第二百九十七話 突入
魔導具を破壊し、屋敷の門前に向かうと……マシュー達が戦闘中だった。
特に苦戦している様子はなかったが、背後で槍を構える帝国軍機はそのままにしておけないので、念の為先行していた2人に声を掛ける。
「マシュー、ミシェル後ろの機体は任せろ」
『おう! 頼むぜ!』
『お願いします』
「だそうだ。よし、フィオラ! シグレ頼む!」
「了解ー」
『了解です!』
◇◆
あっさりと、あまりにもあっさりと魔導具は全て破壊され、特に何かが仕込まれているというわけでもなく、素直に結界は解除されてしまった。
いや、解除されて嬉しい、嬉しいは嬉しいんだ。ただ、何事もなさすぎると言うか、実はもう一箇所何処かに隠れた魔導具があってーとか、そういうのを予想していただけに……これは。
「何難しい顔してるの? 楽ならそれでいいじゃない」
「そうだよ。ほら、速く中に入って身体を取りにいこう」
そうだね、これが現実というものなのかもしれないね。帝国相手だからと少し警戒していたけれど、あまりにも御粗末な魔導具だったからなにかあると思ったけれど、なにもないのが一番だよね……ってこれは!?
何もないと思ったのは、そんな甘いことを考えられたのは僅かな間だけだった。
最後の魔導具を破壊した瞬間、屋敷を取り囲んでいた防護結界が綺麗さっぱり消え去った、それは良かったんだけれども。
「敵影! 屋敷庭園内、及び格納庫周辺に計30機!?」
突如としてレーダーに現れた敵機、そのあまりの密度に驚いて変な声を出してしまった。
『え、ええ? 敵機!? それも30機も……いるんですの!? だってレーダーには何も……』
『オルトロスもびっくりしてるぜ。一体どっからそんなに……』
「やはり結界の効果でレーダーが阻害されてたみたいだね。外のは雑魚だったが気を抜くな! 恐らく中の奴らは……手強いぞ!」
『カイザー……おっと、ルゥだったか。聞こえるかい? ウロボロスだ。僕のレーダーで見るに、シュヴァルツ弐式の反応が3つ有る』
『もしかしなくてもアレは黒騎士ね。中身がまともかどうかは置いといて……厳しい戦いになるわよ』
シュヴァルツ弐式、かつてアランドラとリリィが乗っていた機兵だったか。データに寄ればブレイブシャインをかなり苦しめたと聞く。これは気を抜けないな。
「各機、聞いたな? 今ウロボロスから報告があったとおり、シュヴァルツ弐式の反応が3つ存在するようだ。正直な所フィオラとラムレットでは対応しきれないと思う。
なので、ブレイブシャインの3人、君達にはシュヴァルツの相手を頼みたい! 我々は遊撃しつつ、雑魚を蹴散らす! すまないが……頼む!」
『まかせてくれよ、カイザー! アタイ達だって以前のままじゃないんだ』
『そうですわ! 鍛え上げたこの技術、披露して差し上げますわ!』
『勝利をカイザー殿に捧げます!』
「っと、敵さんはそろそろしびれを切らしたみたいだ。じゃ、皆行くぞ!」
『『『おう!』』』
掛け声とともにブレイブシャイン達が突入していく。広いはずの庭園なのに機兵達の巨体で狭く感じる。
中でもやはりシュヴァルツは軍を抜いて大きい。シュトラールもそれなりに大きな体をしているが、シュヴァルツは聞いていた話より大きいような……?
