第三百十七話 作戦会議

 仮想空間内でのみ可能な夢のフォーム『カイザー:MODE-SUMIRE』と化したこの機体は、巨大なスミレがカイザーの外装を纏ったメカ少女と言った具合になっている。


 もしもレニー達がこの機体を見たならば、それはそれは驚くだろうけれど、それ以上に私の隣に座る女性、人間サイズになっているスミレにびっくりするだろうな。


 いや私もかなり動揺したけど……。


「カイザー? なんですか? ジロジロと私を見て」

「いやなに、おっきなスミレさんが横にいるのが新鮮といいますかなんといいますか……」


「私だって、そんな姿のカイザーは新鮮ですよ。ふふ、意外と可愛らしい顔をしてたんですね」

「っく……! スミレ、これは二人だけの秘密だからね!」


「はいはい、存じてますよ。ほら、カイザー、遊んでる暇はありません。流石に敵もこれ以上は暇をくれないようですよ」


「ああ! では行くぞスミレ!」


 SUMIREのメインパイロットはどうやら私のようだ。本人が横にいるのにそれを私が操縦ってのがなんとも奇妙な話だけれども、でもまあ、スミレがナビで私がメインってのはしっくりくるね。


「対象接近中」


「スミレ! ショルダーキャノンをお見舞いしてやれ!」

「ショルダーキャノン展開……発射!」


 パイロットが複数乗り込んでいる場合、部位毎に操作を回すことが可能だ。現在SUMIREは私がメインパイロットとして主だった操縦をしているけれど、サブウェポンの制御は全てスミレに一任している。


 私の命令通りに放たれたショルダーキャノンは派手な音をたてながら対象に着弾……するも思った通り全然効いちゃあいない。


「なるほど、原作通りというわけだな」


「はい……なので結局肉弾戦といいますか、取り敢えず力づくで抑え込んでいたのが今までの状況です」


 倒せないなら封じ込める、作戦としては有りだけれどもアレは絵的に面白すぎた。


 っと、動きは遅いとは言え、敵の攻撃は確実にこちらを狙ってくる。ゆったりとした動きだから威力が低いということはない。喰らえばその質量がそのまま体にのしかかってくるし、何よりあのヌラヌラとした緑色の液体は輝力に対して良いものではないのだ。


「スミレ……あの液体は平気だったのか?」


 敵機の周りを旋回しながら情報を集める。


「平気……なわけはないでしょう。カイザーもご存知でしょうが、アレに触れられると少なからず侵食され、輝力が吸い出されてしまいます。しかし、ヤツにとって輝力は毒。吸ってエネルギーに変えられるということはありません……が……」


 そう、ヤツは侵蝕し輝力を吸い出す、それが毒であろうともだ。


 なぜならば、この空間における輝力はカイザーシステムのリソースであり、OS内のデータやスミレがヤツに侵蝕され輝力を吸い出されてしまうと、結果的にカイザーの侵蝕率が上がってしまうのだ。


 スミレがここでヤツを押さえつけていたのは、吸われる輝力と自動回復する輝力を拮抗させ、リソースを吸い尽くされないようにするという力技。


 しかし、時が経つにつれ、徐々にスミレの回復量よりも、眷属が吸収する輝力量が勝るようになり、じわりじわりと侵食率を上げられていたわけだ。


 それでもこうして、まだスミレが持ちこたえられていたのには理由がある。


 先ほど言ったとおり、眷属にとって輝力は毒であり、吸えば吸うだけ同時に弱体化もしていく。


 眷属は吸収した輝力を自らを弱体化させながら魔力に変換し、ガーディアンやデータ格納施設を侵食する『分体』を生み出していた。


 輝力を直接自らの糧とすることは出来ないが、自らの身体を痛めつつ行う魔力変換という強引な方法を使い、手下を増やすという半ば反則じみたことをしていたわけだ。


 分体を放てば放つほど各階層からリソースが集められていく。そのおかげでスミレとの我慢比べに負けず、徐々に勝利へと近づいていたわけなのだけれども、輝力から受ける影響というのは無視出来るものでは無いのだ。


 輝力から受ける影響によって、眷属には身体能力や知能に重篤なステータス低下が発生しているのであった。


 スミレからその様に説明を受け、そう言えばと、設定資料にも書いてあったなと思い出す。

 それを考えれば、侵食ガーディアン達の行動レベルの低さ、眷属の緩慢な動作の理由が理解出来る。


 もしも輝力で弱体化しないのであれば……考えたくはないけれど、とっくにスミレの侵蝕も終わっていて、完全にカイザーを乗っ取っていたはずだ。


 そしてスミレが唯一人ここに残ってシステムを護っていた理由、それは最後の砦、輝力炉の制御システムを護るためだった。


 もしスミレが居なかったらば、制御システムはダウンさせられていて、現実世界での侵食によって魔力炉に魔改造させていただろうからね。


 そうなってしまったら大変だ。


 やたら頑丈で再生能力が有るカイザーの外装と、やたらめったらと侵蝕をする気色悪い眷属が合体して非常に戦いにくい敵ロボットが誕生していたことだろうよ。


 ……闇堕ち主人公機ってさ、おもちゃとしては凄い魅力的なんだけど、これが現実のお話で、それが我が身の事だと思えばゾッとするよ。


「カイザー? カイザー? どうしたのですか、先程からぼーっとして」


「ああ、ごめんごめん。敵の設定を思い出していてね。ヤツは輝力を吸ったがために弱体化し、戦いやすくなっているわけだ。けれど、あのいやらしい硬さや質量の暴力は健在と。

 高出力の斬撃で倒すのは決まりだけど、それを放てば私達は暫く輝力切れで動けなくなるわけ」


「つまりは必殺技。最後のトドメとして一撃で決める必要が有るわけですね」


「その通り。となると、奴の核となる部分、恐らくはルクルァシァの残滓が核となって体の何処かに存在しているはずなんだ」


「……成る程わかりました。では普段どおりと行きましょうか」


「だね。私は飛行ユニットを展開後、奴を牽制しながら周囲を飛ぶ。スミレはその間スキャンを……いや、まずはあのモヤをなんとかしなければスキャン出来ないか……」


「そうですね……いえ、合体しカイザーの兵装を使用可能となった今なら策はあります」

「策……?」


「ええ、お忘れですかカイザー。第三十八話で使われたアレですよ」

「三十八話……なるほど、か。ふふ、流石スミレ! 良いことを思いつく!」


 ダーソン……某家電から名付けられた俗称であるそれならば……なんとかなりそうだね。

 

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