第三百十三話 下がるSAN値
侵蝕度が下がり、目的地である5階層に近づいたこともあってか、突如としてスミレからの通信が届いた。ノイズまみれで殆ど何を言っているのかは解らなかったが、それでも彼女の無事がわかりとっても安心した。
こちらからはスミレの存在を感知することは出来ないんだけど、あちらからは私が接近していることが分かるのだろうか? じゃなければこんなタイミングよく通信をするだなんて出来ないはずだよね。
さて、次の階層にと行きたいところだけど、まだちょっと輝力が回復しきれていない。そりゃそうだよね、あんだけ派手に暴れたんだから。
なんだか訓練中のマシューを思い出すな……。
あの子は訓練中、何度も何度も輝力を使い切って気を失ってたっけ。流石に私はそこまで使い切っては居ないけれど、あの状態で敵に囲まれていたら……と考えるとゾッとする。
飛行系ガーディアンが居ないのがホント幸いだった。
そう考えると、次の階層ではあまり無理ができないな。正直なところ、現在まではちょっと無理をすればなんとか殲滅可能だった。ガーディアンの数は確かにそれなりに多かったけれど、行動パターンはお粗末なもので、柔軟に判断をしてこちらに攻撃を加えるということをしてこない。
正直なところ、私がこっちに来る前にやっていたゲームに出てくる敵AIの方がずっとずっと賢い。見つかっていないと思いこんでビルで狙撃をしていたつもりが、いつの間にか背後を取り囲まれていてズドン!
主観モードで楽しくヘッドショットを決めまくっている時にそれをやられると、かなりドキっとしたもんだよ。
もっとも、暫くの間隠れていればジワジワと敵の警戒レベルが下がり、油断した所を後ろからCQC! なんてことが出来る辺りはやっぱりゲームだなあと思ったもんだけどさ。
そんなレベルで雑魚いガーディアン達にあのスミレが遅れをとるとは思えない。普段のスミレを思い浮かべれば妖精体が頭にぽんと浮かぶから、それがガーディアンを殲滅するーって絵は想像しにくいけど、なんといってもここはOS空間だ。その気になればスミレだってカイザーを召喚し、乗り込んで操縦するくらいは出来るはずだ。
これが全く別の端末のOSだったり、スミレが別のロボに乗っているAIだっていうなら話は別だけど、スミレは私のサポートAI。
現実世界でだって、私が許可を出せばカイザーの操縦は可能なわけだからね。
スミレが派手に暴れられていないと言うことは、5階層にはきっと親玉が、侵蝕魔力の源であり、あの日私達を討ち破ってバラバラにした憎き黒龍の残滓か何かが居るのではなかろうか。
スミレはそれを抑え込むのに全リソースを注ぎ込んでいて動くことが出来ない、結果としてジワジワと敵に浸食されるまま耐えることとなってしまい、とうとう本体の操作系統まで奪われてしまっていた……そんなところじゃないかな。
であれば、私も備えなくてはいけない。トリガーハッピーならぬマッドボマー的な無差別爆撃はもうおしまいだ。
……空爆は最低限に抑えてさっさと5階層を目指そう。
◇◆
なんとか無事に? 4階層のゲート・ガーディアンを爆散させ、降り立った5階層は今までの階層と比べかなり狂気レベルが上っていた。なんというか、いわゆるSAN値が下がりまくる景色が広がっていると言うような感じ……。
仮想空間なので、天井にもきちんと空が有って雲が浮かんでいるんだけど、空の色は毒々しい紫色で、緑色の雲からはドロドロとした何かが絶えず地上に流れ落ちている。
地上に蠢いているのは最早侵蝕ガーディアンと呼んで良いのか疑わしい、なにやらヌラヌラぬめぬめとした表現しにくい者たちである。
施設や四方に走る道路も『ヌメヌメが乗っている』と言う状態ではなく、兎に角全てが良くわからないヌメヌメや触手的な何かで構成されていて……これはとてもじゃないがレニーたちには見せられない光景だ。
普通の人間なら正気を保つのが難しいのではなかろうか……というか私がここまで耐えられているのが少し信じられないレベルでこれは中々にキツい場所だぞ……。
ズルズルニチャニチャと嫌な音をさせながら『何者』か達がこちらに向かって這ってくる。
「これは流石に……輝力の節約をしたいとは言え、地上を歩くのは避けたいところだね……」
ただ単に気色が悪いと言う理由だけであれば、私だってそこは我慢をしてフライトユニットを諦めるのだけれども、ヌラヌラとした地面と『何者』か達が絶妙に混じり合い、何処に潜んでいるか非常に分かりにくい状態である。
何より参ったのが、周囲に濃く広がっている気色悪い魔力により、レーダーが阻害されていることだ。索敵のため展開しているレーダーでは何も捉えられず、目視に頼る他ない。
その目視すら霧のように広がる魔力によってかなり制限されているため尚更手が悪い。
仕方なくフライトユニットを展開し、空へ上がる。
空であっても油断はならない。怪しげな雲から良くわからない粘体がグチョグチョと地上に滴り落ちている。ぼーっと飛んでいようものならそれに巻き込まれ地上に落とされてしまうことだろう。
「……うう……これが私の中だって考えると非常に気分が悪い……あの時スミレが妖精体に私を隔離してくれなかったら……ううっ、想像したくないな」
余計な事を考えていると耐えられなくなりそうだった。
ひとまず思考を切り替え、頼りにならないレーダーは諦めて目視でスミレが居るであろう最奥部を目指す。
この状況で果たしてそれが叶うのだろうか? 一瞬弱気になったけれど、それは驚くべき光景と共に杞憂に変わった。
「……なんだあれは……向こうで何かが戦って……おいおい、待ってよ……まさかアレは……スミレなの?」
ボンヤリと霞む遠い場所に浮かび上がる巨大なシルエット。まだ完全には姿を捉えることが出来ないが、怪獣の様な何かと戦う……巨大ロボのような何かの姿が見えた。
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