第三百十六話 空想合体
長い年月をかけ、じっくりと帝国を……いや、この世界を侵蝕し、じっくりとその時を待っていた存在、その正体は恐らく【深淵より訪れし者 ルクルァシァ】
この、とってつけたかのように
普通に考えれば支離滅裂な考えなんだけど、あの神様ならやりかねん。だって……
『君の記憶を参考にして分かりやすく説明しよう。街づくりゲームで安定しきった頃、災害を起こしたり宇宙人に攻め込ませたりしたくなることは無いかね?』
こんな事を言っていたから! 全く迷惑な神様が居たもんだけど……まあ、そんな神様だからね。不幸な事故で『魔獣』という物を発生させてしまっていても何ら文句のひとつもこぼさないんだろうな。
……その事故すらも今となっては仕組まれていたのではと邪推してしまうけれど。
さて、今私の前でスミレと戦っている存在、それは奴の眷属だ。眷属とは言え、私の身体からリソースを奪っている今、このOS世界内では恐ろしく強大な力を奮うことが出来ている。
現在の侵食率は27% 。かなり削っては居るけれど、それでも奴が力を奮うには十分というわけだ。
そしてこの状態、私が身体を侵蝕されているというネタは偶然か否かわからないけれど、しっかりと原作再現なんだ。
ただ、原作では現在の私達とは違い、物理的な解決方法をとっていたんだけどね。
原作では眷属の除去方法からしてかなり雑だったんだ。
まず、僚機達の協力によってカイザーの身体から無理矢理に剥ぎ取るんだよ……無理矢理だよ? 力業にも程があるよ。
そして異物が除去され、見事復活を果たしたカイザーは合体してシャインカイザーとなり、駆除をするため様々な策を……それこそたこ焼き作戦等、色々と試した結果、最終的には『やっぱ力こそパワーだぜ』と言わんばかりに力でねじ伏せちゃったんだよな。
それができなくて困っているのが今。
原作と違って、物理的に触れる存在では無いため、眷属を外に引きずり出すのは難しい。
スミレだってそれが出来ないから、今までここでこうして護りに徹していたわけだ。
私が侵食率を下げ、駆けつけた今となってもその状況は変わらない。つまりは二人でなんとかするしか、この場で駆除をする他ないわけだ。
というわけで私が出した案が『合体』だ。
その発言にスミレは大きな顔をしかめ、こちらをチラリと見た。
『……カイザー、頭はハッキリしていますか? 声や口調が少々おかしな様子も見受けられます。自分で不調は感じられませんか?』
『それについては今は触れないで! いいかい、おかしな事を言ってるように聞えるかも知れないけれど、至って私は正気だよ。眷属には生意気なことに炎耐性、凍結耐性、後は見た目通りに物理耐性までが備わっていてね、ちょっとやそっとの攻撃じゃどうにも出来ないんだよ』
『何処でその情報を?……ああ、アニメの再現とおっしゃっていましたね』
『そうだね。そして困ったことにダメージカット……見た目に反して硬い体表は生半可な攻撃は跳ね返してしまうんだ。
仮の数値で言えば、奴は1500以下のダメージを全て無効化するんだけど、対するカイザーが与えるダメージは1000、それも物理体制で500に半減してしまう』
『どおりでいくら斬っても殴っても押しとどめるのがやっと……消滅に繋がらないわけです』
『恐らく君のステータスも私に準じた物だと思う。しかし、シャインカイザーとなれば話しは別。合体すればこちらが与えるダメージ量は耐性を考慮しても2000を優に超えるはず。
残念ながら現状、シャインカイザーになることは不可能だけれども、私と君が合体をする事により、その力を再現する事が出来る……筈なんだ』
『……お話はわかりましたが、ひとつお聞きしたいことがあります』
『なんだろうか』
『今の私は見ての通り大きなスミレです。つまり、合体機構等はありませんよ? あなたがご存じのスミレがそのまま大きくなっているだけの存在ですよ? 一体どうやって合体しようというのですか』
『なんだ、そんな事か。巨大化までしておいてそんな頭が固い事を言うとはね。
しかし、少しでも疑問に思ってしまえば上手くいかないかも知れないな……ならばプランBで行こう』
『プランB? それは……?』
『合体はする。するが、君は特に意識をせず、私が合体をする隙を作ってくれればそれでいい』
『隙ですか……? ご覧の通り、奴はデカいだけデカくて動きが緩慢なので、やろうと思えばいくらでも可能ですが……合体と言っても一体……』
『ならば結構! 良いかい、スミレはそのまま全てを、私の全てをありのままに受け止めてくれればいい』
『わ、わかりました!……いけます! いつでもどうぞ!』
『ではいくぞ! うおおおお! カイザアァァモォオオオオオドッ……チェエエエエエンジ!!!』
『カ、カイザー?』
『モオオオオオォオオドッ! アーマアアアアアアアッド!』
『なっ!?』
私のかけ声と共にコクピットに現れた『MODE:Armored 』シャインカイザーにこんな機能は勿論無い。そもそも、カイザーは合体ベース機体であるわけで、今現在の状況のように分離することはあり得ないのだ。
『カイザーが……バラバラに分離……している……?』
『うむ! ようし良い子だスミレ! そのまま受け入れろ!』
『ああっ! カイザーが私に! 私の身体に! 入ってくる!』
待って、それはちょっとちがくない?
まったくあんまり変なセリフを言わないで欲しいよ………。
分離した私がスミレの装甲として身体に装着され、形式的に『機体名:スミレ』のシステムに接続しているだけなんだからさぁ……。
巨大な妖精さんとしか言えなかったスミレにカイザーの各パーツを装甲として装備し、ロボット少女のような外見へと変化させるわけだ。
ふふ、正直言ってグッとくるね。
演出としてまばゆく輝くエフェクトも忘れちゃいけない!
さあ、この光が収まったらばいよいよお披露目だ!
「どうだ! これぞこの空間内でのみ可能な特殊合体! メカ少女カイザーだ!」
「……そんな機体名聞きたく有りませんでした……」
「言わないでよスミレ……って、スミレ!?」
「えっ!? あれ? いえ、貴方は……カイザー……なのですか?」
仮想空間内はイメージの世界だ。私が『合体する』とスミレに伝えたのがスミレの思考に影響を及ぼしたのか、私のコクピット内にはシートが増設され、そこには人間サイズのスミレが困惑した顔で座っていた。
てっきり私は私で別の場所にくっつけられると思ったんだけどな。
スミレが困惑している理由は二つ。私と同じく、復座になるとは思って居なかったという驚き。そしてもう一つは…………
「なるほど、その姿が『カイザーを見ていた頃の』貴方なのですね」
「ああ、そうだよ。これが私。でも、今二人で取り戻そうとしているのも私。
そう、この世界でスミレや皆と過ごしたカイザーもまた紛れもなく私なんだ
……私自身、この姿に色々と困惑しているけど……今はこっちのが返ってやりやすい」
「……色々と伺いたいことはありますが、それは後の楽しみにしましょう。
ふふ、それにしても、こうしてカイザーと再び肩を並べて戦えるなんて!」
「あはは、私もまたスミレと戦えるなんて嬉しくて仕方が無いさ。さあ! 行くぞスミレ!」
「はい! 共に奴を打ち破りましょう!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます