第二百九十話 基礎訓練

 互いのスタンスを理解しよう! そのアドバイスを私から受けた2人は近接の時はフィオラが、射撃の時はラムレットがそれぞれ上半身を担当するようコンソールからイメージを送り込むようになった。


 とは言え、自分が得意とする間合いに入ってしまえば自ら攻撃したくてむずむずとするわけで、最初のうちはイメージが混線し、シュトラールの動きはそれはそれはひどいものになっていた。


 それでもなんとかしようと頑張る2人に私はもう一つのアドバイスをした。


「えー? 狩りに行くの? この機体で? 今の私達にはまだ無理だよー!」

「そうだよ! ルゥ、勘弁してくれよ、いくら何でも無謀すぎる!」 


「違う違う。エードラムを借りていくの。今日はまず普通に狩りをしてもらうけど、動くのはひとりずつね。交代で狩りをして互いの動きを良く観察してもらいたいんだ。

 連携することはあっても相棒の動きって案外みてないでしょ? 今日はまずそれをやってもらうのさ」


「言われてみればそうなんだけど……まあいいや、じゃあ憂さ晴らしに一狩りいくかー!」

「そうだね、じつはアタイ、結構鬱憤がたまってたんだ! いい気分転換になりそうだね!」

  

「勿論、明らかにヤバい獲物と鉢合わせちゃった時は普通に連携して戦っていいからね。じゃ、安全第一で行こう」


 やってきたのは基地の周囲に広がる王家の森。基地周辺だからといって完全に安全地帯というわけではなく、しっかりと魔獣達は生息している。


 そう、これは訓練ではあるけれど、駆除活動という立派なお仕事なのです。


 周辺に生息しているのはブレストウルフにキランビ、稀にタンククローラーやヒッグ・ホッグも出るらしい。今回はその中でも一番脅威度が高いブレストウルフを狙う。


 練習用の魔獣とも言われるブレストウルフだけれども、それはあくまで機兵乗りのお話。生身の人々が多く暮らす基地で暴れられたらひどいことになります。


 討伐リストにおいて、居住区に対する脅威度が高く設定されている理由は生息数が多いためだ。

 年に2度、1度に4~8匹の子を生むブレストウルフはコツコツと狩って間引きをしていかないと、あっという間に大きな群れを構築して面倒な事になるのである。


「ん、前方に反応2、じゃあまずはフィオラから行くよ。ラムレットは後ろで待機、もしものときは声を掛けるからお願いね」


『わかったよ。じゃ、フィオラ。じっくりと見させてもらうよ!』


「なんだか恥ずかしいな……うし! いきます!」


 私の索敵能力のお蔭で目視が出来ないうちから敵影を把握することが出来る。

 このエードラムにも一応レーダーのようなものは積まれているんだけど、まだ開発中だとかでその範囲はあまり広くはない。


 なので私の索敵能力が火を噴くわけで、フィオラの様に遠距離攻撃をするパイロットにはこれ以上にない武器になる。


 フィオラが使う武器は弓と長銃。ただし、弓のほうが使い慣れているとのことで、今回はそちらを持ってきている。


 弓といっても狩人が使うようなそれでは無く、いわゆるクロスボウと呼ばれるものだ。

 機兵の視点で見ても、かなり大きなそれに対応するボルトも太く頑丈で、これならば魔獣相手でも立派にやり合うことが出来るだろうなと思う。


 フィオラはそれを両手で構えつつ、こちらに気づきゆっくりと距離をつめるブレストウルフに備える。いくらこちらから位置がわかるとはいっても木や草に覆われた森の中では素直に撃つことは出来ない。


 ただじっと、その場で機会をうかがう。


 フィオラが待機している位置、ラムレットにはその意味に気づいて欲しい。レーダーがあるので不要といえば不要なのだが、生身のクセからフィオラは大木を背にクロスボウを構えている。


