第三百二十六話 賢妹
結局上映会は『真・勇者 シャインカイザー』のファンを楽しませ、さらなるファンを増やすという結果を得ることしか出来なかった。
いやまあ、ルクルァシアについての解説を説明下手な私に変わってこれ以上にないくらいわかりやすく伝えてくれたアニメには感謝しか無いし、一応は劇場版に鍵があるのではという気づきも与えてくれたしね。無駄ではなかったと思う。
そしてなにより……斜め上から情報というか、爆弾が降り注ぐこととなったからね。フィオラは明らかにシャインカイザーの物と思われる『円盤』を見た事があり、しかもそれが彼女やレニーの故郷である村に奉納されているという。
何もなければ『鏡と見間違えたのだろう』と思うか『ほほう、私以外にも異世界からの来訪者が?』等と考えたのかもしれないけれど、生憎、私にはあの愉快で厄介な話が解りすぎる神様がつきまとっている。
つきまとっている、って言っちゃ流石にかわいそうか。兎に角、あの神が、私と言う存在が歩む新たな人生を面白おかしな物にしたくて世界に干渉してる疑いがある神が居る以上、フィオラから得られた円盤の情報は無視が出来ない存在だ。
これはまだ私とスミレ、そしてフィオラしか知らない情報だ。
上映会が終わった後に皆と情報共有をしようか迷ったんだけど、この情報を公開するのはまだ保留にする事にしたんだ。
円盤が奉納されているのはレニーとフィオラの故郷の村だ。そして、その村の話はレニーもフィオラも語らない……というか、あえてその話題を避けているというか……ふんわりと『田舎だよー』とか『北なんだよー』みたいな話をする事はあるけれど、何が特産で、どういう人が居てーなんて、昔話はあまりしたがらないんだよね。
『円盤が奉納されている』ってのもまた気になるところだし、きっと何か大きな秘密を抱えた村なんじゃないかって思うんだ。
となれば、その二人に話を聞いてみてから判断すればいい。あまり広めてほしくない様な話なのであれば情報はブレイブシャイン内にとどめて置くし、そうじゃないなら同盟軍レベルで共有するし。
「というわけで、君達に来てもらったわけだが……」
「カイザーさん、なんでフィオラもここに居るの? 大事な話があるって言うから来たのに……」
「あ! またカイザーって言ってる! この体の時はルゥだよ! そっちこそなんでいるのさ!」
どうにもこうにも、この2人は水と油。なんだかんだ言って仲は悪くはないんだけど、どうも顔を合わせれば喧嘩をせずにはいられないらしく、私の頭を大いに悩ませてくれる。
「……呼んだのは二人なんだ、せめて今だけは喧嘩をしないで話を聞いて欲しいな」
私がため息混じりにお願いすると、渋々ながら2人は椅子に座りこちらを見る。動きが揃っている辺り姉妹だなあとか、仲が良いなあと思うのだけど、それを口にすればまた喧嘩が始まる上に私にまで火の粉が飛んでくるためそれは言わずにおいた。
「それで、私達に聞きたいことって? マシュー達が居ないと言うことは……大体想像がつくんだけど……」
レニーが珍しくカンがいい。いや、実際の所何を想像しているのかはわからないけどさ、ここはカンが良いということにしておいてあげよう。
「ああ、察しが良くて助かるよ。話というのは……君達の故郷である『村』についてなんだ」
と、私が言うと、レニーは(あれえ?)と言うような顔をする。
「あ、ああ、そうなんだ……じゃなくて、そうかなって思ったよ! うん! へえ、村ね!ああ、なるほど、それで私達だけ呼んだってことなんだね」
レニー……。
君は一体何を考えていたんだ……? まあそれは良い。本題にはいらなくては。
「もしかしてルゥ、あなたが聞きたい話って例の『エンバン』のこと?」
流石フィオラ。話が速い。レニーには内緒だけど、私はレニーよりフィオラのほうが賢い……もとい、知的……いいや、少々考えて行動を出来るタイプの方だと思っている。うん。
