第三百話 レニーとシュヴァルツ

◇SIDE:レニー◇


 帝国軍に占拠されたルナーサにカイザーさんが囚われている。

 その話を聞いた時、直ぐにでも迎えに行きたかった……けれど、今の私は無力に近い。帝国軍がうじゃうじゃ居るらしいルナーサに、機兵も無しに行った所でどうすることも出来ないだろう。


 しかし、それはルッコさんの願いを叶えるお手伝いをすれば、黒騎士団への協力をすれば叶うと言う。


 ルッコさんの言う願いとは皇帝をおかしくさせて、現在帝国を乗っ取っているらしい謎の存在の討伐だ。


 それをするにはブレイブシャインやトリバに居るという、ルナーサ防衛戦で捕虜とになった黒騎士の二人の協力が必要不可欠だという。


 討伐の話はともかく、黒騎士の人たちの解放くらいならレインズさんに話を通すことは出来る。あたしはあくまでも仲介をすればいいだけだからね。


 そんなわけで、私は彼に協力することになったんだけど、まずこのままでは帝国を抜け出すのが難しい。


 戦争以前であれば、商人に変装し、商隊に紛れて出ていけば良かったんだろうけど、門が封鎖され出入りが制限されている今それは無理な話だった。


 さて、私達がどうやって帝国を抜け出したのか。


『街に居る協力者から機体を2機調達してもらう手はずになっている』


 そう、帝国の機兵に乗り、闇に乗じて……いえ、多少強引に脱出したのでした。


 協力者、っていうのはルッコさん同様、元黒騎士の方。半数以上は皇帝同様に様子がおかしくなっちゃったみたいだけれども、早くに皇帝の異常に気づき、脱出を図った人達はルッコさん同様、おかしくならずに無事なままで、今はルッコさんと共に国家を取り戻すために様々な活動をしているらしい。


 ルッコさんの家にやってきた協力者の人たちと顔合わせがてらにそんな話をしてくれたんだけど、大事な話だろうに、私みたいな部外者に聞かせて良いものなんだろうか?


 ふと、そんな事を聞いてみたら、


『レニーとか言ったか? お前はどう見ても人畜無害のタヌキみたいな顔を居ているし、多少国家機密を聞かせた所ですぐに忘れそうだからな。特に気にするようなことではあるまいよ』


 ルッコさんと似たような体格でサラりとした金髪が腹立たしい男が……初対面だと言うのにそんな失礼なことを言う。


 勿論私は抗議をしたけれど、それについて頭を下げたのはルッコさんだった。


『すまないレニー。コイツは馬鹿なんだ。俺に免じて許してくれ』


 ああ、馬鹿なのかあ、じゃあしょうがないなあと思っていたら、今度はその人が怒る。

 怒るというか、じゃれ合い始めた? どうやらルッコさんとかなり仲がよいようだ。


『ジルお前……! 次期皇帝である俺になんて口を……!』

『それを自分でいうような奴が次期皇帝だというのが俺の頭痛を加速させるんだ』


 聞きたくない会話だった。


 この、軽薄そうな男の人、ナルスレインと名乗った男の人は


 ナルスレイン・シュヴァルツヴァルトと言って、皇太子……だった……。


『ああ、皇太子と言ってもただの馬鹿だからな。レニー、そう固くならんで良い』

『ジル! そういうのは俺が言うセリフだろうに!』


 全く仲が良いことでなによりだ。

 なんだかマシューとミシェルの喧嘩を見ているようでほっこりするなあ。


 そしてその皇太子……ナルって呼べとうるさい皇太子から機体が与えられたんだ。

 与えられた、と言ってもそれが置いてある格納庫までのルートを確保してもらったというだけだったけどね。


 勿論、私とルッコさんにとってはそれだけで十分だった。


 城からやや離れた場所にひっそりと建っている格納庫。そこに残されていた2機の黒い機体。


 ……まさか私が黒騎士の機体、シュヴァルツに乗る日が来るなんて……。


 コクピットに座ってちょっとびっくり。これはこれはエードラムと同じ様な仕組みだわ。


 てっきり、普通の機兵のように操縦桿やフットペダル等が並ぶアレかと思って身構えたけれど、乗ってみたら見慣れたコンソールが見えてなんだかちょっとじんわり泣けたよ。


 こうかな? と、手を置いて輝力……じゃなかった、魔力を流し込むとコンソールが鈍く光って起動したことがわかった。


 あの時のルッコさんとナルさんは面白かったな。


『なんてやつだ。初見でそれを動かすか』

1級ファーストハンターと言うのは冗談じゃなかったのか?』


 いくらファーストのハンターでもこれは初見じゃ無理でしょ。私はカイザーさんで慣れているし、エードラムにも何度か乗ったからね。それと似たような思想で作られたこの機体なら動かせるのは当たり前です!


 ……って思ったけど、面白いから黙ってた。たまには私だって凄い凄い言われたいもん。


『まあ、馬鹿ほど慣れやすいとはエンジニアが言ってたからな』

『ああ、アランとかな……あいつ、元気かなあ……』


 ……聞こえなかったことにしよう。



 そしてルッコさんと二人、夜のシュヴァルツヴァルトを後にする。ナルさんの話では"皇帝"は今も城で何かをやっているらしい。ルナーサにカイザーさんを運び込んだのもなにか関係がありそうだーとか、カイザーを奪取すると何か動きをみせるかもーとか言ってたけど、私にゃ知ったこっちゃない。


 偽皇帝の悪巧みでで世の中が大変なことになっているのかも知れないけれど、それはそれ、これはこれだ。私の目的はまずカイザーさんを取り戻す事! そして皆と再会するんだ! そしてそして……皆にただいまと告げるんだ……!


 みんなみーんな取り戻してから……ゆっくり皆とその後のことは考える。


 だから今は誰にも邪魔をさせない!

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