとして、ルゥとして居ることには代わりはないのだから。
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