第三百八話 ガーディアンの異常
未知のプログラム……仮称、侵蝕魔力にOS領域を侵されコントロールをほぼ掌握されている私の本体。
しかし、本来の私が持つ運動性能からかけ離れたその緩慢すぎる動作から、今現在もスミレが最後の最後で持ちこたえ、抗っているのでは無いかと思われる。
レニーが腕に付けていた補助端末に入り込んでいたらしい、私のバックアップデータとの統合により、以前の記憶は80%以上が修復され、こうして思考も以前の物とさほど変わらない状態にまで回復した。
急ぎスミレの元に向かいたいところだが、流石にそう簡単にはいかないようだ。
目の前に居る防衛プログラムは不定形の不気味な何かに侵蝕され、本来ならば敵対行動を取らない筈の私に対して牙を剥こうとしていた。
防衛プログラムは後からいくらでも生み出せるため、ガーディアンと呼んでいるそれを攻撃し、無力化……不可能であれば破壊する事には抵抗はないのだが……そのために『召喚』した本体。
想定では、私自身がカイザーとなって戦うことになっていたはずなのだけれども、どうにもこうにも私は今コックピットの中に居るわけで……。
「なんとなーく操作はわかる……というか、身体が識っているからそれは問題無い……が……。参ったな、この身体……レニー達に見られることはないだろうけど、スミレには見られてしまうよな……」
現在私は前世の姿になっている。
ロボットアニメを生きがいとする残念な私を、両親達は非常に悲しげな顔で見ていたっけ……まあ、私の前世なんてそんなつまらない
前世の私が何者だったのか、別に隠そうと思って隠していたわけじゃ無いから構うことないさ……うん、グダグダ考えてる暇は無い……ね!
コンソールに手を伸ばしモニタを睨み付ける。
腕を通して流れ出る輝力、そしてフィードバックされる感覚。
レニー達もこの様な感覚なのだろうか? 私は今、普段とは別の感覚でカイザーと一体化している。
歩こうと思えば自然と歩けるし、手をふろうと思えばそのとおりに動く。視界だってカメラとしっかりリンクしているんだけど、それとは別に自分の五感もきちんとある。うーむ、うまく人に伝えにくい感覚だ。
スマホとPCモニタを同時に見ているのに両方はっきりと見えるし、それぞれから情報をきちんと読み取れるというかなんと言うか。かなり脳に負担が掛かりそうな事になっているけど、頭がモヤモヤするような感覚はない。
「うん、これならやれそうだな。よっし、悪いねガーディアン。練習相手になってもらうよ」
右手に意識を向け『リボルバー』と念じてみたらきちんとそれが手のひらに収まった。ううむ、ヤバイな。緊張感が無いような事を言うようだけれども、これはなかなか滾る!
あっちの世界のゲーセンでも稼働が始まっていたVR型のロボットゲーム。アレもかなりロボットに乗っている感はあったし、これぞロボットのコクピット! って思っていたけれど、流石に本物? の感覚には足元にも及ばないね。
っと、リボルバーを装備したことでガーディアンも本気で敵対行動に移り始めたようだ。
腰だめに槍を構え、こちらの攻撃に備えるように間合いを計っている。しかし……槍ね。
相手がソードだったら弾かれることはあっただろうけど、刃の面積が狭い槍ではそれもできまい。
リボルバーを構え、ガーディアンに向かって3発撃ち込んだ。VR空間的なこの世界だけれど、私の認知にあわせて私にはきちんと射撃音が聞こえる。
ガウン ガウン ガウン、といかにもそれらしい音と共に放たれた銃弾は2発ガーディアンを掠め、1発は見事胸部に命中した。
「やっぱこのオートエイムはずるいよな」
レニー達の攻撃時にもある程度補正が掛かっているはずなんだけれど、私が操るこのカイザーでは初心者モードとも呼べそうな完全なオートエイムが効いている。視線でロックオンをした敵に向かい、的確に補正をかけ銃が放たれているのだ。
そのため、微調整として銃を構える身体が自動的に動かされているわけなんだけれども、これに関しては違和感を覚えない。なんとも不思議だけれども、ここが現実世界ではなく、あくまでもOSの中だからなんだろうな。
さて、胸部を撃ち抜かれたガーディアンだけれども、コクピットに誰か乗っているわけではないし、通常の機体のように動力炉が存在するわけでもない。そのため、動きにくそうにはしているが未だ活動を止めずに動作している。
「見た目も相まってゾンビみたいで嫌だな……」
しかし妙だ。本来のガーディアンならば、攻撃相手にあわせて的確な動作をするはずだ。プログラム的にどの様な動きをしているかはわからないけど、VR空間でイメージ化した今のような状態では、銃を持った私相手だと撹乱するような動きをして被弾を避けつつ、スキを見て間合いに踏み込んでくる筈。
それが未だ最初と同じく槍を構え、こちらをじっと睨みつけている。
棒立ちをしているわけではないのは左右に動いて確認した。恐らく間合いに入った瞬間ブスリと刺されることだろう。
侵蝕により行動ルーチンが単純化しているのだろうか……? この階層だけかもしれないけれど、今はありがたく倒させてもらうよ。
両足を撃ち抜き、移動を封じてから武器をソードに切り替え踏み込む。
膝を落とし、崩れた体勢でも槍を構えようとしているのは立派だけれども、それじゃ槍を振ることはできないぞ。
一気に袈裟斬りにし、上半身を2つに別れさせた。これが止めとなったのか、流石のゾンビガーディアンも粒子となり消滅してしまった。
ガーディアン不在ということになっちゃったわけだけれども、アレじゃいないほうがマシだからね。
邪魔者は居なくなったので遠慮なく転送装置に向かう。といっても、ガーディアンが守っていた場所からすぐそこだ。装置と言っても特に何か手を触れて操作をするということは必要ない。その場所に立ち入り、『転送』と念じるだけでよいのだ。
というわけで、ジジっとノイズが走ったかのようなエフェクトと共に2階層へと移動した。
とは言え、見える景色は1階層とそう変わらない……が、それは私が知っている景色の基準でのお話だ。イレギュラーな霧の濃度は上がり、気持ちが悪い物質はその数を増している。
そして厄介なのは、この階層からぼちぼちと警邏をするガーディアンが数を増やしていく。
スミレの趣味なのか、カイザーの開発者の趣味なのか、はたまた作品製作者の趣味なのかは知らないが、皆ご丁寧にアサルトライフルを装備していて厄介極まりない。
「まあ、市街戦ロボにその手の銃は外せないってのは分かるけどね……」
1階層との転送装置から3階層への装置まではそれなりに離れている。なるべく交戦は避けたいが……さて、どうしたもんかな。
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