私が周囲の様子を見ている間にも敵機は遠慮なくこちらに攻撃を仕掛けてくる。先程戦った護衛の弱さが嘘かのようにいやらしいコンビネーションを決めてくるものだから、パイロット達から辛そうな声が時折上がっている。
「くそ! あの盾持ったやつ面倒くさいな! ボルトが弾かれちまう!」
「ずるいよねあれ! ヒッグ・ホッグより硬いなんて!」
盾持ちが数機居る。それに守られるようにして槍を構えた機体。なんといったか、薄っすらとそんな感じの陣形が思い浮かぶけど、詳細が思い出せない。
ううん、もう一機居れば何とか崩せそうなんだけど、マシュー達はマシュー達で苦戦してるな……。
アラン達がこちらに来てくれれば……いや、だめだ。あっちはあっちで忙しいはずだ。
何とか、左右にフェイントを入れ、回り込んで崩そうとがんばるも、相手の数が多すぎてままならない。
不幸中の幸いなのは、私達が最後に突入したこと。このおかげで背後に出口を背負い、退路をキープできている。
逆に言えば挟み撃ちを食らう可能性もあるんだけど、今の所敵影は無い……?
……! この反応、帝国軍機!
不幸中の幸いじゃなくて不幸に輪をかけて不幸な状況になってしまった。
こちらに凄まじい速度で迫る機体が2機。データベースによればこの反応はシュヴァルツ……!
「っく! 各機に次ぐ! 屋敷正面より新手が接近中! 反応から敵機はシュヴァルツと断定。恐らくは黒騎士だと思われる。ここは何とか2人に頑張ってもらうが、もしものときはすまん!」
『馬鹿野郎、謝んじゃねえよカイザー! そんなの後にとっとけ!』
『諦めるのは早いですわ! 今!……私が……そちらへ!……』
『っぐ、正直手一杯ですが、なんとか……向かいますから……!』
そうだな、ここで私が謝ってどうにかなるもんじゃあない。
「フィオラ、ラムレット。恐らく前より後ろがやばい。さあ、どうしたい?」
「そんなの決まってるよ!」
「よりやばくない方に賭けるしか……ねえだろ!」
「「うおおおおおお!!」」
覚悟を決めた二人の行動は速かった。脚部に出力を集中させ、高く、より高く跳躍する。
宙にいる私達に槍が向けられるが、すかさずそれを大剣で斬り払う。
そのまま敵機の盾を踏みつけ……再度跳躍……今何か……嫌な音が聞こえた……ぐっ!?
鈍く、何かが折れるような音が鳴り響き、左足が地に沈む。センサーを確認するとどうやら跳躍で負荷がかかり左膝が破損してしまったようだ。
「きゃあ!」
「うわああ!」
バランスを崩し、敵機の真っ只中に転がり落ちてしまった。即座に取り囲まれ、槍を向けられる。まずいな……どちらにせよ……私達は詰んでたって訳か……?
と、なにやらかすかに声が聞こえてくる。
「……ぉぉぉぉぉ!」
この声は……一体どこから……?
「……ァァッシュ!!!」
そして、轟音が鳴り響く。
ややあって敵影がいくつか吹き飛び、その余波がこちらにも……
「ラムレット!」
「うわああっと!」
慌てて立ち上がり、ソードを地に突き立て、盾にして直撃を避けようとした……が、流石に片足では踏ん張れない。敵機と共に吹き飛んでしまった。
「うわああああ!」
「ぐあああ!」
それでも、ただ巻き込まれただけなのでダメージは軽微。脚部の破損は深刻だが、何とか動くことは出来る。
ゆっくりと立ち上がろうとしているその間にも轟音はなり続け、膠着していたのが嘘のように敵が沈黙していく。
一体何が、いや、誰がそんなでたらめな真似を……。追加の機影といえばシュヴァルツだったはず。仲間割れ……?
確かに立ち上がり、目視をしてみれば明らかにシュヴァルツと思われる黒い機体が大暴れをしている。
いや、厳密に言えば拳を振り回して『暴れている』シュヴァルツは1機で、もう一機はスラリとした長剣を構え、正しく『戦闘』をしている。
……あの暴れているシュヴァルツ……狂戦士ってやつか……?
いや、でもなんだかあの出鱈目な戦い方……見覚えが……。
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