第二百八十四話 基地
茶屋で何処か懐かしく感じるお茶と饅頭を堪能しているうち、ラムレットがなんとか回復したようだ。シグレが言うには『お茶のリラックス効果だ』ってことみたい。
ゆっくり休んだってのもあるんだろうけど、何にせよ回復したならいよいよ基地だね。
馬車に乗って基地に行くよと言った時のラムレットの顔ときたら。
完全にこの世の終わりのよう顔をしていたよ。
でも『普通の馬車だぞ。普通の馬車なら平気なんだろ?』とマシューから説得され、オルトロスが引くあれが異常だったことを思い出したラムレットは憑き物が落ちたかのように元気になり、意気揚々と馬車に乗り込んでいた。
馬車で行く――といっても、実はそこまで遠くはなく、歩いても20分程度の距離のようだった。
ただ単に案内をするマシューが歩いていくのが嫌なだけだったみたい。
「そんな顔をするなよな。オルトロスで行くって言ったらまたラムレットがひどい目にあってただろ?」
「その話はもう良いから! 馬車でいい! 馬車最高だから!」
元々徒歩で言っても問題がない距離なので、10分もかからず洞窟―基地の入口に到着した。
入り口には2機のエードラムが番兵をしていて、なんだかとっても物々しい。
洞窟というから小さな洞穴を想像してたんだけど、機兵に乗ったまま入れる巨大な大穴だったよ。
元々ミシェルのご先祖様達が使っていた洞窟だったらしいんだけど、今は基地としてつかっているそうな。
浪漫以外にそんなことをする理由があるのだろうか? 入るまではそう思ってたんだ。
入り口をくぐり、少し行くと行き止まりになっていた。一体どういうことなのかと首をかしげていると……。
「へへ、これはルゥになる前のカイザーも知らなかったことだからな。どの道そんな顔をしたろうさ」
嬉しそうなマシューが中に居た人に合図を送ると……
ゴゴゴと地響きのような音を立て、壁だと思っていた物が左右に開いて行き……隙間から光が溢れ出した。
「驚いたか? ようこそあたい達の基地へ。外の施設は半分ダミー見たいな扱いなのさ。この洞窟の中こそ、ここの心臓部。本当に大切な場所ってわけさ」
外にも多くの人が居たけど、中も外に負けじと劣らない人数が忙しそうに動き回っていた。
マシューの話によると、外は開発済みの機体をメンテナンスしたり、訓練をしたりする場所で、中は新型機の開発やテストをする場所らしい。
外装が無い機兵がウロウロしていたり、良くわからない大きなパーツが運ばれていたり、なんだかわからないけどすごくワクワクする。
あっちへこっちへ忙しそうに動く作業用機兵をキョロキョロと目で追っていたら
「キラキラした顔でお楽しみのところもうしわけないんだが……人と会ってもらうぜ」
と、マシューから困った顔で言われてしまった。そんな夢中になってたつもりはないんだけどな……。
構内移動用の動く台車のようなものに乗せられ、5分ほど移動した先で小部屋に通された。ここはなんなのだろうと思いつつ入ったら、それはエレベーターだったようで、どうやら上に昇っているようだ。
間もなく扉が開き、見晴らしが良い……これはガラス張りなのかな。すごく見晴らしが良い、展望室の様な所に出た。
なにやら文字や図形が表示されているモニタ的な物が並び、難しい顔をした人たちと……ミシェルがいた。
「来ましたわね。カイザーさんはお忘れでしょうし、お二人ははじめてでしょうから先に紹介しますわね。ここは基地の中枢、司令室。元はカイザーさんからの司令を受けて各地に連絡をする場所でしたが……今はこちら、アズベルト・ルン・ルストニアが司令官代理を務め、各地に司令を送る部屋になっていますの」
ミシェルに紹介された男性が立ち上がり、胸に手を当てお辞儀をした。
「はじめまして、私はアズベルト。ミシェルの父でね、一応ルナーサの代表みたいなものなんだけど……ご覧の通り街を追い出されてしまってね……今はカイザーの代理として厄介になってるのさ」
街を追い出されたって……帝国に占拠されているわけだから、追い出されただの厄介になってるだの軽く笑いながら言えることじゃないと思うんだけど……。
「カイザー、君は記憶を失っていると聞いている。ちょうどいい、二人への自己紹介ついでにあの日の事を語ろう……」
アズベルトは私達に座るよう促し、長くなるからとお茶とお菓子を持ってくるよう何処かに連絡をした。
「そう、あの日。君達ブレイブシャインが姿を消してから2日後のことだ……」
◇◆
あの日、僕は戦地から戻らない君達ブレイブシャインからの連絡を待っていた。
娘であるミシェルも心配だったし、カイザーを含め皆かけがえの無い友達だからね。
一人も欠けること無く元気な顔を見せて欲しい、そう思って各地からの連絡を待っていたんだ。
何しろ入ってくる連絡ときたら、君達が爆散しただの、何処か遠くに吹き飛んでいっただの、どう考えても絶望的なものばかりだったからね。報告が入る度、最悪の報告が書かれているのではないかと身が縮む思いだったさ。
暫くはそんな日々が続くだろう、そう思っていたんだけど……君達が姿を消してから二日目の夜、そうも言ってられない状況になった。
私もそろそろ寝ようか、そう思っていた時の事だ。部屋の魔導具、連絡用の魔導具が点灯したんだ。これは緊急時にしか使わないようにしてたからね、最悪の報告を覚悟して手を触れたんだ。
確かに最悪の報告だった。しかし、別の意味で……だ。
内容は君達に関することではなく、帝国に関すること。帝国が、奴らがルナーサに向けて侵攻を再開したとの連絡だったんだ。
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