異世界輝神シャインカイザーR

第三百二十一話 カイザー、帰還する

「システムスキャン完了。オールグリーン、改めて快復おめでとうございます、カイザー」

「うん、ありがとうスミレ、これで完全復活だ」

　念のため、と言う事で私達はシステム領域全階層のチェックをし、万全である事を確認した。

　眷属の消滅と共に連鎖的に分体達も消失し、カイザーシステムから綺麗サッパリと異物が消え去り、私もスミレも完全復活を遂げたのでありました。

「さて、皆の所に戻りますかねー」

「その姿のまま戻れないのは非常に残念ですね、カイザー」

「うーん、私は別にそこまでこの体に未練は無いかな。以前の人生よりもカイザーとして生きた時間の方が何千倍も長いからね……体感時間は兎も角としてさ」

「いえ、私は別にあなたの意見を求めているわけではありませんよ。私がレニー達に見せられないのが残念だという意味です」

「勘弁してくれよ……。妖精体の一件ですら笑われたのに、この人間体を見せたら一体何と言われることか」

「……私はそこまで悪いようにはならないと思うのですが……いえ、叶わない事をいつまでもグチグチというのは私らしく有りませんね。さ、おいてきますよカイザー！」

「あ、ちょっとスミレ！　ったく、かってなヤツだな君は」

　口では文句を言いつつも、私はスミレとのやりとりに満足をしていた。彼女を無事取り戻すことが出来、本当に嬉しく思う。もし、彼女を失っていたらって考えると…………いや、よそう。考えたくもないや。

　仮想空間から身体に戻るのは簡単だ。『戻る』と強く想う、というかそんな具合にコマンドを打てば良い。既にスミレはあちら側に戻ったようで、いつの間にか姿を消している。

　……スミレはさんざん私をいじっていったけどさ、人間サイズのスミレも中々面白いもんだぞ？　あれこそレニー達に見せたかったよ。

　ま、ここでのことは後でゆっくり野営の時にでも話してやろうか。

　目を閉じ『帰還』と念じた瞬間、スゥっと意識が遠のくような感覚がした。

　…………

　……

　…

『…システムチェック……オールグリーン……状況……クリア……起動シークエンス開始……シャインカイザーシステム…全て良好…オールグリーン……本部との通信……全て省略……システム起動……おはようございますカイザー、私はスミレ 貴方の有能な戦術サポートシステムです』

　む……この感覚……久々だな……。

　頭の中で響くかのようにスミレの声が聞えた。ああ、俺は戻ってきたのか、この身体に。

　ゆっくりと目を……いや、カメラを動かし周囲の様子を伺うと、外では既に戦いは終わっていたようで、地下空洞内に横たわる数機の帝国軍機や拘束された敵パイロットや研究者の姿が見える。

　僚機は全て健在……と言うか、どうも俺が目を覚ますのが遅すぎたようで、俺の周囲には各機パイロット達が集まり心配そうに……いや、違うな……。

　俺の周りにキャンプ道具を広げて食事を摂っているようだ……。

　全く薄情な連中だな……いや、これこそ以前の日常、待ち望んでいた光景……ふふ、これはこれで嬉しいお出迎えじゃないか。

「おはよう諸君、どうやら食事に遅刻してしまったようだな」

　俺が皮肉を込めた挨拶をするとフィオラとラムレットが食べているものを噴き出した。

「うわあああ！　ルゥ？　いや、カイザーか。口調もだけど、その、随分と男らしい声になってしまって……」

「きゅ、急に喋らないでくれよ……びっくりしちゃったよ」

「ああ、スマンな。いや、なんというか妖精体に入ると声も口調も若干変化してしまうからな……君たちはこの姿の俺と話すのは初めてだから驚くのも無理はなかろう」

「ふふ、カイザー……いえ、ル（・）ゥ（・）ち（・）ゃ（・）ん（・）。色（・）々（・）と（・）お話は聞きましたよ、フィオラからね」

「げ、げぇ！　スミレ！　そうか、お前は俺より先に目覚めてたもんな……」

「システム領域の仮想空間に遅延プログラムを走らせてましたからね。中の時間は外よりもかなりゆっくりと流れていました。つまり、貴方がうだうだしているうちに既に５時間が経過しているのです」

