第三百四話 エレベーター

 久々の再会に緩む戦場の空気。しかし、本番はまだここからだ。


 改めて状況を確認すると、ブレイブシャイン達の機体は軽微ながらもダメージが。

 ただしこれは自動修復により間もなく回復する。


 レニーとジルコニスタが乗ってきたシュヴァルツ達はほぼ無傷……!

 レニーは兎も角、流石は黒騎士団、団長という所か。


 問題はフィオラとラムレットが乗るシュトラール。左足の損傷により直ぐには動くことが出来なそうだった。


 通常の戦地であれば二人にはこのまま引いてもらうんだけど、今のルナーサは安全とは言えないし、このままこの場で待機、というのも敵のおかわりが来るかもって考えると難がある。


 さて、どうしようかな? って思ったらどうやら応急処置だけはマシュー達で出来るみたいでした。


「激しい格闘はムリだが、移動や援護くらいは出来る程度には直せるよ」


「とは言っても無茶は禁物ですわよ。戦闘に入ったら自分の身を護ることだけ考えてくださいな」


 テキパキとシュトラールの足を整備していくマシューとミシェルを興味深そうに見つめているのはレニーだ。


「マシューはわかるけど……ミシェルも整備を覚えたの?」


「ええ、リックさんにお願いして教えてもらいましたわ。もっとも、ジンさんが途中で乗り込んできて、二人の言い合いを聞きながら習うハメになりましたけれども……」


「爺ちゃんのやつ、リックにヤキモチ焼くんだよ。俺からも聞けー! って。毎日だぜ? 恥ずかしいったらもう」


 そんな話を聞き、嬉しそうに笑うレニー。


「あはは、リックさん達も元気そうでよかった」

「そうそう、うちの父や母も勿論健在ですわよ。現在向こうの基地で元気にやってますわ」


「そっかー! 良かった。ルッコさんからルナーサの話を聞いてさ、カイザーさんがここに運び込まれたって聞いた時はアズベルトさん達どうしたかな? って思ったけど、予想通りなんとかしたみたいでホッとしたよ」


「やっぱりそこは予想してましたのね」

「だってミシェルのお父さんとお母さんだもの」


「「「あはははは」」」


 和やかなガールズトークをしながらも鉄臭い機兵の整備が進められていく。なんだかちょっとシュールな光景だなあ。


 ともあれこれでなんとかなりそうだ。二人だけ置いていくってことにならなくってほんと良かったよ。


 レニーとジルコニスタに見張りをしてもらい、修理をすること1時間。弐式のパーツを使った応急処置とは言え、行動可能にまで修理できるのだから大したものだよ。


 見張りの二人からも特に報告はない。まさか本当に帝国軍の殆どが港に向かってしまったんじゃないだろうな……いくらなんでもそんな間抜けな話は……。


「では、いよいよ突入というわけだけれども、残念ながら今の私にはあんまり記憶がない。なのでレニー達に任せるけどいいよね?」


『ええ、勿論ですわ。ここは私の庭のような……というか、私の家ですし、任せてくださいな』


『ふふ……カイザーさんかわいい……』

「レニー……」


 この子はしばらくこのネタを引張そうだ……。


 ミシェルを先頭に、マシュー、シグレと続いて間に私達が入る。そして後ろをレニーとジルコニスタが守ってくれるみたいだ。


『この先にエレベーターがあるのですが、お父様は破壊したと言ってましたが……ううん、やはり修復されてますわね……』


『格納庫』とミシェル達が呼んでいた大きな倉庫に入ると、奥に何かの仕掛けで隠蔽されたスペースが有って、どうやらそこに有るのがエレベーターらしい。


 アズベルトが逃げる際に破壊したらしいんだけど、帝国はそれを修復して下に降りたみたいだね。


 話によればこの下に有るのは大空洞。


 さて、降りようかって時にトラブルが発生した。


『あら……? 魔力は来ていますが……反応がありませんわね……これはもしかして……』

『む……? なあ、これはもしかして生意気な……』


 マシューも近づき、2人でなにか調査をはじめましたよ。どうやらエレベーターが動かないみたいだけど……。


 そこにヌッと割って入ったのはジルコニスタ。簡易式ながらも通信具を積んだので彼やレニーのシュヴァルツとも意思の疎通が可能です。


『ちょっと見せてみろ。うむ、これは生体認証だな。登録された人物の魔力で反応するようになっているようだ』


『ええー! そんなずっこいよ! ルッコさんの魔力でなんとか出来ないの?』

 

 ルッコさん……そういやさっきからよく聞くなあと思っていたけれど、どうやらジルコニスタのことみたい。ルッコさん……ぷぷ、そんな村娘かなんかみたいな……。


 しかしまいったな。これをどうにかしないことには先に進めない。ううん、こんな時に誰か、この仕組を改ざんでも出来る人が居れば……。


 と、レニーが変な声を出す。


『ひゃっ! わ! カイザーさん?』

「ん? 私がどうかした?」

『いえ、ルゥちゃんじゃなくて、おうまのカイザーさんが……』


 ルゥちゃんって……それはいいけど、おうまのカイザーさん?


『わ、ほんとだカイザーだ!……でもなんか薄いぞ?』

『ぬいぐるみのカイザーさん……みたいですけれども……』

『おばけみたいでござる……私おばけは……』

「なにあれなにあれ! かわいい!」

「うっ……あれが噂の……いいな……」


 よし、マシューは後でひどい目に合わせてやろう! 何だか知らんが無性にそう思った!


 しかしアレはなんだろう? 皆の反応を見るからに、私と何か関係が……そう言えば私は馬に変形するんだったな。でも、馬と言ってももっと大きくて馬車を引くとか言ってたと思うんだけど、あれは……。

 

 ミシェルが言う「ぬいぐるみのカイザーさん」というのがそれなんだろうけど……ああ、この体みたいな義体? でもあれはどう見ても実体じゃない、何か投影されたようなものだ。


 そのお馬がエレベーターのコンソールに吸い込まれるように消えていった。


『『『「ええ???」』』』

 

 皆が驚きの声を上げたその時、エレベーターの扉がゆっくりと開いた。


 再び姿を表した馬のカイザーは、ぴょんぴょんと何処か満足げな顔で飛び跳ね、レニーのもとに帰っていった。


 ううん、あれについても後で聞かないといけないな。


「とりあえず道は開けたみたいだし、行くよ皆!」


『『『「お、おー!」』』』


 戸惑いつつも私達はエレベーターに乗り込み、下層、大空洞を目指して下降を始めた。


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