いや、二人を呼んだのは円盤の話が切っ掛けとなっているんだから、フィオラが気づくのは当たり前というか……レニーより察しが良いのは当然というか……別にフォローしなくてもいっか。
「ああ、そうだ。円盤だよ。レニー、フィオラから聞いたんだ。君の住んでいる村の祭壇に鏡のようなものが有るだろう?」
「えーーー! フィオラ!? 村の事、話しちゃったの!?」
「しょ、しょうがないじゃん。言っちゃったんだし! それに……話したと言っても相手はルゥだよ? カイザーだよ? 他人じゃない……それどころか私達の家族同然じゃない! 秘密にするのは良くないよ!」
家族同然……か。なんだかちょっとホロリとしちゃったよ。自分でいうとアレだけど、ここまで共に死線をくぐり抜けて来たんだ。そのセリフはちょっと反則だよ。
「ああ! カイザーさん! どうしたんですか?」
「ばか姉! こういう時は優しい顔で見守るんだよ!」
「わ、わかってるよ!」
……銀髪の姉妹がニタニタと妙な顔をして私を見つめている……優しい顔すんのへたくそかよ。
まったく、こういう時だけ結託しちゃってさ……まったく空気が読めない姉妹だなあ。余計に泣けてきちゃうじゃんか
「ふふ……ううん、なんでもないさ。レニー、聞いて。フィオラに私が知っている道具『円盤』を見せたらね、見たことが有るって言うんだ。しかも君達の村の祭壇に納められているっていうじゃない。
その『円盤』はね、中に情報を……そうだね、わかりやすく言うとレニーが好きなカイザーのアニメなんかもそれに収められていてね、特別な道具に入れると中のアニメを見れる物なんだ」
「え……それって……カイザーさんが見せてくれてるのとは別の物……っていうか、そんなのがうちの村に……」
「うん、今はまだ私の推測にしか過ぎないけれど……もしかすれば私も見たことがない、一番新しい『真・勇者 シャインカイザー』の映像を見ることが出来るかも知れない。
私が知らない闘いの記録にはこちらに来ているルクルァシアの姿もきっと……」
「そ、それじゃあ……そのエンバンを使えば……」
そう、あの神様ならば。私がこの世界で『真・勇者 シャインカイザー』として活動するため最大限の便宜を良くも悪くも図って、ご都合主義とも言える程に御膳立てされた出会いと戦いをさせてきたであろうあの神様ならば、このタイミングで私がそれを手に入れるように運命を捜査していたのであるとすれば――
「ルクルァシアの狙いと弱点がわかるかもしれない」
「シャインカイザーの新作が見れるんですか!!!!」
「お姉……」
「あっはっは! まったく……レニーはそればっかだな……いや、私だって見たことがない映像を見られるのは嬉しいよ。だからレニーの反応も間違いじゃないし、同意したい所だ。でも、それだけじゃない、言った通りルクルァシアの事がわかるかも知れないんだ――」
と、興奮の中、熱く語る私に割り込む形で難しそうな顔をしたフィオラが私に質問をした。
「ルゥが元いた世界でルゥ達の戦いを元に作られたんだっけ、あのエイゾウ……」
「ん? そうだけど、それがどうかした?」
「じゃあ、ルゥが知らない『新たなエイゾウ』って一体何を元に作ったんだろう……? ルゥが知らないカイザー達の新しい物語、それを戦いのヒントに……? ねえ、ルゥ、どうしてルゥが知らないカイザーの物語があるの?」
「そ、それは……皆に見てもらったアレを脚色した新しい物だから……元々の戦いを参考に……――」
「脚色された物語が参考になるのかな? ルゥの話だと、これから戦うルクルァシアって……ルゥが知らない物語から生まれた存在って事になるんじゃないのかな……ねえ、ルゥ。私達に……何か大事な事……隠してない?」
「フィオラ! カイザーさんになんてこというのさ!」
「だって、聞けば聞くほどおかしく感じちゃうんだもん!」
……まいったな、流石にこれ以上は……隠しきれない……かもなあ。
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