第三百一話 レニー、ルナーサに立つ
◇SIDE:レニー◇
久しぶりに来たルナーサは、夜だというのもあるけど、それでも以前と比べて人気が無くって。
以前皆で来た時との格差になんだかとっても胸が痛んだ。
ルッコさんの話では、ミシェルのおうち……アズベルトさんのお屋敷にカイザーさんが運び込まれたと言う事だった。普通の人が聞いたら『なんで屋敷に?』と思うかも知れないね。
屋敷の地下、あそこには私達の基地ルナーサ支部とも呼べる立派な施設があった。街がこうなってしまっている以上、あそこがどうなっているのか心配だけれども……アズベルトさんならきっとうまく避難してるんじゃないかなって信じてる。
私達はこれからお屋敷に向かい、カイザーさんを奪還することになるわけだけど、ここでひとつ問題がある。
どうやらあのお屋敷、頭にくることに『結界』という物で囲まれているらしい。カイザーさんに見せて貰ったアレに出てくる『バリア』みたいなものかな? って思ってるんだけど、それが邪魔をして中に入ることが出来ないみたい。
隊長職クラスのパイロットならばそれを抜けられる鍵を持っているらしいので、それを『貸して貰って』中に入る―って事なんだけど、迂闊に動くと2機では捌ききれない程の兵士と戦うことになっちゃうわけで。
一応、帝国の機体に乗ってきては居るから『ごくろうさまー』なんていってさ、ごまかせるのでは? と、思ったけれど、ルッコさんは既に黒騎士団を抜けた裏切り者として手配されているらしく、例えシュヴァルツに乗っているとしても、バレたら最後という事で、気を抜けないのだと言う事だった。
というわけで、現在私達は人気が無い港の倉庫に隠れ、外の様子を伺っているのでした。
周囲には人影も無く、静かな物だったのでコクピットから降りてしばしの休憩です。携帯食の乾いたパンをポリポリとやりながらおなかを騙しているけれど、やっぱりどうしても物足りない。
パサパサとして喉に詰まるし、満足感は少ないし、やっぱりなんと言っても美味しくない!
カイザーさんが居れば、わっと何か美味しいご飯を出してくれてたはず……。
ふよふよと浮かぶ小さなお馬のカイザーさんが何かを主張するように私の周りを回ってみせる。
うん、君もカイザーさんだよね。わかってるよ、君は悪くない。色々と道案内もしてくれたし感謝してるよ! でも、こればかりは大きなカイザーさんじゃ無いと……無理だからなあ。
「うーん、外の様子がわからないのはやっぱり面倒だね」
「そうは言うがな、見張りがいつ来るかわからない状況で迂闊に顔をだすわけにはいかんぞ」
「いやあ、ルッコさんを信用して教えちゃうけどさ、こんな時カイザーさんなら敵の位置がわかるんだよ」
「……なにを言ってるんだ? 敵の位置がわかるだと?」
「レーダーって機能でね、どの方向から何機向かっているか光点で表示してくれるんだ」
「そんなの帝国にも無いぞ? 一体何処からそんな技術を……まて、なにか音が……」
ルッコさんが静かにするようにジェスチャーを送り、コクピットに乗り込むよう合図をする。
お馬のカイザーさんも警戒するようにぽんぽこ跳ねて、西の方から何かが来ていることを伝えている……んだよね?
コクピットに乗り込み、ハッチを閉める。何が起きても対処出来るように備えなくっちゃ。
外から聞えるパラパラと言う音がどんどん近づいてくる。なんの音だろう?
雨? でも外は晴れている……筈。じゃあ一体あの音は…………?
と、何かが壊れるような大きめの音が聞えてくる。これはもしかして何処かで戦闘が始まったのだろうか? こんな夜中に? ルッコさんが言ってないだけで協力者が来ていた?
ルッコさんの方を見るも……シュヴァルツ越しじゃあ流石に何もわからない。通信装置の偉大さが身に染みる。
ルッコさんのシュヴァルツが何やら手招きをしている。なるほど、倉庫の出口に張り付いていつでも出られるようにと言う事か……と思ったら、そのまま外に出て行ってしまった。
慌てて後をついていくと、外のコンテナを踏み台に器用に屋根に登って行ってしまう。もー! 慣れない機体なんだから無茶をさせないで!
必死に後に続くと、なるほどこれは見晴らしが良い……じゃなくって、夜の街に光の弾が飛び交う様子が目に入った。暗くてよく見えないけれど、たまに上がる爆炎に浮かび上がった機体、あれはエードラム!
と言う事は、トリバ……いや、ルナーサ? それとも両方の軍が何やら突入しているみたいだね。
何機いるかはわからないけれど、どうやらあの機体達は帝国軍のお怒りを買って追われている所というわけか……。
どうしよう、あの人達は私の味方、もしかすれば知っている顔があるかも知れない。
でも、今乗っているこの機体は……シュヴァルツで現れたら混乱を招いちゃう。
うむむ……助太刀したいけれど、素直にいけないこの、この……!
と、私が一人悩んでいるうちに、どんどんこちらに向かってくる。さあ、どうしようかとルッコさんを見てみれば、彼もまた何か悩んでいるようで、じっと両軍が戦う様子を眺めていた。
暫く二人でそうやって様子を見ていた。もうすぐ両軍が港に到達するぞと言うとき、ルッコさんが動いた。
ちょ、ちょっと何も言わずに行かないでってしょうがないか。
てっきり参戦するのかと思いきや、ぐるりと回って反対方向。つまりは、彼らを囮に使ってお屋敷を目指すことにしたようでした。
うぐぐ、正義の味方ブレイブシャインとしては捨て置けない状況だけれども、今の目標はカイザーさん。それに今乗っている機体もアレだし、なによりルッコさんとしても一応自国の兵士を相手にするわけだから、なんだか微妙な所なんだろう。うんうん。
ようし、ここはあたしも割り切ってしまえ!
ありがとう! 名も知らぬ人達! お陰で私達は遠慮無く屋敷に向かうことが出来ますよ!
◆◇◆
暫くの間屋敷を目指して移動をしていたけれど、どうも様子がおかしい。
事前に聞いた話によれば、お屋敷は結界、目に見えるバリア的な物で囲まれていて入れないとのことで、確かに向かっている途中、紫色のなんだか禍々しいモヤがお屋敷を囲んでいるのが見えた。
想像した物と違ってちょっとがっかりしたけれど、無効化すると思えば嫌なものの方が遠慮が要らなくていいよね。かっこいいバリアだと躊躇しちゃうかもだし。
だって、万が一鍵を『借りられなかった』場合は、結界を破壊する事も考えていたからね。
それが、もうすぐ到着だという時、不意に消え去ったからびっくりだ。
結界が……解除された? 一体何故?
先行して前を走っていたルッコさんもそれは驚いたようで、ジェスチャーで私に止まるよう指示を出し、屋敷から少し離れた位置で停止した。
そのままゆっくりと、慎重に屋敷に近づいていくと……門の前には数機の帝国軍機が倒れていた。これは……? 一体……
ひらりと建物の屋根に上がるルッコさんに続き、私も登ると……驚いた……。
「あれは……マシュー、ミシェル……シグレちゃん……ブレイブシャインのみんなだ!」
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