第二百九十六話 結界魔導具破壊作戦

 遠くからざわめきとパラパラとした銃撃音が聞こえてくる。

 どうやらアランドラ達は上手くやってくれているようだね。


 というわけで、私達は第3魔導具へ、屋敷裏手北側を目指してコソコソと移動中だ。

 今頃マシュー達も南側の第2魔導具に向かっている事だろうさ。


 元々広めに作られていた旧貴族街の道は、人気の無さも相まって余計にガランとしている。動きやすくて良いのだけれども、何処で何が見ているかわからないため、見晴らしが良すぎるのも逆に困るね。


 と、言っても私達にはレーダーが有るんだけど。


 我々が向かう先には見張りが4機確認できる。どうやらコソコソ監視などせず、堂々と魔導具前に立って見張りをしているようだ。


 念のためにと、マシュー達が向かった側も見てみれば……あちらも同様、堂々としたもんだ。


 よっぽど自信があるのか、それとも襲撃されるとは思っていないのか。

 どちらにせよ、こちらとしてはやりやすくて助かるけどね。


 通信範囲を近距離に指定し、ここに居る2機のみでブリーフィングを行う。


「さて、敵さんは4機居るみたいだけど、どう動く?」


「そうだね、まずはシグレちゃんと私で遠距離から奇襲かな。初めての相手だから欲を出さずに1機だけ確実に狙う感じで、後はラムレットと交代してそのまま突撃、残りを仕留めるって感じかなあ。シグレちゃんはどう?」


『概ね同じ考えですね。まずは私とフィオラで同時に奇襲、それが最善でしょう。その後はそうですね、取り敢えず私は遠距離攻撃を主体にラムレットの援護をしつつ、場合によってはリーン刀に切り替えましょう』


「うっし、アタイから言うことはなんにも無い。二人が全部言ってくれたからな!」


 ……ただ何に考えるのが面倒だっただけだろうな……とは思ったけれど口にはしない。


 ゆっくりと移動し、作戦開始ポイントに到達した。


「じゃ、私の合図で動いてね……カウント5、4、3、2、1、開始!」


 何のひねりもない合図だけれども、これで良い。下手に凝ると混乱するし、優先すべきは作戦の成功だ。


 合図とともにクロスボウからボルトが放たれ、ヤタガラスからは何かナイフのようなものが数本飛んでいったようだ。


 撃った瞬間にはもうラムレットにスイッチして大剣片手に飛びかかっていた。


 最初に放たれた攻撃は、ヤタガラスの武器が魔導炉を貫き沈黙させ、フィオラが放ったボルトは残念ながら若干ズレてしまったようで完全に沈黙とはいかなかった。しかし――


「手負いは手負いで役に立つんだよねえ!」


 炉の損傷により、動作不良を起こしているらしい敵機体が邪魔となり、他の2機の動きを阻害している。そりゃそんな仲良くくっついていたら当たり前の話だろう……。


 帝国軍の練度は黒騎士以外ひどいものなのかも知れないな。機体のスペックに頼りすぎていると言うか。なんというか。


 私が非常に失礼で勝手な考察をしているうち、元気な機体が1機ラムレットに潰されていた。返す刃で弱っていたもう一機を潰し、さあ、と振り向けば元気な残りの1機がシグレに斬り捨てられているところだった。


「たまには刀を振るのも悪くないでござるな……」

『良く言うでござる。ラムレットが飛んでいったのみて『私も行くしか!』って張り切ってたくせに』


 ヤタガラスが余計なことをバラしたようで、必死に弁解をするシグレの声が聞こえてくる。いいじゃないか、リーンソード。何だかわからないけれど、妙にロマンを感じるし。私は好きだよ。


 と、一瞬で終わってしまったため、忘れちゃうところだった。


「ほらほら! 目的を忘れない! 魔導具を破壊しないと!」


「そうだった! えっと魔導具は……あれかな?」

「そうだな、会議で見せられた絵とそっくりだ」


 無骨な金属の塊といったような機械に何やら地面から伸びるパイプが繋がっている。

 機械の隙間からは怪しげな紫色の光が漏れていて、いかにも悪い魔導具だと言わんばかりだ。


 適当に壊せばいいんだろうけど……なんだか地面から伸びるパイプというのが気に入らない。


「みんな、このパイプも取り敢えず切っちゃおう。パイプを切って本体を叩き潰せば流石に動くことはなくなるだろうさ」


「そうでござるな。このパイプはおそらく地中から魔力か何かを送り込むものです。まずは動力源から、というわけですな」


 なるほど、動力源か。あーそうか、地下に自分の身体が有るってのが頭にあったから地面に伸びるパイプがそこにつながってる感じがして気に入らなかったんだ。


 カイザーの動力は輝力で魔力とは別物らしいから多分動力源にされてるってことはないだろうけど、直感を信じよう。


「よし! シグレはパイプを! ラムレットは本体をやってしまえ!」


「「おおー!」」


 相手はただの魔導具。なので見張りが居ない今、特に抵抗されることもなくあっさりと破壊活動は終了した。


 念の為周囲の様子をレーダーで確認したけれど、特に動きはなし。警報でも鳴っておかわりが来ることも想定していたけれど、取越苦労だったみたいだ。


 ……ただ、ここまで静かなのもちょっと不気味。反応が有るのが結界用の魔道具周辺だけだからなおさらだ。


 もしかして、結界内の敵影はそれに阻まれて見えなくなっている……?

 あり得る。流石にいくらなんでも4機ずつ配置して終わりということはないだろう。


 でなければ、誘い込もうとしている……?


 ううん、わからない。こんな時、相談に乗ってくれる知的な相棒でも居れば助かるんだけどな。フィオラにラムレット……シグレもちょっとだめだ。


 せめてミシェル……くそう、我ながら頼りないな私は……。

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