第二百八十五話 報告
アズベルトが語る話、私達ブレイブシャインが戦地でバラバラに姿を消したと言われているあの日以降の話は驚くべきものだった。
もし私が記憶を失わず、以前のカイザーのままであったとしてもきっとそれは変わらず、ただただため息を付くことしかできなかっただろうな。
◆アズベルト◆
『帝国軍の援軍がルナーサ領に向かい移動している』
その報告には驚いたけど、予想というか、覚悟していた事だった。
あの日、君達が消えた日の報告は混沌としていてね。
君達ブレイブシャインが帝国の最新機を倒し勝利をしたという報告が先に届いた……けれど、それから間もなくして君達が敗北し、バラバラに吹き飛んでいったという情報も入ってきていた。
どちらの報告も嘘やデタラメではないことは分かっていたから混乱したよ。
だから僕は思ったんだ。
『確かにカイザーは敵の総大将を撃退し、帝国軍を退けた。しかし、間もなくして新たな脅威が現れ反撃を喰らい、戦地から消えることになった』
その脅威は勿論、帝国軍以外に存在しないだろう。
帝国から見て最大の障害であるカイザーが倒されたとなれば、疲弊した帝国軍とは言え士気は大幅に向上する。
そして、その障害が無くなったと報告を受ければ援軍を差し向けてくるだろう。
残念ながら、予想していた通り最悪の展開を迎えてしまったわけだ。
こちらにとって幸いだったのは報告が速かったということ。
それはウロボロスのおかげだね。
超長距離通信はできなくなっていたけれど、中継拠点をいくつか経由しての通信は幸いなことに可能だった。なので、敵部隊に動きは細やかにこちらに伝えられていたんだ。
そして、大魔法使いの山に置かれている長距離監視拠点から届けられた通信……これが私がルナーサで最後に受けたものになったんだ。
『国境門を目指し多数の帝国軍が接近中、現在地は座標E426……――』
伝えられた座標から計算した結果、帝国軍のルナーサ到達は翌日昼頃……時間は残されていない。
直ぐに手配をし、ルナーサの住人たちに避難命令を出した。
多くの人達はそれに従い、サウザンを目指して最低限の荷で避難を開始したけれど、ルナーサは商人の街だからね、それには従わず残って商売をしようと考える人達も少なくはなかったよ。
財産である商材を置いて行けと僕は言っているわけだからね。
留守中に略奪される可能性を考慮すれば素直に従えないと言う気持はよく分かる。
僕も商人だからそれに関しては何も言えなかった。
先に結果を言ってしまえば、帝国軍が到達後も、危惧していた派手な破壊行動や略奪は起きず、そっくりそのまま支配下に置かれたようで、残った住人たちは無事らしい。
僕の予想よりはひどい状況ではないみたいなんだけど……軍に物資を提供するよう命令されたり、対価が支払われても決して十分ではない額だったりするみたいで、居残っている住民たちの不満は溜まっているようだね。
けれど……不気味なほどに帝国軍はそれ以上の事はしていない。
住人を追い出し、建物を接収するような事はせず、普通に宿をとって宿泊をしているらしい。
まるで任務で訪れた街に駐屯しているかのように。
帝国軍の目的はルナーサを新たな領地として得る事ではなかった。
となれば奴らの目的はなんだったのだろう? 何のためにルナーサに攻め込んだのだろうか?
そう思うよね。
ここで時間を戻して僕達のことを語ろう。
ルナーサにある僕の家の地下、そこがちょっとした基地になっていたのは……うん、忘れてるみたいだね。
僕の家の地下には旧時代から――僕のご先祖様がウロボロスと共にルナーサに訪れた頃から重宝してた地下大空洞があるんだ。
一時期はウロボロスの本体を隠していたんだけど、その後は手を入れて基地として使っていてね、ここの本部の支部として様々な研究をしていたんだよ。
入り口は隠蔽して簡単にはわからないようにしていたんだ。この基地に入るときもちょっとした仕掛けがあっただろう? あれと似たような仕掛けだね。
僕が危惧したのは街の破壊もだけど、その支部の事もあった。わざわざ急いで侵攻してくるのは基地の秘密に気付いているからではないか?
『帝国は機兵の新技術を独占し、力で支配をしようとしている』
誰が言い始めたかはわからないけれど、その話は漠然と広まっていて、事実帝国が持つ機兵を始めとした軍事技術はトリバやルナーサのものよりも進んでいて、諜報の網にかからないより高度な技術もあるのではないか、そう言われていた。
とすれば、この基地の存在は、僕らが持っている技術は彼らにとって興味深く、そして許せないのではないか?
いずれ、帝国に目を付けられるのは予測してたんだ。
だからご先祖様も使ったと言われている秘密の抜け道を使ってね、僕らは情報ごと脱出をしたんだ。
勿論、全部をもっていけるわけではない。だからまず地下に降りるエレベーターを破壊し、簡単には降りられなくした。
そして持っていけない機材や製造中の機兵達は……悔しいけど破壊したよ。
……帝国の研究者なら何か見つけそうだったから、要となる部分は特に念入りにね。
抜け道につながる入り口は代々伝わる石でしか開閉しない上、やたらと頑丈だからね。奴らが気づくことは無かった……と思う。
その仕組を地下への入り口にも使おうと研究していたんだけど間に合わなかった。それは本当に悔しい。
ウロボロスが持っている知識だけで出来れば簡単だったんだけど、途絶した魔術も使用しているとなればお手上げさ。
皆を見送り、僕も逃げようと思った時、それまで使おうにも使えなかった通信機、カイザーからもらった通信機に反応があった。
驚きつつも応答すると、聞きたくて聞きたくて仕方がなかった娘の……ミシェルの声が聞こえてきたんだ。
ミシェルから聞いた情報にほっとしつつも、僕はある意味で残酷な事を伝えなければいけなかった。
『現在ルナーサは帝国軍から侵攻を受けている』
とっくに日は変わり、予想通り地上には多くの帝国軍が到着していた。それは最後にエレベーターで降りてきた者、妻であるマリエーラから報告されたんだ。
『地上はもうだめ。うちの子たちも避難させたわ。下手に抵抗しても街が壊されちゃうだけだもん』
きっとミシェルならここに来ようとするだろう。だから侵攻の報告より先に『来るな』と伝えた。
案の定、ミシェルに怒られたよ。
だから僕は『これで終わりではない』と伝え、ミシェルにはやるべきことをやるように言ったんだ。
そして僕らは研究成果の半分を失いつつも……いや、半分も持ち出すことに成功し、なんとかここまでたどり着けたというわけさ。
その後は大変だったけどなんとかここまで漕ぎ着けることが出来たよ。仲間たちと合流したミシェルがレニー君を探しにここにやってきて僕と涙の再開……こらこら、ミシェルやめなさい。痛いよ。
ごほん。
定期的にミシェル達からの連絡をうけつつ、こちらでもカイザーやレニー君、スミレ君の捜索を続けていたんだ。
そしてその苦労が……今日半分報われることになるかも知れない。
◇◆◇
そう言って言葉を切ったアズベルトはミシェルすらも驚く報告をした。
「これは君達に隠していたわけじゃないんだ。確信が持てず、念を入れて調査をしていたからこそ報告が遅れた情報なのでどうか怒らないで聞いて欲しい……」
アズベルトは飲み物を手に取り、一気に飲み干してから静かに報告をした。
「カイザー、君の本体は……おそらくルナーサにある」
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