第二百八十七話 新型機

 私の身体がルナーサに囚われている。

 そしてそれは地下基地に封じられていて、ご丁寧な事にしっかりと結界魔術で護りを固められていて近づくことが出来ないらしい。


 奪還のためには結界に使われている魔導具を破壊し、内部へと侵入する必要がある。

 ……けど、このミッションにはカイザーやレニー、スミレが欠けたブレイブシャインでは文字通り役者が不足している。


 ではどうすれば?


 ……というわけなのかなんなのか、ミッション成功に向けてフィオラとラムレットに白羽の矢がたちまして。


 二人はブレイブシャインのサブメンバーとして、カイザーの穴を埋めるパイロットとして私と共に作戦に参加することになったんだけど……。


 フィオラは機兵に関しては素人同然。いくらなんでも即時作戦開始とはなるわけもなく。

 ラムレットと共に機兵の訓練を受けた後、作戦開始ということになったのです。


 無論それについては私も、フィオラやラムレットも納得し


『基本は学んだけどそれ以上の事はこれからだからね、助かります!』  

『我流でやってきたから人から教われるのはありがたい』


 と、かなり乗り気で訓練に出ることに喜びの声を上げていたんだけど、それも訓練に使う機体、いや、そのまま実戦で使われることになる機体をその目で見た瞬間戸惑いに変わってた。


「な……なんだいこれは?」

「ええと……大きい……ね?」


 この基地に訪れてから余計に姿を見るようになり、既に見慣れた機体であるエードラム達と比べ、一回りは大きな機体。カイザーをモチーフにしたらしいその機体は白を主体として所々に金色が差し込まれていて何処か神々しい印象を受ける。


 ウロボロスやオルトロスと同じくらいか、下手をしたらそれよりも大きいその機体は私達をとても驚かせてくれた。


 そしてさらに驚く事があった。


「えっと、これは私とラムレットさん、どっちが乗る機体なんですか? 1機しかないみたいですけど?」


 フィオラの質問に答えてくれたのはマシューだ。


「何いってんだ? 眼の前に1機以上見えてるんなら医者に見てもらいな。目の医者だぞ?

 はは、まあそう思うのもしょうがねえか。この機体【シュトラール】に乗るのはお前ら二人だよ」


「「2人で?」」


 シュトラール……随分と帝国風の名前だけれども、一体どういう意味なんだろう? と言うかなんで帝国風?


 と、思っていたら直ぐにその答えが出た。


「というわけで、この新型、特殊機体のシュトラールの操縦についてはこいつらが教官となる」


 呼ばれて出てきたのは色違いのシュトラール。海のように深い藍色の機体から2人のパイロットが降りてきた。


「……ちゃんとついてこれんだろうな」

「こら! アラン! もっと優しくしなさい!」


 不機嫌そうな顔をした男性と、 お姉さん感がすごい女性の2人がシュトラールから降り立ち、私達のまえにやってきた。


「私はリリイ・モイアよ。アランのパートナーで……これは後から誤解されないように先に言っておくわね、私達は元帝国の者よ」


「……チッ。そんな顔されるからホントはいいたかねえんだよな……。

 俺はアランドラ・ヴェルン。ああ、そうだ。俺達は帝国の黒騎士……だった。

 どうやら捨てられたみてえだけどな」


 帝国の……黒騎士? これはデータとして残っている。

 言うなれば帝国軍のエリート、そんな彼らが何故ここに……いや、何故協力しているんだろう?


 困惑する私達を見てリリイが気を回してくれたのか、訓練を始める前にザックリとした事情を説明してくれた。


 あの日、ブレイブシャインが敗北したあの日。


 リリイ達は黒騎士として戦場に立ち、私達連合軍と対峙していたのだという。

 そこで起きたのがアランドラの暴走。突然禍々しいモヤに包まれたアランドラ機は作戦には無かった行動、ブレイブシャインへの強襲に出る。


 暴走したアラン機は敵味方関係なく攻撃を加え、宿敵であるカイザーのもとへ向かう。

 しかし、正気を失ったアランに勝てる相手ではなく、敗北後、コクピットから出されたアランはリリイによって鎮静剤を打たれ……連合軍に身柄を確保された。


 その後の報告でアラン機には黒龍の卵……と呼ばれる魔石が動力炉として積み込まれていたことが明らかになった。


 それは魔力が少ないアランを補うため、魔力タンクとして複座式の機体にアランと共に乗り込んでいたリリィの代わりというのが表向きの理由だった。


 しかし、それはアランを暴走させ、溢れ出る魔力や生命エネルギーを黒龍の糧とする謂わばアランを使い捨ての餌にする道具でしか無かった。


 利用されていた――敵地で目覚め、それを知ったアランは帝国への強い恨みを感じた。

 宿敵でありライバルであるカイザーとの戦いを穢された恨み、仲間であるリリイ諸共生贄のような扱いをした恨み。


 そしてアズベルトから黒騎士のパイロットという経験を買われ、身柄をこの基地にに移された。


 無論、あくまでも帝国軍の捕虜という扱いは変わらないため、逃亡しても追跡が出来るように特殊な魔術を込められた腕輪が枷のように片手にはめられているらしい。


「なんというか私達も複雑な気持ちでは有るのよ……因縁があるブレイブシャインと協力するわけだからね」


「おい、お前カイザーの中身なんだろ? さっさとパイロットと身体取り戻して来やがれ! 俺との決着はまだついてねえんだからよ!」


「はいはい、あんたはそればかりなんだから。そんなわけで貴方達にはこの特殊な二人乗りの機体を使ってもらうことになるわ。通常の機体より出力が高い分、消費魔力量が多くなる。だから二人で補おうっていう無茶な思想なんだけど……案外悪くないわよ?」


 複座型の機体はこの2人から連合軍への信頼の証としてもたらされた手土産、帝国軍の技術を元にして作られた機体みたい。なるほど、だから帝国式の名前なのね。


「えっと、リリイだっけ。よかったらこの機体の名前の意味を教えてくれないかな? これって帝国式の名前だよね。君達がつけたんだろう?」


 私がそう言うと、良くわかったなとアランドラが驚いたような顔を向ける。私も何でわかったかわからないんだけど、覚えていないだけで元の私にはそういう知識があったんだろうさ。


「これは私じゃなくてアランがつけたんだけどね……ふふ……」

「おいこら! リリイ! いらねえことは言うなよ!」


「シュトラールの意味は【光の矢】ブレイブシャイン【勇敢な輝】から放たれる矢となれという意味が……ちょ、ちょっとやめてよ痛いじゃないの!」


 アランがリリイの肩を叩き説明を止める。その顔は耳まで真っ赤になっている……。

 記憶にないけど、この男……こんな性格だったのか……。


 ツンツンしてやたらと攻撃的で、しかも宿敵でライバルと来たからどんな奴か警戒してたけど……実は案外素直でかわいいやつなんじゃないかコイツ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る