第二百七十一話 作戦開始

◆SIDE:ブレイブシャイン:三人称◆


 翌朝、まだ空が薄く桃色に染まる頃、朝霞漂う平原でマシュー達ブレイブシャインは上位ハンターや第7部隊と共に整列し、リオの言葉を聞いていた。


「諸君。本日はいよいよワニ狩りを実行する。奴は我々と比べ圧倒的な巨体だが、なに、此方も機兵に乗ってしまえばその差はたかだか3倍だ。そして我々はこんなにも多くの人員が揃っている。負ける要素は何処にもない!」


 杭係のA班が8機、拘束係のB班が8機、そして攻撃役のC班が10機。全26機。旧型であればこれでも心許ない機数だったが、第7部隊が乗る機兵はエードラムとその改良型である弐式、上位ハンター達は流石にエードラムには乗っては居ないが、それでもコツコツと素材を集めカスタムしてきた機体に乗っていて、ヒッグ・ギッガ戦の際に村のハンター達が乗っていた機体と比べものにならぬほどに高スペックの機体である。


(これだけいるなら、あたい達がいる必要は無かったのでは)


 コクピット内で苦笑いをするマシュー。まさかそれに気づいているはずはないのだが、良いタイミングでリオがそれを否定する。


「とは言え、敵は超級の魔獣、ゴルニアスだ。増してトリバでは討伐記録が無い魔獣であり、不安に思う者もいるかも知れないな。だが、案ずるな! 我々にはブレイブシャインが居る! 仲間の捜索に急ぐ彼女達の貴重な時間を頂戴して来てもらった!」


『おお!』


 既にマシュー達ブレイブシャインがこの場にいるのは皆わかっていたことだが、改めてリオから語られ、場が盛り上がっていく。

 

「当作戦はかつてレニー・ヴァイオレット率いるブレイブシャインがヒッグ・ギッガを相手に実行した物であり、皆も知っての通り、見事奴を討ち取ることに成功した。

 今回はマシュー・リエッタ・リム、ミシェル・ルン・ルストニア、シグレ・リーンバイルの3名と、オルトロス、ウロボロス、ヤタガラス3機が当作戦に参加しているのだ、ゴルニアス如き後れを取ることはあるまいよ!」


『やれやれ僕たちの名前まで出すとはね』

『ふふ、カイザーやスミレの分まで頑張らなくっちゃ』


『悪いサメを倒してカイザーに会いに行こー』

『サメじゃなくてワニだよ~』


『修行の成果、見せる時が来たでござる』


 あの戦いの後、AI達に変化が置きていた。以前と比べ言葉を発することが極端に少なくなったのだ。全くの無言というわけではないが、例えばオルトロスは普段から2体のAIが喋りすぎるほどよく喋り、マシューからうるさいと怒られるくらいであったが、あの戦い後、最低限の言葉しか発しなくなっていた。


 しかし、最近になって再びお喋りになってきた。日に日に元気を取り戻すかのように賑やかになっていくAI達にマシュー達は表面上はうるさいと零しつつも、ただでさえレニー達の不在で落ち込み気味であったパーティが再び賑やかになったため、喜ばしく思っていた。


 AI達は密かに特訓をしていた。近距離通信で3機をリンクし、仮想空間上で密かに練度を上げていたのだ。実際に機体を操作するのはパイロット達だが、パイロット達から伝わる『こう動かしたい』と言う思いを緻密にトレースして動作するにはAIの戦闘練度も重要な要素となる。


 メタ的な話をしてしまえば、アニメ終了後の『シャインカイザー』からやってきた機体達なので、それなりに高い練度を備えている。しかし、それはあくまでもアニメのパイロット達と築き上げた物であり、此方の世界のパイロット達ではやはり差異が生じてしまい、万全の力を出すことが出来なかった。


 故に敗北とも言えるあの戦い後、AI達は互いに協力し日々修行に明け暮れていたのだった。



 今やブレイブシャインに憧れの目を向ける者は多い。それはパイロットだけではなく、機体にまで及んでいる。ハンター達の間では精々「レニーが乗っている機兵は喋るらしい」「カイザーという機兵は喋るし妖精の化身らしい」という情報が広まっている程度だが、軍部ではかつて旧ボルツ領で行われたエードラムの操縦訓練の影響もあり、オルトロス達もカイザー同様の存在であることが明らかになっている。


 故にリオの紹介で改めてオルトロス達の姿を見た者たちはより高揚し、士気は最大限に高まっていた。


「うむ! それでは征くぞ! 鰐を討ち取れ!」


「「「おおおおお!!!」」」


 リオの掛け声と共に各班が一斉にキャンプを立つ。ゴルニアスが陣取っているのはキャンプ地よりおよそ15分の距離。作戦に使う道具を持つ機体に合わせ、やや速度を落として進んでいくと小高い丘の上で停止命令がかかった。


 各機内に据え付けられた短距離通信装置からリオの声が聞こえてくる。これは以前ウロボロスとスミレの協力の下、此方の世界で再現可能なレベルに再設計をした魔術と科学をかけ合わせた科学魔導具とも言えるもので、ジンとリックに基礎となる技術を伝え、託しておいたものだった。


 ルナーサ防衛戦には間に合わなかったが、今こうして実用化されているのはブレイブシャインにとっても喜ばしいことであった。


 ちなみに、設計にスミレとウロボロスが携わっているということで、ウロボロス達、ブレイブシャインの機体は別途端末を必要とすること無く、自前の通信機能で送受信可能である。


「諸君。見えるか、巨体を見せつけ我が物顔で横たわる愚鈍な鰐の姿が。奴は今、高鼾をかいて寝ている。好機に見えるか? 見えるだろう。ああ、私も今直ぐにでも斬り捨てに向かいたい。しかしアレは罠だ。待つのだ、好機を! 好機はやつの食事時にある。ストレイゴートが現れるその時まで英気を養い待機していてくれ!」


(まったく、いちいち大げさなことを言うよなあ、この部隊長さんはよ……)


 疲れた顔でぼやきつつも、なんだか憎めない。何処かカイザーを思い出すその口調に懐かしさを感じるブレイブシャインであった。

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