第三百十二話 カイザー調子に乗りすぎる
多少過剰火力とも言えるボルカニック・キャノンで周囲の侵蝕物質を侵蝕ガーディアンと共に一掃した結果、システムの侵蝕率はなんと57%まで低下した。ここまで取り戻せればリソースにもかなりの余裕が出ていることだろう。
となれば、試すほかあるまいて。
シャインカイザーの設定上のみ存在しているあの装備。ヤタガラスとの合体を考慮してアニメでは勿論、玩具としても登場しなかったあのユニットの召喚が出来るはずだ。
「召喚! フライトユニット!」
別に『召喚!』とか言わなくても良いのだけれども、やっぱりそこは気分よね。設定にしか存在しないそれがこの世界に存在してくれているのかはわからないけれど、少なくともOS上では再現できるはず、そう信じて念じてみればきちんとカイザーの背中にそれは現れた。
偵察用のドローンを飛ばし、全周囲からの映像をモニタに映す。無論、移しているのはカイザーの勇姿である。
「うおお……かっこいい……何故これがボツにされてしまったんだ!?
おのれスポンサー! 知らんけどきっとお前たちのせいなんだろう!」
誰の権限で没になったかはわからないけれど、取り敢えず玩具メーカーのせいにして怒りを収めておく。だってそれくらいかっこよかったんだもん。
ヤタガラスと合体した際に装着される飛行パーツは黒、もしくは紫色だ。それはそれで非常にかっこいいんだけれども、カイザー専用パーツとして用意されているこの飛行ユニットはそのボディカラーである『ホワイト』に合わせて作られているため、これはこれで一体感があって非常によろしい。
「さて、早速飛んでみようか」
シャインカイザーとしてレニー達の操縦の元、飛行経験はたっぷり積んでいたのもあってスムーズなものである。3階層を我が物顔で旋回し、目についた侵蝕物質をグレネードで破壊していく。
「……正義のロボットとして都市空爆は如何なものかと考えてしまうな。この絵面はどう考えても悪の組織だ……」
しかし背に腹は変えられない。そもそも街に対して私の攻撃は通らないのだからガンガンいける!
結局4階層への入り口に向かいながら相当数の施設を開放し、この時点で侵蝕率を46%まで下げることが出来た。
これで半分を超えた。これならばスミレもだいぶ動きやすくなっているかも知れないぞ。
下を見ればアサルトライフルを構えたゲートガーディアンがゲート前で頑張っていたけれど、それも空爆すればどうということはない。周囲の侵蝕施設もろとも爆破し、私は4階層へと抜けた。
いよいよ残すはこの階層のみ。ここを突破すれば最深部、スミレが守っている筈のコアシステムに到達できる。
4階層とは言え、先程まで居た3階層とさほど違いはない。むしろ重要施設が置かれていないこちらのほうが敵影が少ないくらいである。
「それでもやることはやりながら進んでいこう」
恐らくはコアシステムに取り付いている大本を倒せば連鎖的に各階層の侵蝕物質も消失するのだろう。しかし、それと戦うためにはなるべく侵蝕率を下げ、こちらが使えるリソースを取り戻して優位に立つ必要がある。
まごまごしているとリスポーンした物質により、再度侵蝕率を上げられてしまう。
――だから、ここは悪役っぽいとかなんとか言ってる暇は無いんだよね!
両手いっぱいに召喚したグレネードを手当たり次第に投げ落としながらゲートを目指す。冷静になって見ればやっぱりやってることは
ボルカニック・キャノンも装備して焼き払いつつ飛ぼうか? いやいや尚更悪い。そもそもフライトユニットに干渉するから同時に装備は不可能だよ。
そんなわけで
武器の召喚、つまりこの仮想空間内に装備品を実体化させるのにはカイザーが持つリソースを使用する。そのため、侵蝕率を下げれば下げるほど、描画処理がキツい大物や特殊兵器の召喚が可能となるわけだけれども、それを使用する際に消費されるエネルギー、これは私が持つリソース……つまり輝力が消費されてしまう。
現在の私はカイザー本体から隔離された分体であり、輝力炉を備えている本体と違って内蔵されているエネルギー量が少ないのだ。
それでも小型の輝力炉のようなものを積んでいるため、少し休めば失われた輝力は回復できるんだけど、やはりこうやって連続運用していると……長くは持たない……のだ……。
やばいやばい! 退避ー!
調子に乗って爆撃をしてきたツケが回ってきた。流石に飛びながらここまで派手にやれば輝力も尽きるというもの。
慌てずゆっくり、なるべくガーディアンに襲われにくい場所、高い建物の屋上に降り立ち、しばしの休憩。
ここまでで侵蝕率は32%にまで下げることが出来た。後もう少し……後もう少しだ……。
『……ザー……イザー!……カイザー!』
む……何か聞き慣れた声が聞こえる。危ない、眠ってしまう所だった。眠いという感覚は何だか久しぶりで、ついついそれに甘えるところだったよ。
……声?
『イザー!……えます……か?……レです……』
この声は……!
『ああ、雑音がひどいが聞こえるよ! スミレ! スミレだね!』
『イザー? 声…が……んで……が……』
ええい、雑音が煩わしい。もう少し、もう少しだけハッキリと聞こえてくれ。
『…めですね……しは……無事です……イザー……れて……りがとう……』
『無事なんだね!? それが聞ければ十分だよ! スミレ、今行くから!』
『はい……イザー……しは……ってます……た……』
それっきり通信は終わり、スミレの声は聞こえなくなってしまった。5階層に近づいたこととリソースを取り戻したことである程度の通信は可能となったのだろうな。
しかし、これだけ取り戻しても通信はあまり使いものにならないか……少しアテが外れそうだ。本当に不味い時はレニーの端末に繋いで撤退命令を出そうと思ったのだが……、気合を入れ直すとしますかね。
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