　待って、そんな話しは聞いてないぞ……。

　動揺する俺を見てマシュー達がゲラゲラと笑いながら説明をしてくれた。

「いやあ、丁度あたい達が一通り仕事を終わらせてさ、外の連中からも撤収報告を受けて、さあどうするかって時だ。既に動きを止めてたはずのカイザーの目が光ったんだよ」

「そうそう！　私はカイザーさんのパイロットだからね、直ぐにピンときたの！　あ！これカイザーさんが再起動したんだ！　って」

「ふふ、レニーったら速かったですわね。締め上げてたシュヴァルツ弐式を放り投げて、一気に距離を詰めてましたもの。殴り飛ばすかと想いましたわ」

「ひどいよミシェル！」

「フィオラも駆けだしてたのを見てああ、姉妹でござるなあと感動しました。そして間もなくコクピットから飛び出す光球が目に入ったんです」

「それは私ですね。カイザーがまごまごしてるので我慢できず先に外に戻りまして、妖精体で皆の顔を見に飛び出したんですが……シュヴァルツと見慣れない機体にそれぞれレニーが乗っていて……まさかレニーまで分体を？　なんて混乱してしまって」

「お姉ちゃんは私とフィオラの見分けがつかなかったんだよ？　酷くない？」

「珍しくお姉と意見が合ったね！　スミレさん！　ぜんぜん違うんだからね、私達！」

「ふふ、そうでしょうか。まあ、そのお話は追々。そして、シュヴァルツに乗っている方が私を『お姉ちゃん！』と呼び、白い機体の方が『ルゥ！』と呼んだのです。まあ、そこでどちらがレニーかわかったわけですが……」

「まったくお姉ちゃんは冗談ばっかり！」

「でもよく見たらルゥじゃなかったんだよ。それで、ああ、これが噂のスミレさんかって」

「その後は皆さんと再会を喜び合い、フィオラやラムレットと紹介をしあって、今はゆっくり食事を摂りながら『ルゥ』のお話を、可愛らしいルゥちゃんのお話を聞いていた所なんですよ、カイザー」

「……そ、そうか……はは、スミレが……楽しそうで……なによりだ……」

「カイザーが！　めちゃくちゃ！　辛そうだ！　くっそうける腹痛え！」

「や、辞めてあげなさいマシュー！　ふふ、カイザーさんは記憶を失ってルゥちゃんになっていたのですから……くく……」

「まったく二人は……カイザー殿、そう肩を落とさず……まだまだ食事は残ってます故、カイザー殿もルゥに戻ってこちらで一緒に召し上がってはいかがでござるか？」

「そうだよ！　私ルゥちゃんとはあまり話せてないんだから！　ほらほら、ルゥちゃん！　カイザーさんから降りてこっちに来てよ！」

「今日はお姉とほんと良く気が合うね？　そうだよルゥ！　そんな男らしい姿はあとにしてさ！」

「アタイからも頼むよカイ……ザー……さん……。アタイさ、貴方への憧れが溢れすぎてその……お話してると……興奮しすぎて辛いんだよ……ルゥなら平気だからさ……」

　めちゃくちゃ笑いながら俺を煽るマシュー、フォローをしようとして失敗をするミシェル、やさしいのはわかる、わかるが下手くそ過ぎなシグレ。

　どこからどう見ても姉妹にしか思えないレニーとフィオラ、そして何故か俺を見て頬を赤らめるラムレット。

　ジルコニスタは……と、探してみれば、少し離れたところからなんだか気の毒そうな顔で俺を見ていた……っく、頼りにならん奴め。

「皆さんもそう言ってますし、さあ！　観念してコクピットから出てきなさい。ルゥちゃん」

　そして一番容赦が無いスミレ……。

　なんだかとっても辛い、辛いが……やはりこの光景はとても眩しくて暖かい。ああ、俺は、私は……ようやく帰ってきたんだ。

　全てを諦め……いや、受け入れて妖精体となりコクピットから舞い降りる。

　皆の笑顔に向かい入れられ、照れながら俺（私）は顔を上げた。

「ただいま、みんな。そして改めてよろしくな」

　後片付けはまだ残っているが、今は再会と新たな出会いに乾杯をしよう。

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※ 本日の更新はこれに続き、２話分のキャラ設定集が有ります。

　本編では語らなかった情報が書かれているかもしれないので、良かったらご覧ください。