第二百九十五話 突撃

 目指すアズベルト邸はルナーサ西門をくぐり、街を抜けた先にある旧貴族街に有る。

 私達の目的地は言うまでもそこなんだけれども、レーダーを展開したら居るわ居るわ。夜だと言うのに警備の兵士がうじゃうじゃといる。


 当然、それは予想していたわけで、その対策として陽動部隊としてアランドラ・リリィ隊がいるわけなんだけど……彼らの動きというか、行動が少々予想外と言うか、予想より……凄すぎた……。


 アランドラ達が率いるエードラム、24機が帝国軍をひきつけ、その隙に我々は貴族街に向かうという、割と強引な作戦だ。


 陽動で多少目立つ行動をして貰うとは言え、その効果が現れるのは直ぐではない、そう思っていた。


 しかし。


 ルナーサ西門にはそこを護る機兵が2機立っている。アランドラ達はそれを難なく撃破し、そのままの勢いでドヤドヤとルナーサに突入。


 ここまでは良かった。


 潜伏場所からその様子をモニタしていた我々奪還部隊は陽動部隊の……いや、アランドラの行動に驚くことになる。


『オラオラ! 帝国軍はこんなもんか? そうじゃねえだろ? 見せてみやがれ! おめえらの本気をよ!』


 夜の街に響き渡るアランドラの声。おいおい、外部スピーカーを使った演説なんて作戦会議じゃ出てなかったと思うんだけど?


 静かな街がざわざわとどよめき始め、どんどん街に明かりが灯っていく。


『どうした腰抜け共? ああ、そうか俺が誰かわからねえんだな? 

 はん! 聞いて驚け! 俺はアランドラ・ヴェルン! 元黒騎士の裏切りもんだ!

 どうした? ビビって声もでねえか? オラ! 裏切り者を粛清する栄誉を与えてやるつってんだ! 玉ァあるなら……いって、くっそリリィなにしやが……あーもういい! まとめてかかってこい!』


「アラン……叩かれたね……あれは叩くよね……」

「ああ、頭を抱えるリリイが目に浮かぶようだよ……」


 ……リリイには後で酒でもおごってあげよう……。


 とは言え、効果は抜群だったようで、レーダーに映る敵影がわらわらとアランドラ達がいる広場に集まってきている。


 ……って、そこに居られちゃ邪魔なんだってば。


『アランドラ、聞こえる? ちょっとそこに集められると困るんだけど!』


『ああん? 注文が多いやつだ……いっでえ! くそリリィてめえ……』

『ルゥ? ごめんなさいね、じわじわ集める予定だったのに馬鹿が張り切っちゃって……』


『リリイさん、ミシェルです。広場から東に港があるんですが、そちらに誘導できます?』

『ルゥです。東側の敵影、7。南から8、北から9、西から4それぞれ向かってる。東側の敵機を蹴散らしながら港に迎えますか?』


『リリイよ。まったく無茶なこと言ってくれるわね……いいわ、やってやろうじゃないの。エードラム各機、聞いたわよね? A班は私と一緒に先行! B班は後方を射撃で牽制しつつ後ろからついてきなさい!』

 

『エードラムA班了解』

『B班も了解』


 通信が終わると、間もなくパラパラと射撃音が聞こえて来る。リックご自慢の連撃銃の音だ。装填に時間がかかるため人気が無かった銃にウロボロスの知恵を借りて連射性能をもたせたものらしいんだけど、威力が低い分、牽制にはバッチリ。


 レーダーを見るとじわりじわりと港に向かって光点達が移動していくのがわかる。


 未だいくつか見張りが残っているみたいだけど、これくらいなら私達でもなんとかなるね。


「では、奪還部隊突入するよ。準備はいい?」


「いけるよ!」

「ああ!」

『いつでも大丈夫だ!』

『こちらもいけますわ』

『お仕事の時間でござるな』


 それでは………。


「突入開始!」


 ガラリとした街……だけど、野次馬達が店の外に立って港の方を見ていた。街に居るのは殆どが帝国軍なのだろうと思っていたけれど、商人たち、結構残ってたんだな……。


『……まさかこんなに残ってるとは……流石ルナーサの商人。肝が座ってますわね……』


 ミシェルが呆れたような感心したような声でぼやいている……。多少買い叩かれる事になろうとも、例え強引に奪われるようなことになろうとも商品を勝手に弄られたくはなかったんだろうな……。


 野次馬達が私達に手を振っている……。なるほど、ブレイブシャインだもんな、目立つよね……今はあんまり目立ちたくは無いんだけど!


 幸いなことに商業区に居た帝国兵達は間抜けなことにそっくり釣られて港に向かったようで、今の所こちらに向かう敵影はない。


 でも、旧貴族街には相変わらず見張りが張り付いているようで、レーダーに動かない敵影が見える。お偉いさんが占拠しているからなのかもしれないけど、やっぱアレだよね。私の身体が有るから……わざわざ見張ってくれてるんだろうね。


 潜入部隊なのに野次馬の歓声を受けつつ見送られるという間抜けな状況で商業区を抜け、いよいよ目的地、旧貴族街だ。


 いかにもな感じで区画を隔てるご立派な門前には、さも当然であるという顔で見張りの機兵が2機。

 さて、どうするかって思った瞬間、シグレが操るヤタガラスとマシュー操るオルトロスが闇を切り裂き風のように向かっていった。


 2人がナイフで突き刺したのは帝国軍の量産機『シュヴァラ』の動力炉だ。この情報はアランドラからもたらされたネタで、


『シュヴァラはよ、間抜けなことにへそのあたりに動力炉を置いてるんだよ。長時間運用するとジリジリと魔力熱に下から炙られてコクピットは酷いって聞くぜ?』


 なんてこと無い雑談の笑い話的なネタだったんだけど、動力炉はそのまんま弱点となる場所だ。なので機密情報であるし、鹵獲され暴かれることも考えてその付近は頑丈に守りを固め、外から破壊されにくくしてあるはずなんだけど……。


『だもんで、シュヴァラの動力炉は風通し良くなっててな。空冷つったか。まあ、改善されたわけだが、今度は故障率が上がったっていうんだから笑うよな。まあ、帝国の技術者つっても量産機やってる連中はその程度ってこった。リックやジンの爺共のがよっぽど良いもん造るわ』


 とのことで……。


 冗談みたいな話だけれども、冷却のために弱点部位の装甲を薄くしてしまった結果、上手く隙をつければああやってナイフ1本で沈黙させることが出来てしまうのである。


『ふう、コクピット封印完了だ』

『こちらも終わったでござる』


 パイロットにチョロチョロされても困るからね。申し訳ないけどハッチは開かないように仕掛けをさせてもらった。明日になれば誰かが開けてくれるさ……きっとね。


 門を越えると、後はもう不気味なほど反応がない。いや、厳密に言えば一箇所に集中しているのだ。

 アズベルトの屋敷を取り囲むように見える反応は明らかに魔導具を護る帝国軍の物だ。


 さて、私の身体を護ってくれているお礼をしないといけないな。


『じゃ、みんな。手はず通り行くよ。マシュー、ミシェル後はよろしくね。シグレ、よろしくね』


『まかせてくれ! どっちが先に正面に戻るか競争だぞ!』

『マシュー! 真面目にやりなさいな! では、ルゥまた後で!』


『ルゥ殿、フィオラ、ラムレットよろしく頼みますね』

「うん、一緒に頑張ろうね! シグレちゃん!」

「うっし、腕がなるぜ!」


 さあ、本番の始まりだ。

 

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