第三百二話 レニー咆哮する 

◇SIDE:レニー◇


 懐かしい機体達が、会いたくて会いたくてたまらなかった皆が帝国軍と戦っている姿が見えた。白い機体が見えた瞬間、カイザーさん? と思ったけれど、どうも違う。でも、様子からしてあれもきっと味方なんだろう。


 しかし、喜んでる場合ではない。皆はうまく敵に誘い込まれ、まともに力を出し切れない状態に追いやられている。このままじゃ……いけない!


「ルッコさんごめん!」


 聞えないだろうな、とは思ったけれど、一応謝って私は屋根を蹴り、お屋敷めがけて駆け出した。ルッコさんが慌てて私の後を追いかけてきたのが見えた。きっと後で怒られるだろうな。


 うん、いいよ!後でたっぷりと怒って良い!だから今は手伝って!


「うおおおおおおおおおおおお!!!!カイザアアアアスラアアアアアッシュ!!!」


 カイザーさんじゃあないけれど、これは叫ばずには居られなかった。

 

 飛び降りた先に居た機体はシュヴァルツ? でもなんだか私達が乗ってきたのと体格が違う。気合い十分に振り回した大剣ソードは数体巻き込んで斬り飛ばしてくれたけれど、力に耐えきれずポッキリと折れてしまった。


 手荒く扱ってごめんね。でも、今は急ぐんだ!


 さて、これで武器は無くなった。いいえ、私の武器はまだここにある! 熱く燃えるこの拳! この拳が有る限り!


 ぐっと拳を握り、敵に踏み込んでいく。いける! どうやら私達の機体より頑丈になってるみたいだけれども、そのせいで動きが鈍くなってる見たい。


 好き勝手暴れる私の背中ではルッコさんがスラリと伸びた綺麗なソードを振っている。


 ここに居る帝国軍機は黒騎士団の機体だ。ルッコさん、戦いにくいだろうな……ありがとうね。


 シュヴァルツ達はじわじわと数を減らしていくけれど、問題はあのでっかいやつ! 前に赤き尻尾のとこで戦ったあの大きな機体達。


 それが3機居るのはまだいいけど、そのうち1機が持ってる武器……あれカイザーさんのじゃん!


 どうやって使えるようにしたのかわからないけど、あれカイザーさんが「リボルバー」って呼んでた奴だよ、間違いない!


 なんだか変な改造をして狙撃銃にしてるみたいだけど、あれじゃリボルバーが可愛そうだ。なんとか近づいてやっつけないと……。


 迂闊に近づいて乱射されても皆の邪魔になる……白い機体に協力を……ううん、だめ。脚がやられて動けなくなってる。


 と、気付けばルッコさんはまた屋根に登っていた。なんだろ、あの人ほんと高いところ好きだな……まてよ。


 そうか、屋根に登って……上から攻撃をすれば! 昼間だったら良い的にされちゃうだろうけど、幸い今は真っ暗で見えないはずだよ。


 うん、いける!


 皆にバレないよう、素早くこっそりとお屋敷の屋根に登る……うっ、何処かの窓を割っちゃった……ごめん、アズベルトさん! ぜーんぶ帝国軍が悪いんだよ。


 多少不格好だったけれど、なんとか屋根まで登ることが出来た。屋根を破らないよう、慎重に歩いて丁度良い位置まで移動。


 ……高い、高いし思ったより距離があるな……届くかな……無理だなあ……。


 どうしたものかと暫く上で考えていたけれど、そんな暇はなくなった。


 ウロボロスが……ミシェルが斬られた! カアっと頭に血が上るのがわかる。今までにも仲間が傷つくことは何度も何度もあった。その時も嫌な気持ちになったけれど、今は余計に……久しぶりに会った仲間に……皆に……何をしてくれてるのかなあ!?


 気付けば私は屋根を走っていた。時折嫌な音がしていたけれど、これも帝国のせい。アズベルトさんはわかってくれる。


「どりゃああああああああああああ!!!!」


 ダン、っと屋根を蹴って跳んだ。ぐんぐんと近づく地面、でも不思議と怖くはない。このままあの狙撃者を……っと、足らなかった……!


 流石に相手に気付かれたようで、こちらに光弾が迫る。


 フー! 危ない! コックピット直撃コースだったよ。あんなのシュヴァルツで貰ったら死んじゃう! ここで死んじゃったらどうしようもない。


 ハッチは吹き飛んじゃったけど、こんくらいなら問題無い。さあ、今度は私の番だ! って、この、どっち向いてるんだ! マシュー達に銃口を向けるな!


「もおおおおおおおお!! お前の相手はあたしだろおおおおおおおおお!!!」


 私の手元、コンソールが激しく輝く。なんだか初めてカイザーさんに乗った時を思い出す。

 

 そしてその時同様、私の身体は高く、高く飛び上がる。これなら!


 拳を握り、頭から狙撃者に向かって落ちていく。光弾がこちらに向かって飛んでくるけど……当たる気は無いよ!


「うおおおおおおおお!!! ギィイイイイガアアアア!!! ナックゥウウウル!!」


 残念ながらお気に入りのガントレットはないけれど、技名無しでとどめを刺すのは気が済まない。

 私の拳はシュヴァルツを通じて狙撃者の機体に突き刺さり、奥へ吹き飛んでいく。


 ……まだ足らないか!


「このおおおおおおお!!!」


 ダン、ダンと地を踏みしめ後を追う。


 折角の! 再開を! こんな! こんな! だいなしにして! 許さないぞ!


 はあ……はあ……。


 気付けば敵機は沈黙、私達の勝利だ。


 ……そうだ……忘れちゃいけない……あれをやらなくっちゃね。


「この拳が燃える限り……あたしのハートは熱く滾る……ッ!」


 決めぜりふと共に腕を高く上げると腕がコツンと、天井に当たった。その時、何かのスイッチが入ったのか腕に付けていた端末から懐かしい声が……聞えてきた……。


『『『レニー!!!!』』』

『お姉ちゃん……ッ!』


 そっか……これ通信機だったね……。


 自分の間抜けさに呆れながらも、私は再会を噛みしめながら返事をした。


「……ただいま、みんな! 遅刻しちゃってごめん! カイザーさんを起こしに来たよ!」

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