第二百九十一話 ラムレットの戦法

 今日は互いの動きを知るため、ソロで狩りを行い、それぞれパートナーの戦術を観察して間合いやスタンスを学ぶ訓練をしている。


 フィオラが見事な動きでブレストウルフ2体を仕留めたため、ラムレットも大張り切りで獲物の反応を今か今かと待ち構えている……んだけど、今の所反応が無い。


 そこまで深く森に入っていないのも有るけど、狩りたい時に限って遭遇しないもんだよねえ。


 現在私のレーダーは精密性を上げるため500m四方に制限されている。これでもかなり広い範囲を探査出来ているはずなんだけど、あれから30分程移動してもまだ反応が無い。


 最悪明日に持ち越しかなあ……なんて思ってたら魔獣の反応1。帰ろうとした時に限って現れるってやつだね。


「ラムレット、13時の方向に反応1。対象はまだわからないけど距離はギリギリ500mで、まだコチラに気付いていない」


『きたきたきたあ! ようし、気付いてないなら好都合! コチラから行かせてもらうぜ。てわけで、アタイは先行するからフィオラ達は20mほど距離を取ってついてきてくれ』


「りょうかーい」


 ウキウキとした足取りで森に分け入っていくラムレット。フィオラと同じ機体、エードラムに乗っているはずなんだけれど、彼女が乗るとノシノシとなんだか力強く見える。


 装備しているのが大型の大剣なのもあるんだろうけど、それでも別機体にのっているかのようだ。


『ふふんふふふん♪ ふんふふんふーん♪』


 よほど嬉しいのか、鼻歌交じりでノッシノシとどんどん歩いていく。あまり油断はして欲しくはないけど、既に訓練は始まっているので私からはあんまりアドバイスはしない。


 っと、対象まで200mだ。ここまでくれば反応からデータベースの情報を引き出せる。ん……これは……。


「ラムレット、対象はヒッグ・ホッグだ。ブレストウルフじゃあないけど、ある意味ラムレット向けの獲物だね。がんばってー」


『まじか! ふふん、大剣装備で来た甲斐があったよ。んじゃ、しっかりみててくれよなー!』


 重たい大剣を担いでいるはずなのに、何処か足取り軽く反応に向かって歩いていく。対象まで100mの距離で私達は止まり、ラムレットに後を任せることにした。


 と、フィオラが木を登り始める。


「せっかくだから上から見てみようと思ってね。ほら、丁度開けてるしここからならよく見えるよ!」


 ヒッグ・ホッグが居たのは湧き水が染み出してちょっとした湿地になっているところだった。ああ、なるほどヌタ場かあ。


 イノシシが泥浴びをする場所を『ヌタ場』と呼ぶけれど、ヒッグ・ホッグにも同様の習性がある。イノシシの場合は寄生虫を落とすためとか言われてた気がするけど、ヒッグ・ホッグの場合は身体の冷却をするためと言われてるね。


 ヒッグ・ギッガ程体内に熱を溜め込まないみたいだけれども、それでもこうしてヌタ場でごろごろするのは好きなようだ。


 とは言え、小屋のような巨体がゴロゴロしてるのだから人からすれば可愛いでは済まない。こんなのが基地に突撃してきたもんなら酷い被害が出るため、申し訳ないけれど駆除対象なのです。


 フィオラは既に対象から30m程の距離まで移動している。そこまで行けば流石に相手もゴロゴロしているわけにはいかず、立ち上がって頭を下げ、臨戦態勢に入っている。


 右手で剣を持ち、左手はその刃に当てる防御の構えを取ったフィオラがジリジリと距離を詰める。対象まで20m程度まで詰めた後はゆっくりと横移動をしてスキを伺う……いや、あれは誘っているのか。


 おちょくるように左に右に動いていたラムレットだったが、ヒッグ・ホッグが前足で土を掻き始めたのを見て歩みを止め、腰を低く落とした。


 ヒッグ・ホッグがより深く頭を下げたと思ったら……後ろ足で地を蹴ったのか、泥混じりの水しぶきが後方に激しく飛び、巨大な弾丸が飛ぶかのように凄まじい勢いでラムレットに迫る。


 ラムレットは避けようともせず、剣を構え……そして……


 激しい金属音と共に砂埃が上がる。


『はっはー! これが生身だったら手がビリビリして酷かったろうが、あいにく機械の体にゃそんなの無関係でね! じゃ、行くぜ!?』


 嬉しそうなラムレットの声が通信機から聞こえてくる。大木を軽々と貫くとも言われるヒッグ・ホッグの攻撃を真正面から受け止めてしまった。


 恐らくラムレット機の各種センサーが悲鳴を上げてるんじゃないかと思うんだけど、彼女は平気な顔で嬉しそうにしている……タンク脳なのはいいけれど、機体がそれに追いついていないと不味いぞー。


 しかし、私の心配は杞憂に終わる。


 頭突きをしたことで何処かに不調が現れたのか、ヒッグ・ホッグは次の攻撃移らずフラフラとしていて、そこをラムレットに狙われてしまった。


『そらあ!』


 剣……ではなく、膝が出た。剣で頭を受け止める形になっていたけれど、後ろに流して踏ん張っていた左膝をそのままヒッグ・ホッグの顎に叩き込む。


 流石に重たいヒッグ・ホッグはそれで吹き飛ぶことはなかったけれど、よろりと後ろに距離を取る。しかし、それが終わりの始まりだった。


 そのスキに剣を上段に構え直していたラムレットは力任せにそれを頭に叩き込む。それでもまだ足りないぜ、とばかりに続けて横薙ぎの一撃を腹部に当てる。


 さすがのヒッグ・ホッグもこれはには堪らず横たわり腹を見せてしまった。


『へへ、すまねえな! 晩飯のおかず……は流石に無理だけど、素材はありがたく使わせてもらうよ! じゃあな!』


 独り言のようにヒッグ・ホッグへの別れを告げると、露出している動力パイプにザックリと刃を入れ、それをとどめとした。


 ヒッグ・ホッグはヌタ場で排熱行動をすることから分かる通り、体内に熱を蓄えやすい体質だ。そのため、動力パイプが体外に露出していて、動力源であるエーテリンを露出したパイプを通し、外気で冷やしながら体内を循環させている。


 もちろん、それはそのまま弱点となるため、腹部にそれを隠しているけれど引っ繰り返してしまえば狙われ放題というわけだ。


「凄い凄い! まさかヒッグ・ホッグの攻撃を受け止めるなんて! ラムレットなら生身でイノシシを受け止めちゃうんじゃないの」


 褒めているようでなにげに酷いことを言うフィオラ。流石にそれは失礼じゃないか……?


『はっはー。よくわかったなフィオラ。アレはあたいが昔やってた狩りそのものさ。

 機兵を買う前はイノシシがいい稼ぎだったからね。元々大剣使いだったからお手のもんさ』


 なんてこった……そこまでガチな人だったとは……。


 少々予想外ではあったけど、これでお互いの動きがわかった……かな?

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