第二百七十八話 おうち
例の空き地で野営の支度をしていると、なんとなんとブレイブシャインがやってきた。
なんて凄い偶然だろう、そう思っていたけど完全に偶然というわけじゃなかったみたい。
「お前たちは2人か……なあ、シグレ平気か?」
「うむ。私の部屋で有れば5人くらい楽に寝れますよ」
はじめはこの人達……ええと、マシューとシグレが何を言っているのか理解が出来なかった。それはフィオラもラムレットも同じで、ここで野営をしようと言ってるのに部屋とは何の話だろうと3人で首をひねってた。
すると、ミシェルがこちらにやってきて機兵を少し下げ、離れているように伝えてきた。
「もう! カイザーさん! ボサッとしてないで彼女達におうちのことを伝えて下さいな!」
「え……ええと、お、おうち?」
「……? 暫く見ない間に何処か悪くされましたの……? 取り敢えずお話は後ですわ。お二人とも、もう少し後ろに下がって下さいな」
言われるままに下がり、何が起こるのかと見守っていると、例の空き地に、四角くあいたあの場所にぴったりハマるように長方形のコンテナが姿を現した。
「ふふ、カイザーから何も聞かされてないみたいだな。いいぞいいぞ。これがあたい達ブレイブシャインの秘密、おうちだ! さあ、遠慮しないで入ってくれ!」
「入ってくれってマシュー、これはシグレのおうちでしょうに……そういう事は自分のおうちを出したときに言いなさいな」
「いやあ、あたいのおうちはその……ごちゃごちゃしてて人を泊めるような感じじゃ……ははは」
さも自然に、いつもの日課のように、これが野営だと言わんばかりに自然体の3人に対してフィオラとラムレットは驚いてポカンと口をあんぐり開け『おうち』を見つめていた。
二人のもとにやってきたシグレが優しげな声を掛ける。
「これは私達がおうちと呼んでいるものです。普段はガアスケ……私の機兵の背中にくっついてるのですが、ガアスケに頼むとこうして小屋のような形にして配置してもらえるのですよ」
背中に……ああ……記憶が……いや、データが結びついて少し思い出せたぞ。
「ん……バックパックと呼ばれる装備で、武器等を収納してるんだけど、仕舞えるのは武器だけじゃないんだよね……そう、こうやって家の代わりに……レニーも、そうだ、レニーはここに私の家を置いて暮らしてた……?」
「むむ、カイザー殿? おかげんがよろしくないようですぞ。取り敢えず中に入ってくだされ、ささ、二人共どうぞ遠慮なく」
シグレのおうちは土足禁止のようで、フィオラ達は入り口で靴を脱ぐ様言われ、戸惑いながらもそれに従って中に入った。
中は……これはなんだろう、草で出来た……ええと、ええと……ああ、畳、そう、畳だこれは。畳が敷き詰められていて……和風……? 和風が何かはわからないけど、ああ、リーンバイル様式の内装になってるんだな。
データとしてシグレの事は覚えて……いや、データベースから呼び出せる。
シグレ・リーンバイル リーンバイル元当主の娘で、北東の島に隔離された国に住む。世が世ならお姫様で、ブレイブシャイン、ヤタガラスのパイロット。油断すると方言なのかニセ侍みたいな口調になる……? 侍ってなんだっけ?
そして中でくつろいでいると、美味しそうな匂いとともにマシューとミシェルが入ってきた。
「普段は外で食うことが多いんだが、ここは狭いしあんまいい場所じゃないからな」
「聞きたいことは後回しですわ。先ずはみなさん、お腹を満たさないと!」
「というわけですので、みなさん、遠慮なく食べてくださいね」
眼の前には信じられない光景が広がっていた。湯気を立てる料理……いや私達だって今日は暖かいご飯をお昼に食べたんだよ……でもこれは……ちょっとそのレベルを超えてるっていうか……。
「わあ……凄い……。お店で作った料理みたい……皆さんは料理が得意なんですか?」
「うっ……くそ、気を悪くしたら謝るが、その顔……レニー見たいな顔でそんな事言われるとムズムズするな」
「なぜだか皆さんにそう言われます」
「ははは、そうだろ? ああ、料理な。スープは作ったもんだけど、この煮込み料理とか、カラアゲとかは屋台で買ったやつだよ」
「ええ? 屋台? えっと、だって、こんな出来たてみたいな……暖めたにしても傷んでしまうんじゃ」
驚居て質問攻めにするフィオラ。一方、ラムレットはブレイブシャインに囲まれて緊張しているのかガッチガチになって固まってる。
料理の秘密はデータとして理解した。バックパックに入れたものは時間経過無しで保存可能で自在に取り出せる……か。旅先で買った料理をポイポイつっこんでおけば盛り付けるだけ……と。凄いな……。
料理はとても美味しかった。屋台で買ったのは勿論のこと、マシューとミシェルが作ったスープも優しい味がしてなんだか胸がポカポカした。
ご飯を食べながら、交流がてらの情報交換がはじまっている。
「前はこれでも……もうちょっと手作りの料理も多かったんだ。ただ、その……料理が得意なのはレニーでさ……」
「お姉ちゃん、間抜けで狩りもヘッタクソだったけど、採集と料理、あとムダ知識だけは人並みでしたからね」
「ふふ、本当にレニーの妹さんなんですのね。厳しいことを言ってるつもりでしょうけど、レニーの話をする貴方は嬉しそうな顔をしてますわよ」
「うう……ま、まあそりゃ、姉ですしね。勝手に家出して勝手に行方不明担ってるんだから怒ってるだけですよ。別にそこまで嫌いってわけじゃないですし……」
ミシェルにやりこめられて顔を赤くするフィオラ。いいぞいいぞもっとやれ! こんなフィオラは新鮮だ。
「ところで……カイザーさん?」
「はい? 私が何か……?」
「貴方……今、フィオラちゃん達から『ルゥ』と呼ばれているそうですわね?」
「ええ、そうだね。私は今ルゥとして彼女達と旅をしてるんだけど、それが……?」
「名前はともかくとして、その口調なんですの? それではまるで本当に女の子になったみたいですわよ」
「えっ? 私って妖精型になれる女の子ロボじゃなかったの?」
「「「ええー!?」」」
ブレイブシャインの子達が揃って驚いた声を出す。
参ったな、てっきり私の正体を支配者口調系の女騎士ロボかなんかだと思ってたんだけどな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます