第二百九十二話 訓練が終わり
射撃のフィオラ、近接のラムレット。射程が明らかに違う2人の戦い方を1つにまとめようというのがそもそもの誤り。
正直なところ、ちょっぴりそんな事を考えることもあった。けれど、森での狩りを通じてゆっくりとではあったけれど、2人の心は一つになり、そしてとうとう……。
「どりゃあああああああ!!」
ラムレットに斬り捨てられたヒッグ・ホッグが地に伏せる。それを横取りしようと密かに距離を縮めていたブレストウルフが3頭、藪から顔を出した。
「悪いけど居たのは知ってたんだ! スイッチ! フィオラ!」
ラムレットの掛け声とともにアタッカーがフィオラにチェンジする。
装備していたソードが即座にクロスボウに変形し、ボルトが射出2発射出される。装弾数は6、そのうち2発が風切り音と共にブレストウルフたちを撃ち抜いた。
流石のフィオラでも致命傷を狙えるのは一度に2発のみ。3発目以降は命中度や確実性を考慮してまだ撃つことはしない。
「もう一発当てられれば楽なんだけど……! スイッチ! ラムレット!」
「贅沢はいってられない……さっ!」
再度ソードに変形した武器を振り、ブレストウルフの首を切り飛ばす。
ううむ、なかなかにエグい……。
現在二人が乗っている機体はシュトラール。何度か訓練を繰り返し、互いの間合いをきちんと理解することが叶った2人は『スイッチ』の掛け声を合図にメインアタッカーを切り替えながら戦う方法を身につけた。
リリィとアランドラはそんな合図もなしに状況を見ながらスムーズに息の合った操縦をしているけれど、付け焼き刃の2人にはそんなのは流石にまねをすることが出来ない。
苦肉の策として編み出したのがこの『スイッチ』パーティーを組んで狩りをしていたという元ハンター、現同盟軍の兵士をしている男から聞いたアドバイスを元に2人なりに考えた結果だった。
当初は腕にボウガンをくくりつけ、そのまま大剣を振り回していたのだけれども、ボウガンが邪魔でしかたがなく、射る時は射るときで大剣の置き場に困ったりと、なかなかに苦労をしていた。
そこでリックに相談をしてみたところ、
『じゃあくっつけちまえば良いじゃねえか。強度は落ちるがな』
と、あっさりと変形する変態武器をこしらえてしまった。
クロスボウへの変形機構を実装したうえで強度を維持しようとした結果、通常の物よりも大分重量があり、分厚い……およそ切れ味とは無縁の撲殺系ソードになってしまった。
それでもラムレットは力任せにそれを振り、勢いだけで首を切り飛ばしてしまうのだから恐ろしい。
そしてクロスボウもまた、通常のものよりだいぶ大型になってしまった。
しかし、その分高威力のボルトが使用可能となり、これはこれでフィオラを喜ばせることとなった。
欠点としては慣れない大型のクロスボウを使うこととなるため、通常ならば3発は確実に連続で当てられるフィオラであっても2発が限度となり、スイッチが間に合わない場合に使う装備も考えることとなってしまった。
「結局まだこいつの出番にはならんかったなあ」
「練習はしておきたいけど、よほど不味いときじゃないと使う機会はないからね。逆に言えばそれでいいんだよ」
未だ魔獣に火を吹かぬ左腕につけられた新装備、それはまだ静かに使われるときを待っていた……なんちゃって。
基地に来てからもう2週間が経つ。あれから変わったことと言えばやっぱりフィオラとラムレット。特訓を繰り返しているうちに二人の距離が縮まって……って変な意味じゃなくてね。
友達から『仲間』になった感じがする。一番大きなきっかけはやっぱり『スイッチ』の掛け声だろうね。声がけをする際、相手の名前を言う様に決めたのはどっちだったか。
そのきっかけは忘れたけれど、別に2人しか居ないのだから名前を呼ばなくてもいいのでは? と思ったけど、なんというか気分の問題らしい。
そして掛け声の際にいちいち「ラムレットさん」なんて言うのはまどろっこしいってことで、「さん」を抜いて呼び捨てに。
気づけば日常的に『フィオラ』『ラムレット』と呼びあうようになっていて、何だかそれからぐんと仲良しさんになった気がするよ。
そして私にも若干の変化があった……というか、後からジワジワとそう言えばと感じたことがあった。
二人が戦闘中、動きを考察しているときの思考、その際二人に飛ばす指示。
どうも稀に男っぽい口調になっているようだ。
これはおそらくジワリジワリとかつてのカイザーが顔を出しているのではなかろうか。
ルゥがルゥじゃなくなるのは寂しい、なんてフィオラは言っていたけれど、こればかりは私にもどうしようもないし、その時が訪れたらどうなるのか皆目見当もつかない。
ともあれ、私達ブレイブシャインサブメンバーはやれることをやりきった。そう、今日を持って訓練が終わり、いよいよカイザー奪還作戦に突入するのだ。
自分の身体を取り戻しに行く、それに関しては……まだいまいち実感が持てない。
でも、スミレやレニーの足取りを探れる、あわよくば彼女達と再会できるかも知れない。
未だ2人の記憶は曖昧な物しか無いけれど、やっぱり私は心の何処かで2人との再会を渇望している。
――2人と再会できるかもしれない
そう考えるだけでこんなにも気分が昂ぶっていく。
『ルゥ君、フィオラ君とラムレット君を連れて上まで来てくれ。作戦会議といこうじゃないか』
狙いすましたかのようにアズベルトからの通信が入る。
時は来た。さあ、行こうか。
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