第三百二十七話 覚悟
フィオラからの鋭い質問――
『ルゥ達の戦いが元となったのがあの映像なのに、ルゥが知らない別の戦いって一体何なの? その物語のルクルァシアがこっちに来てるみたいな話じゃない? なんかおかしくない?』
――その、なんて事無いふとした疑問から生まれたのであろう、可愛らしくも鋭い質問をぶつけられた私は動揺しちゃって『ごめん、少し時間を頂戴』なんて言ってその場から逃げるという……非常に
そしてどうにもバツが悪く、誰と顔を合わせるのも辛くなっちゃって、そのまま『カイザー』に乗り込み引きこもってしまっているというわけだ。
ああ、なんなんだ……なんなんだ私は。こんなウジウジしたやつだったっけ? 私という存在はこんなに臆病で卑怯なやつだった?
……ああそうだ、『俺』は『カイザー』は勇気があって、男らしく、決断力に溢れた存在だ。だからこそ、パイロットのみんなや基地の仲間たちも信頼して着いて来てくれているんだ。
でも『私』は、違うんだ。
臆病で、うじうじして、優柔不断なダメダメな奴なんだ。
カイザーとして転生した際に、私と言う存在は身体に引っ張られてカイザーらしい性格になっていた……んだと思う。でも、ルゥという、仮初では有るけれど人間に近い身体を得て、そしてカイザーとしての記憶を失ってルゥとしてフィオラとして過ごした日々が本来の私を呼び覚ました。
トドメとなったのがカイザーシステム内部での出来事だ。あの一件で私は私であった事を、過去の自分を完全に思い出すこととなって……そっか、カイザーとして復帰してからずっと感じていた若干のやりにくさというか、妙な違和感の原因はそれか……。
今まで自然にカイザーとして振舞えていたのは前世の自分を殆ど殺していたからだ。
それが蘇ってしまったというか、本来の自分に戻ってしまった今、上手くカイザーとして生きられなくなっているんだ。
だったらもう、全て明かしちゃった方がいいか……。
このまま全てが終わるまで、じっと口をつぐんで全てを明かさないまま……そんなの無理だよ。だって『俺』を信頼してくれている皆を裏切り続けることになるもの。
そうだ、全てを明かしてしまえばいいんだ。改めて私と言う存在を知ってもらって、それを受け入れてもらえたら、そこでようやく私はカイザーとして胸を張って生きられる。
ルクルァシアとの戦いを万全なものにするためにも……これは必要な事なんだ。
パイロットの皆には勿論、僚機の皆にも自分たちのルーツというものは知っておいてもらったほうが良いな。
それを聞いたみんなはどう思うんだろう。ショックを受けるかも知れない。失望したり、怒ったりするのかもしれない。でも、それでも私は話すべきなんだ。
これは私のわがままなのかも知れない。ただ単に私がスッキリしたいためなのだから酷い話だと思う。
それでも、私は、私という存在を皆に知ってもらわなければならないんだ。
真に仲間として皆と付き合っていくために必要な事なんだから。
◇◆
ブレイブシャインの皆、本メンバーである4名と、サブメンバーの2名、そしてスミレに僚機の皆――彼らにはそれぞれぬいぐるみ化してもらって、秘密の部屋に集まってもらった。
秘密の部屋というのは以前、ミシェルが儀式を行った例の祭壇がある場所だ。基地の最奥部に有り、一応そのまま隔離されている部屋なんだけど、こうして内緒話をするにはうってつけというわけだ。
フィオラとラムレットはレニー達ほど長い付き合いではないけれど、きちんと一緒に話を聞いてもらう事にした。
彼女達だってルゥとして短くとも濃密な日々を過ごし、共に命がけの戦いをくぐり抜けた戦友だ。そして……なんだろうな、二人にも明かしておくべきだという予感のようなものがあったんだ。
「一体こんな所に集めて何が始まるんだ?」
「神聖な場をこんな所呼ばわりは許しませんわよ、マシュー」
「まあまあ、ミシェル殿。カイザー殿に免じて……」
「それで、カイザーさん。パイロットだけじゃなくてウロボロス達まで集めて何を始めるの……?」
「わざわざ機兵のみんなを可愛くして集めたんだよ? きっと重大発表があるんだよ」
「ううう、ブ、ブレイブシャインが勢揃いの場にア、アタイまで……」
パンパンと手を叩き、乙女軍団のざわめきを止める。皆にそれぞれ椅子にかけてもらい、皆の前でホバリングし、全員の顔を一通り眺める。
みんな、何が始まるのだろうかと、期待と不安が入り混じったような複雑な表情を浮かべているね。
既に私の事情を知っているスミレには事前に相談し、とある映像を用意してもらうことにした。ソレに関しては、スミレは少々嫌がったんだけど、それでも私のために涙をのんで了承してくれたんだ。
「皆に集まってもらったのは……ルクルァシアとの戦いが……いや、私達らしく言えば最終決戦が迫っているのは皆も感じているだろう? だからさ、憂いなく戦うためにも、もう隠し事はやめようって思ってね――」
「あ、あたいは何もやましいことはないぞ!」
何故か酷くうろたえたマシューが食い気味に話に割り込んできた……けど、マシューの秘密なんてどうせ沢山のお饅頭を隠してストックしているとかそういう話だろうな。
「ふふ、マシュー。君の秘密はまあ、今日の所は置いとこう。こうして皆に集まって貰ったのはね、私の、私が……まだ皆に話していなかった秘密を明かすためなんだ」
「カイザーさんの秘密……。わかりました、あたし、カイザーさんが何者でもカイザーさんの味方だよ」
「おうさ、あたい達だけに明かすってことは、よっぽどの事なんだろう?」
「何があろうとも、わたくしの忠誠は揺らぎませんわ」
「私もです。カイザー殿には一生仕えると決めていますので!」
ミシェルとシグレが重い……っていうか、なんで私の臣下みたいになっているんだ?
そしてフィオラ達も。
「ルゥの秘密……秘密の塊みたいなルゥだけど、何があっても驚かないからね!」
「あわわわわ、カイザー様の秘密なんて私に……あわわわわ」
うん、まあ、いいか……。
ぬいぐるみと化している僚機の皆は神妙な顔をして……いや、ぬいぐるみなので表情はわからないけれど、静かにこちらを見つめて私の言葉を待っている。
「ありがとう、みんな。突拍子もない話しだけれども聞いてほしい。そして僚機の皆。皆はとても大きなショックを受けるかも知れない。けれど、どうか……最後まで話を聞いてほしい」
僚機の皆が頷いたのを確認し、私はどこにでも居る普通の人間の話を始めた。
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