第二百七十七話 邂逅
ウルフェンタイプの機兵を借り、ライダー入門用のクエストとも呼ばれる『ブレストウルフ討伐』という恒常依頼を受託した私達は王家の森へ向かい、見事4体撃破という輝かしい結果を残すことができた。
……のは良かったんだけれども……。
「いやほんっとわりい! アタイも失念してたわ!」
狩りが終わってさあ帰ろうかという時、ラムレットが苦笑いをしてちょっとした失敗を告白する。
そう、荷車が無いのだ。ブレストウルフのサイズは人と動物で表すならば、大型犬くらいはあるだろうか。1体であれば辛うじて抱っこして運べなくもないけど、2体ともなればかなりきつい。
通常、狩りに出るパーティーは運搬用の荷車を借りることが多い。いわゆるリヤカーのようなものに獲物を乗せ、街まで運ぶためなんだけど、残念ながら私達は誰一人それを思い出せず、手ぶらのまま森にやってきてしまったわけで。
それでも倒したのが二人で2体であれば、なんとか一人1体ずつ担いで帰ることも出来たんだけど、一人あたり2体となれば流石にそれは難しい。
てなわけで、今私達はズルズル、ズリズリと森に妙な轍を作りながら2体のブレストウルフを引きずりながら歩いているところです。
メカメカしい魔獣とは言え、傷つけばキチンと匂いを発します。動物のように血なまぐさい匂いではなく、機械油のような鉱物系の香りなのですが、それはそれでそれを餌とする他の魔獣には素敵な香りとして捉えられるわけで……。
普通はこのような真似をしていれば、気づかないうちに魔獣に囲まれ、獲物諸共ごはんにされてしまうことでしょう。
幸いなことに、私には周辺マップ機能があるので、何か妙な物が接近していれば早いうちに察知することが出来ちゃうし、逆に罠にはめることだってフィオラが居れば出来るかもしれない。
ともあれ、これ以上荷物を増やしたくはないから、何事も無いのを祈りたい所だね。
◆◇
ズリズリと引きずって歩いてはや3時間。移動速度は来た時の1/10くらいだろうか、かなりゆっくりとした速度で歩いているため一向にフォレムにつく気配がありません。
今の所、他の魔獣にちょっかいを掛けられるようなことはありませんが、刻一刻と夜に向かって進みゆく時の流れにただただ焦るばかりです。
一応最低限の野営の用意はしてあります。日帰り予定の依頼だからといって、事故が起きないとは限らない。ハンターたるもの、備えあれ! とフィオラが熱く語り、しっかりと3日分の荷物を積み込んであるのです。
なので野営自体は平気なんだけど……せめて街道の近くまでは行きたい所。
後1時間もすれば日が暮れ始めてしまう。完全に暗くなっちゃう前になんとか野営を……。
そんな事を考えながら必死に必死に、機兵をだましだまし進んで何とかお昼を食べたところが見えてきました。
厳密にはまだ森の中なんだけど、街道からほど近く、何か不味いことが起きたとしても退路を確保しやすい良いポイントだと思う。
なによりあそこはしっかりと固く締められた地面があって、非常に都合が良いのです。
「フィオラ、流石に門が閉まるまでに帰るのは無理だし、今日はあそこで野営しようよ」
「そうだね……私もそう思ってた所……ていうか……疲れた……」
ラムレットに合図を送り、ズリズリとジワジワと近いけど遠い野営ポイントまで向かい、ようやく荷物から開放されることが出来ました!
……明日の朝まで……だけど。
「私は何もしてないけど、なんだか妙に疲れたよ……」
「ルゥだって絶えず周囲を索敵してくれてたんでしょ? 何もしてないわけじゃないよ」
「そうだぞ。ルゥのおかげでアタイ達は安心してナメクジみたいな移動が出来たんだ。ありがとね」
そっかそっか。そう言われると頑張ったなあって気がしてとても嬉しい! 私頑張った!
ウルフェンを脇に停め、焚き火を起こして、さあ、野営の用意をしようかって時、こちらに近づく反応が見えた。
「フィオラ、ラムレット。反応3、これは魔獣じゃない……機兵……だけど一応用心して」
「こんな時間に森に向かう反応って……あまりいい事じゃないよね」
「ああ、ハンターだって良いヤツだけじゃない。追い剥ぎみたいな奴も居るんだ。二人共、いつでも乗れるように備えておきな」
ラムレットの指示通り、私とフィオラはウルフェンの側に寄り、怪しげな反応の様子を伺う。
やっぱりコチラにまっすぐやってくる。道から外れたこんな所にわざわざやってくるなんてやっぱり普通じゃないよね。焚き火の明かりに引き寄せられた賊……なのかな?
ああ、しまったな。焚き火を消してから動けばよかったなあ……。ともあれ、いまさらどうすることも出来ない。さあ、鬼が出るか蛇が出るか。
反応がごく近くまで接近した。既に目視可能な範囲内……だけれど、暗くてよく見えないな。
……であればアチラからもこちらが見えにくい? なら、不味い時は何とか迎撃出来るかもしれないな。
と、構えていると脳天気な声が聞こえてきた。
『ありゃー、やっぱり人が居るぞ。ごめんごめん、あたい達は何かしようってんじゃないんだ。野営しに来たんだが、ほんとに先客が居たんだなあ』
『もー! だから言いましたのに! レーダーにキチンと二人映っていたでしょう? ああ、ごめんなさいねうるさくて……』
『うむ、すまぬな、そこの人たち。我らもここで野営をしようと向かってきたのだが、先客が居ると気付いてもウチの犬が気にせず向かってしまってな……』
『誰が犬だよ! ああ、すまない! アタイ達はブレイブシャイン、アタイは代理でリーダーやってるマシューってんだ。悪いけど、顔を出して話を聞いてくれないかい? うちの氷精が怖いんだよ……』
『だれが氷精ですって!?』
「ルゥ……あの人達……」
「ああ……本人たちがそう言ってるし、何よりあの機兵……見覚えが……記憶にあるよ……」
私達の前に立っているのはブレイブシャイン……ウロボロス、オルトロス、ヤタガラスだ……。
そして私は……カイザー!
そうだ、私はカイザー、ブレイブシャインの……カイザーだ。
と、自分がはっきりと『カイザーである』と認識した瞬間―
【僚機よりデータアップロード完了。カイザーデータベース38%修復完了。機能アンロックを試行中……エラー、アンロックに失敗しました。カイザーシステムアップデートを終了します】
前にも聞いた不思議な声が頭に浮かび、ジワリジワリと記憶がよみがえる感覚がした。
アンロック……失敗?……そうか……私は今……私の本体がないから……。
残念ながら、マシュー達やウロボロス達の事はまだはっきりと思い出すことが出来ない。データとして顔や名前はわかるのだけれども、いわゆる思い出というものが全て欠如したままだ。
今ここにない本体がそれを持っているのか『あの声の主』がそれを持っているのかわからない。
今できる事はブレイブシャインの皆から話を聞いて失われた記憶を拾い集める事くらい。
まずは彼女たちと話しをしてみよう。
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