第三百十四話 再会……しかしその姿は
魔素というのだろうか、よくはわからないが、紫色の微粒子……霧のような物に肉眼もレーダーも阻害され、遠くの状況が今ひとつ確認できない。
しかし、ぼんやりと浮かび上がるシルエット、それはまるで――
「怪獣映画……? いや、新創記エヴァンジェリンの使徒とエヴァンジェリンの戦いを見ているみたいだ……」
エヴァンジェリンに登場する使徒、それは特撮映画アルティメイトマンの影響を受けたかのような奇抜なデザインを持つ怪獣的な異形の存在だ。
昔のロボットアニメには恐竜のようなものや、なんとも表現し難いそれこそ使徒のような物もそれなりに存在したんだけど、近年のロボットアニメの敵対組織といえば、大体が同じ人間かそれに準ずるもので、戦闘相手も大体がロボットだったわけだから、あの特徴的な使徒はある意味話題になった。
そのエヴァンジェリンの様だと私が思ったのは敵対している良くわからないシルエットもそうだけれども、恐らくは味方……状況を考えればスミレが関係しているであろう存在……ロボットと言うには人間的なシルエットが目に入ってしまったからだ。
エヴァンジェリンに登場する機体は厳密には『ロボット』ではない『汎用人型対使徒兵器人造人間エヴァンジェリン』だ。ガンダミに登場する人形兵器『モービルスーツ』をロボットと呼ぶと怒られるのと同様に、エヴァンジェリンを『ロボ』と呼ぶと喧しく怒る層は一定層居る。
そのエヴァンジェリンのように、ロボットと呼ぶにはあまりにも人間らしい肢体を操り敵を『殴る』その姿……
「あれはきっと……ううん、確実にスミレなんだろうなあ……」
あの日、スミレは単身この体に残り今日までシステムの侵蝕を抑えるべく戦ってきたはずだ。仮想空間的なOS内だけれども、別に仮想空間として扱わなければいけないということはない。
私は元々人間だし、プログラムに明るいというわけではないし、仮に生前プログラマだったとしても、恐らくは未知のプログラムであろうこのシステムをキーボードを駆使してなんとか出来るとは思わない。
だからこうして仮想空間として『認識』し、直接意識をダイブさせてイメージを持って敵性プログラムの除去に励んでいるわけなんだけれども、スミレに関して言えば、もうこのカイザーシステム専属なのでそれ以上に柔軟な事ができてしまうはずなんだ。
そう、リソースさえなんとかすればそれこそ呼吸をするようにシステムに干渉し、自在に対策することが出来てしまう。
だから、ダイブをした私から見てスミレの戦いがどの様に見えるのか、侵蝕の大本である敵の核たる存在を我が身を犠牲に抑え込んでいるのか、何か結界のようなものを張って抑え込んでいるのか……恐らくはそのどちらかであろうと思っていたんだけど……。
「まさか肉体言語で対話しているとは……いや、ある意味スミレらしいのか……?」
ドラマチックな再会というものに期待があったわけではない。あったわけじゃあないんだけど、これはちょっと予想外だ。
あまりにも予想外過ぎて力が抜けてしまったが、スミレは決して有利とは言えない状況だ。私が侵蝕率を抑えてようやくなんとか迎撃出来るレベルにまで持ってこれたのかも知れない。
『スミレ! スミレ! 聞こえるか! 私だよ! カイザーだよ!』
『……!? カイザー? そこにいるんですか? カイザー!』
『ああ、ここからでも君の? 戦いが見えるぞ! 良くやったね! 私も今からそちらに向かう!』
『……ええ、ええ! 言いたいことは色々とありますが、お待ちしています! よくぞ無事でここまで……!』
……言いたいこと? それはあんまり聞きたい言葉ではなかったけれど、今は目先の仕事を片付けるのが先だ。
余計な戦闘を控えていたお蔭で輝力はかなり回復している。今なら全速力で飛んでも問題ない。フライトユニットへの出力を最大限に回し、スミレのもとに急ぎ飛んだ。
やはりと言うかなんと言うか、この霧は煩わしい。普通の水と比べ、存在感が有りすぎると言うのだろうか。やたらと粘度が高い、例えるならば泥の中を泳いでいるような気分になってくる。
これはスミレ達の所に近づくにつれひどくなる。輝力と魔力は似て非なる物だが、そこまで相反するものではない。輝力を持つレニーだけれども、魔力量が0というわけではないし、それなりに魔力を持たなければ操縦することが出来ないシュヴァルツを乗りこなしていた事から内包する魔力量がなかなかの物だという事はわかる。
なので普通に考えればいくら魔力の霧、魔素が多く含まれる霧の中であってもここまで動きにくいということにはならないはずだ。つまりはこの魔素があまりにも異質な、言うなれば黒龍の持つ邪悪な因子の影響を受けた厄介な存在なのかも知れない。
それでもなんとか私はスミレの元にたどり着く。ああ、ここからならもう完全にその姿が見える……。
私の視界の先に立ち、固く握った拳を叩きつけている人型巨大兵器……紛れもなくそれは……
「スミレだ……超デカいスミレが……そのままおっきくなったスミレが戦ってる……」
『カイザー……おっしゃりたいことは解りますが……緊張感が削げるのでそういう発言を改めてするのは辞めてください……』
すかさずスミレから通信が入りたしなめられる。いいじゃんか、私だって脱力したんだし……。
しかし、このやり取り久々だな。倒すべき敵を目の前にしているというのに、何だかちょっぴり和んでしまった。
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