第三百十五話 敵の正体
霞の向こうで戦う巨大人型兵器、それはそのまま凄くでっかくなったスミレだった……。
そのスミレと相対しているのがまた、良くわからない、なんとも形容しがたい存在。
黒に近い紫色の触手的なものがまとまって構成された身体、その隙間からは怪しく漏れる紫色の光が見え、全身から如何にも身体に悪そうな、これまた紫色の霧を排出している。
体表はなにかドロリとした傾向グリーンの粘液で覆われていて、正直に言ってしまえば絶対に触りたくない……そんな姿をしている。
「スミレ……コイツは一体なんなんだ?」
『黒龍の魔力の残滓……いえ、それだけでは片付けられない言わば意思を持つコンピュータウイルスのような存在です』
意思を持つ……コンピュータウイルス?
信じられない……いくら剣と魔法の世界とはいえ、そんな存在が……いや、待て。
私は何か見落としている。大切なことを、この自体の発端と言うか、原因となる鍵を見落としている……。
これまでの旅……カイザーとしてブレイブシャインと過ごした日々……? それともルゥとしてフィオラ達と過ごした日々……? いや、違うな。
この引っ掛かりは私が私として生きていた頃、この目で見た存在。
そうだ、黒龍なんてファンタジーな存在に引っ張られて気づけなかったけれど、この気色悪い存在は覚えがある。
……ああ、神様が言っていた言葉を思い出せばソレがストンとハマるわ。
あの日神様はこう、言っていた。
『あ、もちろんフル装備にしておいてあげるからね。折角シャインカイザーになるのに必殺技の再現が出来ないんじゃ寂しいだろうしね。他にも作品再現のため便宜を図っておくよ』
"必殺技の再現が出来ないんじゃ寂しいだろうしね”
”他にも作品再現のため便宜を図っておくよ”
これは純粋に私や僚機のみんなの装備品に関する話だとばかり思っていた。でもそうじゃない、考えても見ればそれだけじゃ足らないってわかる。
新しく始まったロボアニメの玩具を買う際、敵対組織のロボもきちんと私は買う。なぜならば、家で一人ブンドドする際に相手となるロボが居ないと非常に寂しいからである。
つまりは神様のやつ、その悪役まで再現してしまったのだ。
シャインカイザーの宿敵【深淵より訪れし者 ルクルァシァ】たしかにアレは見方によっちゃあドラゴンに見えなくはなかった……けれど、どちらかと言えばルルイエからこんにちはしそうな見た目だった。
黒龍としてこの世界に用意されてしまったルクルァシアは私の宿敵として長きに渡って力をため、いつか訪れるであろう決戦に備えていたのかも知れない。
そして第一戦となったあの日、隙を見てやつは搦手を使った。つまりは私の身体を乗っ取る作戦であり、実に憎いことにそれは原作再現なのです……。
シャインカイザーに登場するルクルァシァは我が身から創り出した分体を眷属とし、カイザーの体内にそれを送り込んだ。それはやがてカイザーシステムを乗っ取り、しばしの間主人公たちからカイザーを奪い去ってしまったのだ。
まさに今回の状況はそれだ。
原作と違うのは……それに抗う存在、そう。原作のスミレよりも強く、賢く、そしてとってもかわいいスミレが居ること。
そうだ、私は自分の身体を取り戻しに来たってより、スミレを返してもらいに来たんだ。
さっさとルクルァシアの眷属なんて駆除しちゃって、一緒にみんなの元に帰らなくっちゃ!
『スミレ! 私も加勢するぞ! 戦況は!?』
『敵機は内部にシステムコアを取り込み侵蝕を進めています。申し訳ありませんカイザー、私には抑えるのが精一杯でシステムコアの奪取は叶いませんでした……』
『ああ、気にしないで! 奴は……黒龍の正体はルクルァシァと推測される。つまり、目の前にいるのはヤツの生み出した眷属……分体だ。どこかにルクルァシァの眷属と戦った際に取ったデータは残ってないかな?』
『ルクルァシァ? それは確かアニメの……いえ、確かに……言われてみれば酷似している部分はあります……しかしカイザー、申し訳ありません。その手の戦闘データが格納されているストレージは現在侵蝕されていて参照することは出来ませんでした』
くっ、きっと私が撃ち漏らした箇所、あまり手を入れなかった2階層か4階層のストレージに格納されていたのかも知れないな。となれば……私の記憶が頼りか……。
ルクルァシアとその眷属は何処かタコのような触手を持つことから、主人公たちの思いつきで焼却作戦が立てられた。合言葉は『世界一デカいたこ焼きにしてやる!』だったな。
終盤のシリアスなシナリオの中、唐突に現れたギャグ要素に文句を言うファンも多かったが、シャインカイザーの対象年齢はあくまでも8歳~12歳。
大人のためのアニメではないのだから別にいいだろうと、文句を言うのは筋違いであると言うファンと、いいや、ある意味大人向けのアニメなのだと、それに噛み付くファンとで少々掲示板が荒れたのを覚えている。
しかし、視聴者を騒然とさせたこのたこ焼き作戦は失敗に終わるのだ。
どう考えても効果的に思えたその作戦は失敗に終わり、アレだけ喧嘩していた実況スレが『効かねえのかよ!』で一体化した時は笑ったなあ。
そして、結局の所どうやって片をつけたのかと言えば、まさかのゴリ押しだった。
最後はやはり剣が勝つ、そう言わんばかりの強烈な一閃でしとめたんだけど、私はちょっと釈然としなかったな……。いやかっこよかったんだけど……ってこれはどうすればいいんだ。
やつを一閃出来るレベルの出力を出すにはシャインカイザーが必要だ。しかし、今の私はカイザーで、僚機を呼び出すことは不可能。
……まって。
僚機なら居るじゃない、とびきりの仲間が目の前にさ……。
『スミレ、作戦を伝える』
『はい、何でしょう』
『やつを倒すには高出力の斬撃が効果的だ。それを実現するためには、今ここで実現するためには……方法は一つしか無い』
『それは一体……!?』
『ああ、スミレ! 私と合体しよう!』
『』
何故かめっちゃ罵られる私。なんでなのかわからない、わからないけれど、改めて作戦を説明し、なんとか納得をしてもらうことが出来た。
まったく、スミレのやつ何を想像したんだよ……。
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