第三百十話 自分を見つめ直す

 ちょっとしたやらかしで、一気に大ピンチの私。

 ここに来るまで何機かしとめたけれど、流石にこの数は捌ききれない。


 そして前方には立派なリボルバーを構えるゲートガーディアンの姿。こんな時に頼りになる仲間達は現在外で戦っている。もう少し侵蝕率を下げればウロボロス達を一時的に呼ぶことも出来なくはないけれど、現時点では不可能だし、何より皆だって外で激戦の最中だろう。


 となればやっぱりここは私がなんとかする必要がある……ん? 侵蝕率か。モノのついでにと、少しでもスミレを楽にしてあげるために幾つか『ウイルス』に汚染された施設を除染しながらここまで来たわけで。


 今の侵蝕率は……うん、87%にまで落ちている。これならいけるか。


 こんな時、レニーならどうするか。へらりと可愛げに笑い、少し抜けた所があるレニー。

 ……そっか、何だかちょっと私に似ている所があるんだな、彼女は。


 だからこそ、波長が合い、神様が巡り合わせてくれたのかも知れない。


 そんなレニーと私にはあんまり言いたくはないけれどもう一つ共通点が有る。


 それは……大雑把な所だ!


 銃を構えている? 良かろう、撃つが良い。背後に迫るゾンビ軍団の波に洗われるよりよっぽどマシだ。銃弾が飛んでこようが何だ、当たらなければどうということはない。いや、当たったところでなんだというんだ。


「あっはっはあ! 何だか面白くなってきたぞ! 行くぞレニー! リック! お前たちの力を借りるぞ!!」


 腰に力を溜め、脚にゲインを回して地を蹴って。

 ゲートカーディアンに向け駆け出した。


 当然、敵機はこちらにリボルバーを向け射撃を開始しようとする。ああ、撃たれた後に銃弾を避けるなんて神がかった真似、私にはムリさ。


 ムリならムリで喰らってしまうまでだよ!


「うおおおおおおおお!!! いくぞ! ギィイイイガアアアアナッッコオオオオオ!!!」


 リックが生み出した近接兵器、通称ジェットガントレットがオリジナルよりサイズを増し具現化する。本来であれば腕パーツに変形したオルトロスとの合体技として放たれるそれを強引に再現した。


 レニーの熱血理論を借りて放たられたそれは敵機の銃弾を豆鉄砲の如き弾き、身体もろとも突き刺さる。凄まじい轟音と共にゲートガーディアンは蒸発し、その余波は背後に迫るガーディアン達の数を減らした。


「……っく、仮想空間だというのに……ご丁寧に輝力は減るのか……」


 ふらつく足でゲートに飛び込み3階層へとジャンプした。幸いなことに3階層について直ぐ取り囲まれるということにはならなかった。


「外より回復速度が速いとは言え……これはだめだね……ふらふらだよ。ていうかなんで仮想空間でこんな輝力が減るんだよ……」


 なんとかゲート付近の倉庫に辿り着き身を隠した。


「……侵蝕率は……74%か……さっきのガンマンを倒したのが……効いたかな……」


 休憩がてら、3階層のマップを展開し、今後の予定を立てる。3階層には大きな施設がある。PCのOSで言う所の各種ドライバやプログラムが格納されている場所で、それを取り戻すことができれば大きなアドバンテージとなるはず。


 例えば、おそらく今もお外でウロウロ歩いているであろう『本体』をその場で待機させたり、通信機能を使って外部へ連絡を取ることも可能となるはずだ。


 しかし、通信はまだ控えたい。送信されるデータに『変なもの』が勝手に乗っていかないとも限らない。古いコンピュータウイルスのようにメールファイルに添付されていく感じで僚機を汚染しないとは限らないからね。


 となれば、やはりこちらから助けを求めるようなことは止したほうが良い。


 先に急ぎたい気持ちもあるけれど、まずはなるべく敵の戦力を削ぎ、確実にスミレを奪還することを考えよう。


「……いっぱい動いたせいなのか、何だか頭がだいぶ冷えてきたな……。

 そうだよ、スミレの元に! って思ってたけど、ただ向かうだけじゃダメだ。作戦の成功確率を上げていかないと」


 そのためには侵蝕率を少しずつでも下げつつ向かう必要がある。

 リソースをこちらに取り戻せば、さっきの必殺技のように出来る事も増えていくし、ある程度下がれば……もしかしたらスミレも負担が減って動きやすくなるかも知れない。


 となればルートの確認だね。


 ……もうさっきみたいなミスはしないぞ。っと、レーダー反応は……うわあ、うようよいるね。上で無茶したから当たり前かあ。


 うーむ、これから先あんまりレニーに強く言えないな……。いや、むしろ自分を反面教師として……っと、そうじゃない、そうじゃない。作戦を考えなければ。


 ソロプレイというわけで、戦力的には圧倒的に不利だ。しかし目立ちにくいという点ではこちらに利がある。……私のスニーク下手が火を吹かなければだが。


 ゲートに向かうだけならまだしも、施設奪還も考えなければ行けないからな……ん、まてよ?

 

 じっくりと腰を据えてレーダーを見つめていると面白い事がわかった。


 ある程度統率を持って警邏をしているとは言え、やっぱりゾンビに毛が生えたようなお粗末AIなのは変わりがないみたい


 昔買った軌道戦記ダンダムのゲーム、ひどかったなあ。トロイとかなんとかいう名前だったけど、パイロットで白兵戦をしたり、そこらに落ちてるロボに乗り込んで戦えるというコンセプトは震えるほど良かった、ゲームシステム自体はほんと最高だったんだ。


 でもね、敵のAIがお粗末すぎたんだ。

 私が背後に居るのに顔を合わせるまで気づかなかったり、遠くから狙撃してるのにただただ食らうばかりで逃げることも撃ち返す事もしなかったりと、戦ってる感が薄くってさ、結局それで萎えて辞めてしまったんだ。


 そのお粗末なAIに今のガーディアン達はそっくりなんだ。スミレ先生なのか、開発者なのかは知らないけれど、誰かが丹精込めて作り上げた神AIをそこまでデチューンするとは酷いウイルスだよね。


 でも、それが今の私にはとってもありがたい……。


 この辺りで高い建物は……よし、近くに手頃なビルがあるね。



 さて、クソゲーの始まりだ!

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