第二百九十四話 奪還作戦始動

 作戦会議から2週間の時が経った。会議の翌々日には出発ということで、急いで準備が行われたけれど、結局現地に到着するまで結構な時間がかかってしまった。


 驚いたのはブレイブシャインが装備しているバックパックのスペックだ。実際に使っているのは見せられていたし、私もデータとしては知っていたけれど、目にしてみるとほんと出鱈目な性能だよ。


 ある意味作戦の要とも言える水や食料は、勿論それに収納するだろうとは思っていたけれど、まさか機兵達をそっくり収納してしまうなんて。


 そりゃさ、私だってゾロゾロとエードラムやシュトラールがルナーサ目指して歩いたら目立ってしょうがないよなあって思って居たけれど、まっさか収納しちゃうなんて思いもしなかったよ。


 あまりにもびっくりしたのでフィオラ達とその思いを共有していたら、


「ありえないって話をしてますけれど、前の防衛戦でそれを立案してやってみせたのは貴方なのですわよ? ……まあ、今の貴方はカイザーではなくて、ルゥなのですから……驚くのは無理の無い事なのでしょうけれども。

 はあ、カイザーを知るわたくしから見たら滑稽で滑稽でしかたがありませんわ……」


「うわ、それ本当? ……確かに私ならやらかしそうな気がするけど……ううむ。普通やろうとは思わないぞそんなの……」


「あっはっは。まあ、ルゥもちょいちょいカイザーの片鱗を見せてるぞ? なんだよ、あのフィオラ達にやった訓練。ラムレットが弓持ってヒッグ・ホッグ追い回したって聞いた時は笑ったわー」


「ああ、訓練の仕上げでやった奴だね。パートナー同士、互いの武器に慣れるのは大事だろう? 笑うことないだろう? おかげでシュトラールの操縦が洗練されたんだし」


「ああ、すまんすまん。それが変だって言ったわけじゃないんだよ。あたいやレニーも散々カイザーには妙な割にためになる訓練受けさせられたからなあ」


 むう。記憶こそ無いけれど、根っこの部分はやっぱり変わってないってことか。いやいや、私は噂に聞くカイザーほど横柄な性格ではないぞ。偉そうな口調でもないし……。


 ……もしかしてカイザー、キャラ作ってた?

 司令官らしくしなくっちゃってキャラを作ってたり……ないか、ないよね……?


 そんなわけで、荷物をそっくり収納してしまった私達は馬車に乗ってルナーサ付近まで移動することになった。馬車に乗るって聞いた瞬間、ラムレットがすごく嫌な顔をしたけれど、マシューじゃなくてきちんとした本物の馬が引くと聞いてホッとしていたよ。


 馬車は6台編成の大所帯だ。私達、馬車組は商人とその護衛をするハンターたちという設定。たまたま旅先で一緒になったブレイブシャイン達が、機兵が居ないを心配してサウザンまでついてきてくれることになったという、ファンからすれば実に羨ましい設定だ。


 一応商人ということになっているので、フォレムやパインウィード、リバウッドなどなど、寄れるところにはきちんと寄って、設定とは言え、きちんと商人としての商売もしながら慎重に進んだんだ。


 無論、ごっこ遊びじゃないからきちんと収入は得られるし、これも基地の運営費になるわけだから手を抜く訳にはいかない。


 極秘任務だとは言え、丁寧に丁寧に歩みを進めた結果、異常に移動速度が速いらしいブレイブシャインとしては通常の倍近くの移動時間になってしまったようだった。


 そして現在我々が居るのはルナーサからほど近い丘の上だ。眼下にはルナーサに続く街道が伸びていて、ここを下っていけば誰でも迷わず到着というわけ。


 ここから北に行くと『北の大草原』と言う狩場があるらしいのだけれども、最近はゲンベーラ大森林、つまり私とフィオラが出会った狩場が熱いらしく、大体のハンターはそっちにいっているみたい。


