第三百九話 人としての私
「っく! まったく次から次と!」
結果から先に言おう。私はしくじった。
ガーディアンひしめく第2階層、普段は頼もしい彼らも悍ましい何かに取り付かれてしまって居るからこまったもんだ。
私という、普段であれば護るべき存在を外敵と認識し、問答無用で襲いかかってくるわけだ。当然、それはわかっていたので、無駄な時間を取られぬよう、建物の影に隠れてコソコソと移動をしようと思い行動に移した……んだけど……。
忘れていたけれど、私はスニークという物があまり得意では無かった。カイザーでは無く、前世の私のお話。
カイザーとして活動している際には、機体性能やカイザーとしての『キャラ設定』の影響を大いに受けていたおかげなのか、それなりに頼りがいがある司令官として行動出来ていたと……思う。
しかし、前世の私ときたら、ただの残念なロボットオタクでしかない。
家族や友人から『漫画みたいなレベルで間抜けだよね』とからかわれるほどに……残念な人だったんだ。
思い返せばレニーの事を笑えぬレベルでやらかしてしまったことは数知れず。
ロボと名のつくモノには取りあえず手を出していたので、当然家庭用ゲーム機を買い、家でゲームをすることもあった。
とあるスニークゲームに滾るロボが登場すると聞いて買ったこともある。そのロボというのは主人公側ではなくて敵側のボスキャラだったけれど、それはそれ。滾るロボが出るならやらねばなるまいと意気込んで買ったまでは良かったんだけど……スニークが下手すぎて中々先に進めることが出来なかった。
数少ない友達を家に呼び、アドバイスをして貰った結果、どうも私は忍耐力も残念レベルというか……耐え忍ぶという事がうまくできない性格だと言う事が判明したのである。
それを友人から指摘され、大笑いされた時には軽く頭にきたものだけれども、今では友人の言葉が――
『あんたはさ、も少しじっと我慢をする事を、状況にあわせた行動を取ることを学びなよ』
――その言葉がしみじみと身に染みているよ。
そう、私はやらかしてしまったのだ。
時間は少しだけ遡る。
2階層に降りたって早々、ゲート周辺にガーディアン達が集まってきた。何故かと言えば私がゲートを通ったから。何度でも言うが、本来ならば顔パスであるはずの私は現在ウイルスに等しい存在として認識されている。
そんな『無許可』で侵入している存在がゲートをくぐったわけだから、たちまちガーディアン達に通達が届けられ、周囲の警戒レベルが急上昇したというわけだ。
そんなわけで私はカイザーの巨体をなんとか倉庫に押し込めて、周囲の警戒が解かれるのを待っていた。
倉庫の扉を閉めているため、外部の様子は見ることが出来ない。が、レーダーでハッキリとガーディアンの位置を捕らえることが出来るため、外が見えなくとも不安になることは無かった。
ガーディアン達にレーダーが搭載されていないのは幸運だね。そんな物があったらどこに隠れていても直ぐに見つかってしまってかくれんぼが成立しなくなるのだから。
一応、ウイルススキャン的な物が発動すれば、各階層を舐めるように探索波が流れ、それに捕らえられた『異物』は各ガーディアン達に通達されることになっている。
それを使ってこないという事は、その使用権限を得られるレベルまで侵蝕出来ていないという事なのかも知れないな。
さて、隠れ始めてから10分が経過した。流石のガーディアン達も諦め始めたのか、当初うようよと居たのも数を減らし、周辺を見張るのは3機を残すのみ。
3機なら……いけるか? いやいや、まだだ。まだ。今出て行ったところで3対1、不利である事には変わりは無い。やってやれない数では無いけれど、他のガーディアンにバレずに始末するのは難しいはずさ。
それに動きを見ているとどうも1階層の木偶人形とは違う嫌な予感がする。
プログラムの質が上がっているというかなんというか。
元が警邏のルーチンを組まれていたガーディアン達だから『侵入者を通さない→近づいたら攻撃をする』と言う、シンプルなルーチンが組まれているゲートガーディアンとは違い『獲物を探す→追いかける→倒す』と言う具合に「探す」「追いかける」という自由に動き回るルーチンが加わっているようなんだ。
つまり、近づかない限りはなにもしなかったゲートガーディアンとは違い、発見されると即時敵対行動を取られ、場合によっては非常に面倒なことになるわけだ。
であれば、もう少し我慢をして最大限の安全を持って…………持って……レーダーの反応1だ。もう、いいよね……?
私はかくれんぼが苦手だ。
「絶対に見つからない場所」に隠れていても、いつまでも見つからないと不安になってくるし、なにより鬼が今どこに居るのか、どんな顔をして探しているのかが気になって仕方が無くなって飛び出してしまうのだ。
というわけで、残り1機となったガーディアンを見て意気揚々と飛び出してしまったわけで。
まあ、1機なら余裕だろうとリボルバーを構え、両足に2発ずつ撃ち込む。何も出来ないまま体勢を崩したガーディアンに飛びかかり、ソードの一太刀を浴びせ、あっさり撃破。
これではどちらが悪役かわからんな、なーんて暢気な事を考えているとコクピット内にアラートが流れる。
うん、知って居るぞ! この音は良く知っている。敵機が急速に向かってきているという音だな!
レーダーを見れば10を超える多くの光点が、つまりはガーディアンがこちらに向かってきていた。
「ええ……? なんで? なんでバレちゃったんだ?」
ここで今は会えぬ貴重な数少ない友の言葉が蘇る。
「あんたね、いくら面倒だからと言ってそこでハンドガンはないじゃん?
普通さ、あの場面ならCQCじゃん? 後ろから忍び寄ってコキャっとやるじゃん?
銃なんてぶっ放したらさ、音でわらわらやってくるのは……少し考えればわかるよね?」
音かぁ……。
スニークゲームの主人公に習ってCQCで仕留めるべきだった、そう後悔しても既に遅い。しっかりとガーディアン達にロックオンされた私は、鬼が沢山居る鬼ごっこに参加する羽目になったというわけだ。
一応、逃げながらガーディアンを何機も何機も潰しては居る。しかし、移動式ガーディアンは無限に生み出される存在で、数に限りは無い。
そうこうしている内に、そろそろ3階層へのゲートが近づいている。記憶が正しければここに居るのは…………
ああ、お出ましだ。
ハンドガンを装備したゲートガーディアン。既にこちらを認識し、銃を構えている。飛び道具を持っている此奴は多少離れたくらいでは見逃してくれたりはしないだろう。
そして私の背後にはあちこち走り回って集めてしまった50を超えるガーディアン。
前方の飛び道具、後方の群れ。さて……どうしよう!
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