第三百二十話 決戦
一撃、二撃と剣を振る度に、気色悪い液体を撒き散らしながら触手が数を減らしていく。
まさかここまで派手に弱体化するなど考えていなかったため、今でも狐につままれたような気分だ。
この【眷属】の攻撃手段は『触手』『魔力霧』『侵蝕』そして……
「敵機、魔力反応増大。ブレス来ます。退避を推奨」
「ブレスだぁ? 流石はルクルァシァの劣化コピー……眷属ならば当然同じようなスキルを持つか」
攻撃を中断し、距離を取る。ルクルァシァは面倒なことに複数のブレスを使用可能。
ブレスは属性というか、性質により対策が変わってくるため、アニメの戦闘を思い返せば複数の属性を放つヤツにはかなり苦しめられていた。
しかし……
「敵機より距離400を取り上空に退避する。ポイント到着後、スミレはデコンターミネーターの召喚にそなえて」
「あの掃除機ですか? なぜ……いえ、なるほど。腐ってもカイザーですね」
「別に腐ってないからね?」
ジャブのように毒を撃ちこんでくるスミレ。全く身内から先にポイズンブレスを喰らってどうすんだよ。
そう、この眷属が放とうとしているのは恐らくポイズンブレスだ。理由として奴の推定残存魔力量が残り僅かであることが挙げられる。
設定資料集のコラムによれば、ブレス攻撃は『闇力』(笑)を消費して放たられるらしい。
思わず鼻で笑いたくなるその名称は、恐らく輝力の対極となるもののイメージでつけられたんだろうな。
カイザーって一応子供向けアニメだからね。
その闇力はこの世界において『ただ単に気色が悪い魔力』という扱いなのが面白いのだけれども、まあそれは置いておいて、奴の残存魔力を考えるとブレスは吐けてひと吐きだ。
あっちもこちらと似たような状況だけれども、あちらさんはブレスを吐いたら魔力が枯渇するという事はないため、それを避けたからと言って終わりとはならない。
あくまでもブレスを吐くだけの魔力が無くなると言うだけだからね。
奴が放つポイズンブレスは『ブレス』のくせに液体である。霧と言うには粒子が荒い液体を撒き散らす攻撃で、猛毒を含むそれは触れたもの、吸い込んだものに『溶解』という残酷なダメージを与えるのである。
その『溶解』にこそ奴がこのブレスを選択するであろう理由がある。
このブレスはアニメにおいて、街の人々を溶かすために使われたわけではなかった。それはきっと子供向けロボットアニメ故の配慮だったのかもしれないね。
アニメでシャインカイザーに追い詰められたかにみえたルクルァシァがニヤリと笑って超至近距離で放ったのがこのブレス。
カイザーは避ける事ができず、左肩から腕にかけて部分的消失という手痛いダメージを受けてしまうのだが、奴の狙いはそれだけではなかった。
ポイズンブレスは輝力と反応……蝕み、それを闇力に変える。つまりは小腹を空かせたルクルァシァのオヤツにされてしまったというわけだ。
そしてこのOS内部においてそれは最大限に効果を発揮する。言わばカイザーの体内とも言えるこの場所でポイズンブレスを吐けば、構造物の何処にあたってもそれを蝕み、輝力を魔力変換し、糧にすることが出来るわけだ。言わば奴に取って一発逆転の鍵であり、この場ではこれしか方法がないわけだ。
正直な話、眷属が定期的にブレスをそこら中に吐いていれば今頃システムの乗っ取りが完了していたんじゃ無いかなって思う。
……そこまでの知能が無かったことを幸いと思いたいね。
「ブレス噴出確認」
「やはりポイズンブレスだね。よっし退避完了! 原作通りに歯行かないぞっと。
では、このまま待機……ふふ、あいつ今頃してやったりと思ってるんだろうな」
「そうでしょうね。でも……そうはいきません。魔力霧発生確認、カイザー対処を」
「あいよ。デコンターミネーター起動! 魔力霧除去開始!」
フィイインと軽快な音とともにファンが回転を始め、霧が生み出される側からグングンと吸い込んでいく。それを見て悔しそうに触手を動かす眷属。馬鹿め、これでお前は手詰まりだ!
悔し紛れに再度ブレスを吐き出そうと頑張っているが……やはり魔力切れなのだろう、いくらブレスモーションをした所で出るものはなにもない。
そして漸く己の失敗を悟ったのか、激情するかのようになんとも表現のしようがない奇声を上げ、こちらに向かって動き始めた。
「奴さん、手詰まりと見て怒りの体当たりと来たか」
「コアの位置は継続してロックしています。カイザー、引導を渡しましょう」
「ああ!」
もし、こいつでと外で出会っていたらと考えれば、きっと苦戦しただろうさ。
オペレーションダーソンなんて、装備不足の現実世界では再現不可能だし、ストレージを利用したカスタムなんてのも無理があるからね。
きっとOS世界ではなく、外で戦っていればもっと苦戦し、辛い戦いになったことだろう。
だからここで、OS内で戦わせてくれてありがとうと言いたい。礼代わりと言っては何だけど、せめて一撃で決めてあげようじゃないか。
「カイザァアアアアアブレェエエエド! 召ッ喚ッ!」
気合十分の掛け声とともに手の中にカイザーブレードが現れる。普段のブレードと何ら変わらない形の剣だが、ここからがこの技の見どころだ。
「モード:閃光剣ッ!」
「緊急時により各部署からの承認を省略【モード:閃光剣】承認します」
この手のアニメ特有の謎承認を経て、仮想人工衛星から追加パーツが射出される。それは一瞬で目の前に到達し、カイザーブレードの真の姿を呼び覚ます。
『人工衛星から射出』という問題が有るため、この世界では再現不可能なこの技も仮想空間であれば問題ない!
「ゆくぞ! 閃ッ光ッ剣ッ! うぅおおおおおおおおお!! シャインンンスラアアアアアッシュ!」
衛星から送られる輝力を吸い、機体の数倍にも及ぶ巨大な光の刃となったその剣は私の掛け声とともに眷属の身体に到達する。
斬った側から再生するため、ヌルリと刃が通り抜けているかのように見えるが……パキリという手応えを感じた瞬間、光の奔流と闇の霧が入り乱れ空間を埋め尽くしていく。
やがて光が闇に打ち勝ち、あたりはまばゆい光に包まれた。
「カイザー!」
「ああ、ああ!」
煌めく光子の雨が降り注ぐ中、見慣れた景色が、侵蝕前の景色がそこには広がっていた。
「浸食率0%、システムオールグリーン。我々の勝利です、カイザー」
「そうだな、そして改めて言おう。ただいま、スミレ、おかえりスミレ。また君と逢えてよかった」
「……ええ、私も今日という日を迎えられて……本当に……嬉しいです」
「みんなも……レニー達も外で待ってるよ。さあ、帰ろうか!」
「はい、カイザー!」
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