第二百八十六話 奪還の芽
アズベルトの話は衝撃的な内容だった。
ルナーサ侵攻の下りもそうだけど、なによりなにより、私の身体、本体がルナーサに?
これはミシェルも知らなかったみたいでびっくりしてたよ。
『黙っていたようですまない。確証がない情報だったし、何より言えば君達は直ぐにでもルナーサに向かっていった事だろうからね。信頼できる情報が集まるまで僕のところで止めておいたんだ』
アズベルトはそう言って私達に頭を下げ、謝罪をした。
事の発端は3ヶ月前。
ルナーサに何人か残してきた『関係者』のうち、最後まで連絡がつかなかった人が漸く基地までたどり着いたんだって。
その際伝えられたのがカイザー……つまりは私の身体に関する情報。
帝国軍の侵攻から1週間程度経った頃、アズベルト邸が帝国軍のルナーサ基地として接収されたそうだ。
これまで帝国軍はその様な動きを見せず、大人しめにしていたものだから、突然の事に『関係者』はびっくりしたらしい。
とは言っても、アズベルトさんは使用人や職員達を家族ごとそっくり基地に連れてきていたから家はもぬけの殻。
だから接収というのは名目上で、実際は勝手に住み着いたと言ったほうがしっくり来る感じみたい。
接収されたと聞いて目を吊り上げたミシェルも『あれじゃ勝手に住み着いた野良猫ですよって言ってたよ』とアズベルトから言われ、何かツボに入ったのか後ろを向いて俯いて身体を震わせていた。
暫く屋敷で何かをやっていたらしいんだけど、それもやがて終わり。
ある日、野良猫のボス……そう、
その人物は屋敷に何か大きな物を運び込んでいて、『関係者』の人はどうにか中を確認しようと頑張ったみたいなんだけど、迂闊に近寄ることも出来ずその場は『機兵と思われる物を運んでいた』という情報しかつかめなかった。
それでも時間をかけ、周辺の情報を探るべく動いていた『関係者』は
『その時点で僕はカイザーの身体だろうと推測したんだ。
戦地にはカイザー以外にもエードラムと言う帝国軍が興味を示す機体があった。
けれど、わざわざ
でもそこではまだミシェル達には伝えなかった。
万が一ということがあったからだ。
『カイザーがルナーサに居るらしいという情報を敢えて流し、ブレイブシャインをおびき寄せるのかもしれない、そう考えたんだ。
実際、ルナーサに居るのが本当にカイザーだとしてもその可能性は捨てきれない。でもどうせおびき寄せられるのであれば、本物が居たほうが嬉しいじゃないか』
仮に罠だとしても、本物が居る、私の本体がちゃんとあるのであれば奪取のチャンスはある。
そこでアズベルトは情報の信用度を上げるべく、追加の調査を依頼した。
『幸いなことにここには優秀なカゲが居るからね』
アズベルトはリーンバイルから借り受けている影、諜報部隊を使いルナーサに探りを入れてもらった。
『カゲの皆さんにお願いをしてね、"現地の協力者"にお仕事を依頼してもらったんだよ』
『草……ですな』
シグレから補足の説明が入った。草とは影とはまた違う形で諜報活動をする部隊で、もう完全に現地の民として代々住み込むタイプの人たちのことを言うらしい。
帝国にも長きに渡って住み続けている『草』の一族が居て、リーンバイルの影はルナーサで草に接触。アズベルト邸に運び込まれた『荷物』についての情報収集を依頼した。
影でもそれは不可能ではないし、アズベルトが雇っている『関係者』でもある程度は出来るらしいんだけど、奥の奥に隠れた情報をかっちりと掻き出すのは『職場』に深く根を張り細部まで探ることが出来る『草』にしか出来ない仕事。
そして『草』はルナーサで情報を探り……確定情報、つまりは『カイザー』が運び込まれていると言う情報を得て影に託した。
『ただ、喜んでばかりはいられない。確かにカイザーはルナーサにあった。しかも皮肉なことに地下大空洞に置かれているんだ』
アズベルトが基地を置き、多数の機兵を研究していた場所に私の身体があるらしい。たしかにそれは皮肉なことだ……。
『ならば秘密の抜け穴を使えば楽に奪取出来る、そう考えたんだけど、どうやらそうも行かないようだ』
アズベルトが「喜んでばかりはいられない」そういった理由はなんとも反応し難いものだった。
『僕の家を取り囲むように結界魔術が使用されていて、特殊な魔導具を持たないものは中に立ち入ることが出来ないらしいんだ』
その結界魔術というのは凄まじいもので、発動させるキーとなる魔導具を用意して、対象を取り囲むように配置。術を発動後、それは万物を通さぬ絶対防壁となる。
それは立体的に展開するため、上空や地下に渡っても広範囲で効果が発動している。
なので抜け道を使ってこっそり地下から入る事も出来ないだろうとのことだ。
『くやしいな……。カイザーがそこに居るってわかったのに近づけないなんて!』
マシューはそう言って悔しがっていたし、
『結界術の要となる魔導具を叩き壊して攻め入れば良いのではなくて?』
ミシェルは過激な提案をしていた。けれど、アズベルトはそれを許さなかった。
ただ……
『現状の君達を行かせることは出来ない。君達ブレイブシャインは要となるカイザーが欠けている不完全な状態だからね……ただし、不完全ならばそれを補うパーツを用意してしまえばいい』
アズベルトは私達――フィオラとラムレットに顔を向けて頭を下げた。
『君達に頼みが有る。カイザー……ややこしいからルゥと呼ぼうか。ルゥと共に機兵に乗り、ブレイブシャインのサブメンバーとしてカイザーの奪還作戦に参加してもらえないだろうか』
『私達が……?』
『ブレイブシャインと……?』
そして私達はブレイブシャインのサブメンバーとして参戦することになった。
他に腕が良いパイロットも数多く居るだろうに何故私達なのか? そんな疑問はあったが、フィオラとラムレットが『やります!』と、気合十分に即答してしまったからね……。
勿論、その答えに不満はない。なんたって自分の事だし、スミレという存在のことも有る。私がやらずに誰がやるのか!
フィオラやラムレットも私同様、闘志を燃やし、作戦参加の決意を固めて張り切っていた……んだけど……。
それから一週間たった今、"パイロット"2人の心は折れそうになっていた。
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