第三百三話 集う光

 やや癖がかかった銀色の髪。月光を受けて輝く紫色の瞳。

 愛嬌たっぷりにへにゃりと笑って……


『ただいま』


 そう、言いながら黒い機兵から降り立ったのは……レニー・ヴァイオレット。


 そうだ、あの子はレニー、私の……大切なパートナーだ。


 周囲の安全を確保した後、ブレイブシャインのパイロット達はそれぞれが機体から降りて敵パイロット達を縛り上げていく。

 弐式という事で、1機につき2名のパイロットが居るのだろうと思ったが、乗っていたのはそれぞれ1名ずつで、本来サブパイロットが乗るべき場所には黒い魔石が置かれていた。


「なるほどな……こんなものまで作っていたとはな」


 見分をしているのは元黒騎士のジルコニスタ・ヴェンドラン。レニーが彼を紹介した時はその場に居た誰しもが驚きの声を上げた。


 いや、フィオラだけは『ふうん?』と、今ひとつピンと来ないような顔をしていたが、『アランとリリィの上司だ』とマシューから教えられると、改めて驚いたような顔をしていた。


 そしてそこで出た『アラン』『リリィ』と言う名前に驚いたのはジルコニスタ。


「アランとリリィというのは、もしかして黒騎士のアランドラとリリィか?」

「ええ。貴方の元部下で、現在は我々と共に戦う仲間ですわ」


 黒騎士の親分であるジルコにスタはどんな気持ちでそれを聞いているんだろうって思ったけど、何処か嬉しそうな顔をして満足そうだった。


 さて、問題のコクピットに設置されていた魔石。それはおそらく黒龍絡みのあまり良くないものだろうと言うことだった。ほったらかしにしておいても悪い影響が出そうだし、さあどうしようかって迷ったけど……。


『流石にこんなかなら悪さも出来ねーだろ』

 

 なんて、軽く言ったマシューがあっさりとバックパックに収納してしまった。

 ……それはそれで……何だかちょっと怖いんだけどな。結局全部の魔石をそうやって収納してしまった……。


 そして場が落ち着き、改めて再会の時が来た。


「マシュー! ミシェルー! シグレちゃあああああん!」


 緊張の糸が切れたのか、わっと泣きながら皆のもとに駆け寄るレニー。見ればマシュー達も涙を浮かべ、抱き合ってわんわんと声を上げて泣いている。


 良かったね……本当に良かった……。


 と、レニーと目があった。直ぐに視線をマシュー達に戻したレニーが再度こちらに振り向き凝視する。


「……カイザーさん?」

「……そのような感じ……です……」


「えええええええ!? かいざさあああああああああんんん!!!!!」


 戸惑いながらも今度はこっちに飛びついてくる。飛びつかれてもこっちは小さな体だよ、受け止められないって!


 その勢いを避けきれず、レニーの顔にバフっと私の身体がかぶさってしまう。そのままウグウグと泣くものだから、私の身体はびちょびちょだ。


 でも、嫌じゃない。そのままレニーの頭を撫でる。


「おかえりレニー。がんばったね」


「うん、うん! カイザーさんも無事で良かった……で、でもおっきな身体は? そ、そうだカイザーさんじゃない機体も居たよね? 一体何が?」


 ああ、それはと説明をしようとすると、なんだか気まずそうな顔をしたフィオラがこちらにやってきた。


「……馬鹿ねえ

「え……フィオラ……?」

「しん……ぱい……したんだから……ね……うう……」


 どすん、とレニーの身体に身体を埋め、わんわんと声を上げるフィオラ。私は丁度挟まれるような形になってしまって動きが取れない。


「フィオラ? え?え?」


「おねえぢゃんが……危ないって……じんだぐがあ……うう……」

「神託って……あの夢のこと? それに私が出たの?」

「うん……でね……ルゥと……二人……途中でラムレットと出会って、マシューさん達と出会って……」


 泣きながら、ゆっくりゆっくりとここまでの話を説明している。レニーはうんうん、と優しく頷きながらその話を聞き、物理的に二人に挟まれている私はなんとか抜け出せないか頑張っているが、これはムリだ。


「えっと、そのお話にちょいちょい出てくるルゥさんって誰なのかな? ラムレットさんはあそこに居る人だよね?」


 突然レニーから視線を送られたラムレットが恥ずかしそうにしている……と、それはいいけど……その話題になったか。


 レニーの顔を見た瞬間、助けに入った少女がレニーだと認識した瞬間『私』が『俺』だった時の記憶がまた少し甦った。


 つまりは、私が今『カイザー』というよりも『ルウ』として活動しているということをレニーが知った時どう思うのか、想像できちゃうわけです。


「ルゥは……ああそっか。お姉ちゃん驚かないで聞いてね、カイザーさんは記憶の大半を失っててさ、ルゥとして、何処にでも居る女の子として生活しているんだよ」


 妖精は何処にでも居ないと思うんだけどな……それに私は口調を正されてこうしているだけで、別に女の子っぽくしているわけでは……無いはずなんだけど……。


「え……? えっと……つまりは……?」


「……つまりは……私がルゥであり、カイザーだよ……少しずつ記憶は戻ってはいるんだけど、どうも口調というか思考は戻らなくてね……ごめんね、気持ち悪いよね」


「あは……あはははは! 前々からたまに女の子っぽいところがあったけど……まさか本当に……女の子になってるなんて……流石に……あはは……思いませんでした……よ……あはははは!」


 ……どういうリアクションを取られるのか不安だったけど、まさかここまで笑われるとは。


 その様子を見ていたブレイブシャインやラムレットまで笑いだし、ジルコニスタまでなんだか暖かな微笑みを浮かべている……。


 っく……!


 なんとも言えない気恥ずかしさに負け、私はフィオラとレニーの間に深く潜り込んでいくのでした。


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