第三百十一話 解き放たれる獣の心

 下手の横好きという言葉があるが、まさに私に相応しい言葉だろう。

 ロボ好きが高じて買い集めた各種家庭用ハード。基本的にロボゲー以外には手を出しては居なかったけれど、友達に誘われて買ったFPSゲームもいくつかあった。


 その中で比較的気に入って遊んでいたのはHelloと言う、SF系FPSゲームで、私が操るスパルタクスさんは相棒AIのケルトさんが呆れるレベルでよく死んでいたっけ。


 そうか、スミレに対する妙な既視感はケルトさん由来のものか……。


 そのゲームには様々な武器が登場するんだけど、中でも私が好きだったのはフォトン的な何かで構成された大剣とスナイパーライフルだ。近距離武器と超遠距離武器という両極の武器を好む理由はその威力。ソードは言わずもがな、やたらと高威力で、落ちているソードを見つけたときにはもう、嬉しくて嬉しくてもう、こちらから敵を探しては飛びかかった物だ。


 無論、向かってくる私に斬られるままでいるはずもなく。CPUだろうがプレイヤーだろうが容赦なく私を蜂の巣にする……と。


 それでも運良く銃撃をくぐり抜け、敵の懐に入ったときにはぶわわっと脳内物質が飛び出すようだった。別に何か危ない嗜好があるわけじゃあない。高威力の武器でスッパリやると気分がスカっとするだけ。


 そしてソードよりも好きな武器がスナイパーライフルだ。スニークは苦手だが、狙撃はだいすきな私はそれを手に入れた瞬間、こそこそとポイントに移動をしてお楽しみタイムに突入したもんだ。


 といっても、対人戦だと流石に1発撃ったら移動をする必要があるため、結果的に面倒になってしまって、スナイパーライフルで突撃をするという凄まじいプレイをよくしていたっけな。


 スナイパーライフルが強いのは元の攻撃力がやたらと高いと言うのもあるけれど、ヘッドショットのボーナスが凄まじいという点もある。どんなに防御力が高いキャラクターでも頭に当てれば高威力が期待出来、よほど硬い敵で無い限りはほぼ即死させることが出来た。


 まどろっこしいのが好きでは無い私にとってこれはとてもありがたい存在だった。


 さて、現在私は先ほどまで隠れていたポイントから移動し、狙撃ポイントであるビルの屋上に来ている。リアルでは現在帝国に奪われている筈のスナイパーライフルを召喚し、下界のガーディアン達を狙っているところなのです。


 本来のカイザーにはこの武器を装備することは出来ない。これはヤタガラスの専用武器であり、私が使うとすればシャインカイザーになる必要がある。


 しかしそれはリアルのお話。仮想空間であるOS内ではそのような制約は取り払われ、私が思うままに武器を召喚・装備する事が可能だ。


 それもこれもいくつかの施設を開放し、システムを取り戻せたおかげなんだけれども、流石に僚機の召喚は不可能だ。あれを再現するにはリソースが足らないし、全機召喚できたとしてもそれを操る事は出来ないからね。


 というわけで、下界をうろちょろするガーディアンを片っ端から始末していこうじゃないか。


 ロボという物は便利な物だ。なんと言っても呼吸や心臓の鼓動による照準のブレが発生しない。それに、エイム補正ががっつり掛かっているというか、オートエイムにしているため、わざわざしっかりと狙う必要も無い。


「まずは1体」


 武器の感覚を確かめるように敵機を打ち抜く。こいつらは身も心もゾンビのようなじょうたいになっているため、いくら頑張ってヘッドショットを決めたところで活動停止とはならない。


 しかし、重篤な欠損が発生した場合は問答無用で消滅するという特性があった。なので被弾時に内部で炸裂するエグい特殊弾を召喚し、試しに1発当ててみたんだけど……。


「うーんエグい。お外にこれが存在しなくて本当に良かった……」


 まさに飛散。 あたった瞬間、ガーディアンは無残にも上半身を破裂させ粒子に変化した。

 

 さて、ここでAIのだめだめさがありがたく感じられる事となる。

 前回、私は大きな失敗をしてしまった。それは銃声で敵を集めてしまったことだ。

 

 スナイパーライフルにも当然それはつきまとうわけで、銃声を聞きつけ多数のガーディアン達が集まってきている……けれど、ガーディアン達は私を見つけることが出来ないで居る。


 現在私が居るのは高層ビルの屋上だ。ここを選んだのは狙撃がしやすいという理由なんだけれども、それはただ単に『狙いやすい』というだけではなく『相手から見つからない』という利点があったからなんだ。


 銃声を聞きつけ集まってきたガーディアンを1体、また1体と始末していくが、周囲を警戒こそすれど、どう考えても音の発生元である私の所頭の上を見ようとはしない。


「いやあ、ほんとクソAI様々だわ。きっと索敵範囲が極端に狭いんだろうな。もう少し広く設定されてればそうはならなかったはずなのにね。ご愁傷様!」


 っと、ある程度始末したら移動しないとね。こいつらは時間でリスポーン、無限湧きするわけだからずっとここに居ては逆効果だ。ルートが確保出来た今こそ施設奪還に向かわなくっちゃ。


 目指すは3階層のメイン施設。そこを奪還出来れば私は勿論、スミレにも大いに役立つはずだ。施設の奪還は簡単だ。へばりついている気持ちが悪い物を破壊すれば良い。


 幸いなことに、私が装備している武器では街の建物を破壊することが出来ない。威力が足らないのでは無くて、無効化されてしまうからだ。ワクチンソフトがプログラムを壊してどうすんのさ! って言う事なんだろうな。


 そんなわけで遠慮無く私は最大火力を持って施設を開放する。


「いくぞ、喰らえ! ボルカニックキャノオオオオオオオオン!!!!!!」


 レニー達も知らぬシャインカイザー専用の高火力兵器を容赦なく召喚・装備をして発射してやった。ボルカニック・キャノンはシャインカイザーのバックパックに装着する大型の2連キャノンで、下手に撃ったもんなら周囲を焼け野原にしかねないえげつない高威力を誇る酷い装備品だ。


 勿論、このOS空間に置いてはそんな酷い事にはならず、攻撃対象である『施設に張り付いていたウイルス的な何か』や、運良く周囲にやってきていたガーディアン達が粒子と化して消えるだけで済むというわけ。


「ふう……私が単体で動くと結局こうなっちゃうんだよなあ……。カイザーの時はもう少し大人しい思考が出来ていたと思うんだけど。きっとカイザーのキャラ付けで中和されて前世の私が持つ本来のダメな性格が抑制されていたのかも知れないな」


 別にそれによって不都合を感じたことは無いし、嫌な気持ちもしないからどうでもいいのだけれども。


 ただ、ひとつ言えば……今のこの状態、久々の感覚……なんだかだんだんと楽しくなってきてしまいました!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る