 本来ならルナーサとサウザンの間に位置するこの丘には多数のハンターや商人が野営をしていたらしいんだけど、ルナーサがあんな状態なので、流石に私達以外だーれも居ない。


 日が落ちて1時間。我々は夕食を取りつつ、ボンヤリと眼下に薄っすらと見える街の明かりを眺めていた。

 遠くに見える大きな光はルナーサの大灯台らしい。近海で漁を行う船が多数出入りしているルナーサを象徴するような存在で、漁師を護る暖かな光はここからでもよく見える。


 ……なんだか以前もこの辺りでこうして街を見下ろしたような気がする。


 ううん、これはデジャヴではなく、きっと本当の記憶。ミシェルが居て、マシューが居て、横にはレニー、そしてスミレがパタパタと得意げに翅を羽ばたかせて、出来たばかりの身体を自慢して……。うんそうだ。私達は、確かにこうやってここに居たんだ。


「ミシェル、マシュー。ちょっといい?」


「どしたんだー? メシならさっき食っただろ?」

「マシューじゃないんですから……どうしたんですか? 何か気になることでも?」


 心配そうな顔で二人がこちらにやってきた。作戦前だと言うのに余計なこと言っちゃったかも。


「ううん。たださ、前にもここ来たかな? って。前は多分昼間に見たんだよね? ここからルナーサをさ」


「ええ、ええ! そうですの! わたくしと一緒にはじめてルナーサに来たあの日! カイザーさん、思い出しまして?」


「ちょっとだけ、ぼんやりとね。ねえ、平時のルナーサはきっと夜景が綺麗なんだろうね」


「勿論ですわ! 遅くまで開いているお店もありますし、港は昼夜問わず忙しいですし!」


「ねえ、ミシェル、マシュー。レニーとスミレが帰ってきたら、ルナーサを取り戻したらさ、シグレと一緒にさ、改めてここで夜景を見ようよ。きっと楽しいキャンプになるよ」


「そうだな……! うん、きっとそうだ! そん時は勿論ラムレットとフィオラも一緒にな!」


「うんうん、そうだね。私はカイザーとして、ルウとして皆と一緒にまたここに来たいよ」


 これから作戦開始だって言うのに何だかちょっとしんみりとしてきちゃった。なんだかなあ、こうやって記憶が戻っていくのは嬉しいけど、しんみりしちゃうのはちょっと困る……なって思ってたらフィオラががしーっと私の手を掴んで……サイズ差があるんだからまずいって!


「ルウ。まずここでルウの身体を絶対に取り戻そうね! そして、そしてそして! あんの馬鹿姉をぜーーったいにみつけだしてさ、皆でキャンプしよう。馬鹿姉にはバツとして準備全部やらせるんだ!」


「ふふ、そうだね。絶対やろう、キャンプ。冒険の野営じゃあなくてさ、皆でただ笑ってお酒を飲んで楽しむだけのキャンプ、絶対にやろうな」


 

 そして通信機からアラームが聞こえ、作戦開始まで10分をきったことが伝えられた。


 うん、やり遂げよう。仲間も身体も思い出も全部ぜーんぶ取り戻してやる!まってろよ! 私の身体! 今行くぞスミレ!レニーもさっさと帰っておいで!


 ――そして作戦開始時刻


 バックパックから取り出された機体にそれぞれ乗り込み、後は開始の号令を待つのみだ。


『なにやってますの? カイザー……いえ、ルウ、貴方が司令官ですのよ? さ、号令をかけてくださいな』


 ミシェルから通信が入ってそう言えば、と思い出す。

 嫌だって言ったのに私以上に適任者は居ないってアズベルト含め全員に言われて受けちゃったんだった。


 しょうがないな、ここは一発ぶちかましますか!


「諸君! 時は来た! これよりカイザー奪還作戦を開始する! いいか、一番の目標は任務の成功ではなく、皆が生きて帰ることだ。自己犠牲なんて私は好まない。待っている者達のため、私のためにも絶対に生き残ってくれ! ではゆくぞ皆! 作戦開始!」


『『『おおおおおおお!!!!』』』


 さあ、返してもらうぞ! なにもかもね!

 

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