 これは守りが薄くなってしまう背後から急襲されることを防ぐためだね。


 そしてフィオラの癖として、必ず左右どちらかに退路を確保するというのがある。

 フィオラは射程距離から一度に平均して3射することが出来るが、それでも仕留めきれなかった場合、反撃を防ぐために距離をとって再攻撃の機会をうかがう必要があるからだ。


 近接攻撃を得意としないフィオラにとって、近い間合いに入られる事はどうしても避けたい、なので退路の確保はフィオラとして外せないものなのである。


 やがて2匹のうち、1匹が藪から姿を現す。魔獣は種類によって食べるものは違うけど、たいていは草木や土、鉱物に水、そして他の魔獣を食べ、エネルギーや身体を構成するパーツの糧としている。


 なので、動物や人間を捕食対象として見ることは無いけれど、それでも縄張りを荒らす外敵として駆除に現れたり、内包する魔力に引かれ、いたずらに喰い散らかされるという被害はよくあることだ。


 そして現在のフィオラと言えば、魔獣からすればご馳走である金属などの素材で構成された機兵に乗り込んでいる。

 

 全身に生肉をぶら下げて猛獣達がうろつく森に降り立ったも同然の状況であるため、フィオラと対峙しているブレストウルフはペロリと舌なめずりをし、何処から食べてやろうかと様子を伺っていた。


「その油断が命取りなんだよねえ」


 何処か嬉しそうに独り言を言うと、フィオラはクロスボウの引き金を引いた。

 キィンと、高い風切音と共に空を斬り裂くボルトは、見事ブレストウルフの頭部に吸い込まれ、貫いていった。


 ブレストウルフの弱点は頭部と身体についている燃料タンク。一番簡単なのは大きく目立つようについている燃料タンクの破壊なんだけど、それを壊しちゃうと炎上してしまって素材が台無しになっちゃう。


 何より、森の木々に火が着いて山火事になることもあるため、初心者講習では森のなかでは特に気をつけるよう指導されるのだ。


 舌なめずりをしたまま、あっさりと片付けられたブレストウルフは、そのままどさりと身体を横たえる。それを見て怒ったのかどうかはわからないけれど、後続していたもう一体が地を蹴り一気に距離を詰めてくる。


「そうそう、君はそうするしか無いよねえ。でも私はもう準備おっけーなんだよ」


 またしても淡々と、それでいて嬉しそうにつぶやくと、フィオラはクロスボウを構え……放たない、放たない……まだ放たない。


 もう少しで敵の射程内だぞ、そう思った瞬間ブレストウルフが跳躍する。低めに跳び、そのままフィオラに組み付こう、そういう考えか?


 ブレストウルフは一度地に脚を着き、再度跳んで牙を剥こうとした……が、それは叶わなかった。


 ブレストウルフの動きに合わせるようにバックステップで距離をとったフィオラは着地すると同時にボルトを放っていた。


 一見、ただデタラメに放った様に見えたそのボルトは今回もまた、ブレストウルフの頭部を貫いた。


 見方によってはボルトに頭が吸い寄せられるようにあたったようにも感じられる。しかし、これはフィオラが狙ってやったことである。


「この子達動きが単純なんだもん。次来る場所に撃ったら外れるわけないよね。まあ、その分ちょっと怖い思いするけどさ」


 なんてこと無いというように言うフィオラ。


 仲間と一緒に後衛として動くときであれば、その位置を守り決して前に出ることはない。しかし、ソロの場合や、特殊な条件下においては今のように前衛のように近い距離で敵と戦うことも有る。


『やるじゃんフィオラ! なんだよなんだよ! 遠距離・中距離とスキがねーじゃん。かー!こりゃ前衛のアタイの立つ瀬がないねえ』


「ふふ、ありがとう。でもブレストウルフが相手だからこそだよ。これでヒッグ・ホッグなんかが相手となったら一撃じゃ沈まないこともあるしさ、やっぱり重い武器を振る前衛さんは大事だよ」


「そうそう。役割分担はとっても大事さ。という事でラムレット、次は君の番だ。気をつけてね」


「おうよ! じっくりとみてくれよな!」


 さあ、今度はラムレットの番か……とは言っても、獲物を探すところから始めないとな。


 さてさて、ラムレットはソロでどんな動きをみせてくれるかな。

 

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