第二百七十九話 情報交換

 久々に会ったブレイブシャイン。しかし、私は彼女達の『情報』は持っていても共に過ごした『思い出』はそっくりそのまま失われてる。


 さらに、自分がカイザーであり、この身体が『妖精体』という、サブ端末であることもなんとか思い出せた……というかデータの復元? はできたんだけど、元の体がどんな姿で、どんな機能があって、どんな性格だったのかは全く思い出せないでいる。


 そのため、ブレイブシャインが知っているカイザーと、私はだいぶ様子が違うようで……。


「ええと、カイザー。冗談なら今のうちにそう言ってくれ。ほんとにその……その喋り方が今のお前なのか?」


「ううん、そうだね。まずは私が目覚めたときのお話から聞いてもらったほうが良いかな?」


「うう……カイザーさん……。確かにその見た目は可愛らしいので違和感は無いはずなのですが、やっぱり……」


「なんだかとっても不思議な気分になりますな……」


 もー! 私が何か喋る度、複雑な表情をするのはホントやめて欲しい。まったく、これはフィオラのせいだとも言えるんだからね。


 そして私は目覚めから今までの話を皆に聞かせた。


 見知らぬ森で目を覚まし、記憶もなにもないままフィオラに拾われたこと。そこで『女の子がそんな口調は駄目』と怒られたこと。それに疑うことはなく、今の口調で話すことになり、そしてそれに対する違和感を感じなかったため、以後はそのまま身をゆだねていたこと。


 ルナーサから南下をし、ラムレットと出会ってパインウィードを通ってフォレムに来た……と、取り敢えずそこまで一通り話し終わると、ようやく3人は何か納得したような顔をしてくれた。


「つまり、カイザーさんは一切合切記憶がなく、その可愛らしい口調に違和感を持つことはなく今日までフィオラちゃんと一緒に旅をしていたというわけですわね?」


「そうだね。ただ、時折ね、何かのタイミングで女の人の声が聞こえてさ、ヒッグ・ホッグと戦ったときと、今日君たちとあった時。声が聞こえると記憶が少しずつ戻るんだ」


「女の人……カイザー、それきっとスミレだぞ。そうだ、スミレはどうしたんだ?」


「スミレ……うーん、ごめん……思い出せない……。確かに、レニーと2人というわけではなくて、もうひとり居たような気がするんだけど、それがスミレなのかな?」


 私の言葉に戸惑いと悲しみが入り混じった表情に変わる3人。うう……、そんな顔されても覚えてないものは覚えてないのだ。


「スミレは……、人じゃない。カイザーみたいな妖精……いや、元々カイザーと一緒に同じ体に居たんだよ。なんつったっけ、せんらくなんとか……」


「戦略サポートAI、彼女はそう名乗ってましたわ。最初は声だけの存在でしたが、ある日、自分で妖精のような身体を作り出してそれを使ってましたの。ああ、それをカイザーさんが羨ましがってその体を作ってもらったんですわ」


「そうだったのか……いや、何か引っかかるけど、覚えてないからそうなんだろうなとしか言えないな」


 お互いに今日までの情報を出し合ってわかったことは、


 ・レニーとスミレは未だ行方がわからない。

 ・カイザーの本体も行方がわからない。

 ・カイザーの記憶と機能はほぼ失われている。

 ・レニーとスミレは生存していると思われる

 

 結局『わからない』事がわかっただけだったけど、それでも収穫はあった。


 スミレは私と同様の存在であり、言ってしまえばデータのようなものだ。だから万が一身体に損傷が生じていたとしても、何らかの形で生き残っている可能性が高い。


 それを裏付けるのが私に聞こえる声だ。スミレのことは未だ思い出せないでいるけれど、彼女達と話してあの声がスミレだと確信した。証拠はなにもないけれど、ストンとそれがハマった感じがしたんだ。


 そしてレニーが生存していることもそう。これはウロボロスから聞いた話だけど、登録したパイロットに重篤な問題が発生してそれが解除された場合―つまりは、亡くなってしまった場合は本体であるAIに伝わるようになっている。


 ミシェルから見せてもらったけど、私達のような特殊な機兵と契約したパイロットの掌には光る紋章が浮かび上がるんだ。


 どういう仕組なのかはわからないけど、パイロットが死亡した場合、その契約は失効し、紋章の消失と共に『繋がり』が途絶えるらしい。


 ウロボロスが言うには、


「死に別れたことは未だ無いけれど、それでもこっちに来た際、繋がりが消えたのを感じたよ」

「あれはちょっと辛かったわ……なんとも言えない喪失感でいっぱいになって……」


 とのことで。『こっちに来た』と言うのがわからなくて聞いてみたけど、どうやら私達は別の世界から来た機兵らしい。ほんとかいな……。

 

 でも、納得はできる。繋がりというのがどういうものなのかはわからないけど、異世界からこちらにきたというのであれば、魂の繋がり的な物は遮断されちゃうんじゃないかなって思うんだ。


 今の所そんな悲しい感情が起こったことはない。意識を失っている間に何かあったのかもしれないけど、それはないと断言できる。


 今でも何か、レニーとつながっている、そんな感覚がするからだ。


 そして今後の予定がざっくりと決められていく。


 まずは『基地』と彼女達が呼んでいる拠点に行き、そこの人たちにも事情を説明する。

 その後、不明のレニー、スミレ、そして私の本体の捜索を開始。


 スミレは私の本体と一緒にいる可能性が高いみたいなので、レニーと本体どちらを探すかって所なんだけど、先に本体が見つかったとしても問題は無いみたい。


 パイロットが居ないのに平気なの? と聞いてみたら、どうやら私達、異世界の機兵はパイロットが居なくても一人で動けるそうで……。


 私記憶を失ってるんだけど……大丈夫かな?


 ともあれ、まずは基地で改めて情報を集めようということで、明日は一度フォレムに戻って納品と機兵の返却。


 その後、ブレイブシャインと共に基地に向かうことになった。

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