第二百八十八話 シュトラールとは

 元シュヴァルツヴァルト帝国『黒騎士』所属のリリイとアランドラの2名がフィオラ達の教官としてつくことになった。


 元帝国軍、しかも黒騎士だということで流石にラムレットは警戒をしていたけれど、なんやかんや暫く話しているうちにアランドラのポンコツ性に気づき、ゆっくりとではあるが打ち解けてきている。


 私は記憶が無いのではじめからフーンとしか思わなかったし、フィオラに至っては教官よりも機兵に興味が移っているため結果的にギスギスするようなことにはならなかった。


 しかし、二人が乗り込む機体『シュトラール』は一筋縄ではいかない。

 特殊過ぎる機体でフィオラとラムレットは暫くの間まともに歩かせることすらできなかったのです。


 このシュトラールの元となった機体は帝国軍の特殊機体『シュヴァルツ弐型』

 アランドラが内包する魔力量の低さを補うべく作られた複座式の機体で、もうひとりのパイロットはリリイ。


 元々通信士として所属していたリリイはナビ兼、魔力タンク及びアランドラの監視役おもりとしてサブパイロットに採用されたんだって。


『アランは腕だけはいいのよ。でもね、あの性格でしょ? 作戦を無視することが多くてね……。

 それでおもりを兼ねて、魔力量だけはやたら有る私がサブパイロット……まあ魔石の代わりよね。そんな感じで乗せられてたの』


 自虐的に『魔石代わり』と言っていたけれど、それでも何処か楽しそうに当時の事を教えてくれた。

 結局、大容量の魔石を積込むことでアランドラの魔力問題を強引に解決したのがルナーサ戦で使われた機体だったんだけど……その魔石こそが黒龍の卵。やっぱりそう都合が良く大容量の魔石というものは無いようだね。


 そんな経験からアランドラの長時間運用を可能とするため提案されたのが以前乗っていた『シュヴァルツ弐型』の仕様だった。


 サブコクピット側から魔力を吸い上げ、メインコクピットで操縦をするシンプルな仕組みではあったけれど、その仕様をみてそのまま『よし造ろう』と首を縦に振らない頑固爺が二人。


 ジンとリックはその仕様を鼻で笑って否定した。


「帝国さんがどんだけお高い思想で組んでたのかはしらねえがよ、人様は魔石じゃねえんだ」


「おうよリック話がわかるじゃねえか。そうだぞ、足りねえなら仲間で補え、そりゃわかる。だが一方的じゃダメなのよ」


「いいぞジン、そのとおりだ。片方が2で片方が8なら2人で10になりゃいいってことだろ?」


「おうともリック。あん? なんだアランの小僧てめえ『シュヴァルツ弐型と同じじゃねえか』だと? 何処に目がついてんだ! おう、リック言ってやれ言ってやれ!」


「一人から魔力を吸い上げんじゃねえ。二人から魔力を吸い上げ同調し、二人で一人として機兵を動かすんだよ。わかったかこの青瓢箪め!」


 なんて、リリイは笑いながら二人に怒られるアランドラの話をしていたよ。ただ、アランドラの気持ちもわかる。あの2人の話は私も聞いたけど、説明がいい加減というか、感覚的過ぎて、相手にきちんと伝えようっていう努力が微塵も感じられないんだ。


 二人が言ってることをまとめると……。


 シュヴァルツ弐型はサブパイロットの座席に置かれた『魔力注入具』から内部の魔石にサブパイロットの魔力を注ぎ込み稼働する。

 その間、メインパイロットからの魔力供給は絶たれるが、サブパイロットの魔力が枯渇した瞬間メインパイロットの操縦桿から魔石に魔力が流れ込むようになる。2人の魔力が枯渇してはじめて機能停止する。


 基本的にサブパイロットは魔石と同様の扱いをする、それがシュバルツ弐型。


 それに対してシュトラールはと言えば……。


 コクピットは2つ有るが、サブとメインという扱いはない。球を半分に切ったような『操縦桿コンソール』がコクピット前方に2つずつついていて、パイロットはそこにそれぞれ手を置いて『動きを想像する』事により、機体を動かす仕組みになっている。


 これはエードラムから実装された仕組みで、元となったのはカイザーやオルトロス達の操縦方法だ。

 

 従来は乗り物を動かすような感覚で、操縦桿やペダルを操作して機兵を動かしていたが、より直感的に動かすため、新たに設計されたんだそうな。


 問題はパイロットが2人というところ。


 乗り込んだパイロットはそれぞれのコクピットに据え付けられたコンソールから魔力を流し込み、機体に動力を与え起動させる。この際、機体はパイロットを2人ではなく1人として認識し、2人で1人のパイロットから流れ込む情報を元に動作をする。


 流石に2人で全身を全て動かすことは難しい。


 例えば、リックは『右に行きたい』ジンは『左に行きたい』同時にそんな事を考えてしまった場合、機体は妙な姿勢を取り動かなくなってしまう。


 なので、通常はリックが移動、ジンが攻撃と言う具合に操作を分担する。つまり下半身と上半身で意識を分けて操縦するというわけだ。


 しかしこれはこれで難しい話であり、そう単純にうまくいくようなものではない。


 ならば何故こんな面倒な仕様にしたかと言えば、先に言った通りエンジニアの矜持である。


『帝国さんの思想はわからんでもねえが、やっぱり人を動力として考えるのは良くねえ』


 そしてなにより、この仕組と似たようなことをカイザーがやっていたらしいのだ。


『ルゥ、おめえさんは忘れてるんだろうけどよ、カイザーは他の機体と合体して動いてたんだよ。基本的にはレニーがメインパイロットを務め、他のメンバーは出力制御に回ってたらしいんだがな、場合によっては動作を分担するってこともやってたらしいんだよ。つまり、やってできねえことはねえってわけだ』


 なんとも強引な話だと思ったけど、やってできないことがない、前例が有る、しかもそれが自分なのだと言われてしまえばどうしようもない。


 リリイやアランドラも同じように無茶苦茶な事を言われ、強引にこの仕様に決まったとのことだった。


「でもね、案外悪くないのよこれ。今日は私が上でアランが下……とか考えると楽しいでしょ?」


 何やら思わせぶりな顔でウインクをしてくるリリイ。ちょっとそれフィオラの前で言ったら怒るからね?


 そんなわけで、先日から変態設計のシュトラールに乗り込み訓練をしているフィオラとラムレットなんだけど……。


「おいいいいい! フィオラぁ! もう少し踏み込んでくれないと斬り込めないだろう?」

「ええええ? そんな前に入ったらスキを見せちゃうだけでしょー?」


 前衛であるラムレットと後衛であるフィオラ。2人のスタンスがまるで水と油のように反発し、未だに上手く動かせないでいた。



 ううん、これはなにか考える必要があるぞ。

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