第二百七十話 例の作戦

◆SIDE:ブレイブシャイン:三人称◆


 魔獣ゴルニアスが現れたのは1週間程前だった。イーヘイ西部にある砂浜『リーチビーチ』で貝を採っていた漁師たちが今まさに上陸しようとしているゴルニアスを見つけ、ギルド本部に通報。


 その後、調査依頼を受けたハンターが駆け付けた所、確かにそれは超級魔獣ゴルニアスで、憎たらしいことに、対象はのんびりと砂浜で日向ぼっこをしていたのだという。


 そのまま海に帰ってくれれば問題は……まあ、多少はあるだろうが、取り敢えず討伐作戦が組まれるような事態にはならなかった。しかし、有ろう事かゴルニアスは街道を目指してゆっくりと移動を始めてしまった。


 ゴルニアスは通常、ヘビラド半島沿岸に生息し、浜辺や浅瀬に潜んでは通り掛かる他の魔獣や生物を捕食するとされている。

 基本的にはゆったりとした動作で、移動速度も遅く、滅多なことがない限りは長距離移動をするような事はない。


 そんなゴルニアスがわざわざこちらまで遠路はるばる出張ってきた。


 恐らく、例の『黒龍』絡みの実験なり作業なりの影響を受け、住処を追われるように移動したのだろう、ハンターズギルドグランドマスターレインズはそう判断し、ゴルニアスにも何らかの変化が起きているのではないかと警戒を強め、近隣に居る上位ハンター達にも指名依頼を出して戦力をかき集めることにした。


 そしてゴルニアスが街道周辺に到達した時、間が悪いことにストレイゴートの群れが通り掛かる。ゴルニアスは普段見せることがない俊足でそれらに襲いかかり、瞬く間に街道は魔獣の体液に染まった。


 偵察していた調査隊は震える身体を奮い立たせ、携帯用通信魔導具(ギルド間で使われている電報のようなもの)を使い現況を報告した。


 ゴルニアスはその後街道周辺から動こうとはしなかった。御馳走であるストレイゴートがじっとしててもどんどんやってくる事を知ってしまったからだ。


 まずいことに現在ストレイゴートは『大移動』と呼ばれる繁殖期にはいっている。本来の生息地であるグレートフィールドから群となって移動し、リーチビーチを目指す。そして暫くの間、海水を飲んだり、それを多く含んだ砂を食べたりして繁殖活動に備える。


 不幸にもストレイゴート達はゴルニアスにとって回転寿司のごとく、じっとしているだけでやってくる格好の食事となってしまった。


 そしてこれはトリバ防衛軍にとっては幸運だった。ゴルニアスは悪食で目についたものは何でも食べようとする。故に万が一何処かの街に到達した場合、絶望的な被害も予想される。


 故に足止めをするべく用意もしているのだが、今のところはストレイゴートに夢中で大きく動くことは無い。


 最も、そのせいで街道が封じられ、流通面で大打撃を受けているわけだったが。


「さて、我がトリバ防衛軍が立てた作戦はシンプルだ。数の暴力で動きを止め、力の限り叩きのめす! それだけだ」


 ワハハ、と笑うリオに若干苦笑するブレイブシャイン。リオの顔は整っていて、黙っていればどこぞの令嬢かという華やかさがあるのだが、口を開けば女版レインズといった雑な性格。作戦会議と言われて真面目に耳を傾ければ、『集まってボコボコにする』みたいなことを言う。これを作戦と呼んで良いのだろうか。


 なんと言ったら良いのか、どう反応したら良いのか、そんな顔で微笑を浮かべるブレイブシャインに気付いたリオは、少し何かを考えるようにして……暫くしてようやく何か思い出したのか、明るい顔になって追加の説明を始めた。


「そうだ! この作戦は君達ブレイブシャインの活躍、噂のヒッグ・ギッガ戦を元にして立てられたんだよ」


「私達の作戦ですの?」


「ああ、ほらなんといったか、そう攻城兵器のバリスタだよ。あれをどんどん打ち込んでやれば流石にゴルニアスとて動くに動けなくなるだろうな! ワッハッハ!」


 それでも説明が雑すぎて困っていると、『副長』だという男がいい具合に報告にやってきた。何かすがるようにその男を見るブレイブシャインに気付いたリオは『丁度よい、お前から詳しく説明してやれと』副長に命じ、それでようやく納得がいく作戦支持を聞くことが出来た。


 確かにリオが言う通り単純な作戦ではあったが、彼女の説明は肝心な部分が抜けていた。


 作戦に参加するのは、パイルバンカーを装備したエードラムのAチーム、バリスタを装備したエードラムのBチーム、そしてアタッカーとなるエードラム弐式及びハンターで構成されたCチーム。


 この3つのチームが主力となって討伐することになる。


 ゴルニアスは捕食中、周囲の様子に鈍感になる習性がある。余りにも夢中になって食べるため、外敵が近づいていても気が付かないのだ。最も、あの巨体をどうにか出来るような魔獣はなかなか居ないため、ある意味油断をしているだけなのかもしれない。


 ゴルニアスが捕食行動を始めたら現地の調査隊が信号弾を打ち上げる。


 それを合図として、まずはAチームがゴルニアスを遠巻きに取り囲むように位置取る。次にBチームがそれに付き添うように位置に付き、Cチームはそのまま待機。


 Aチームはパイルバンカーを用いて巨大な杭を地面深くまで打ち付ける。杭の先端には穴が空いていて、縫い針の頭のような具合になっている。


 用意が終わったらBチームは一斉にバリスタを放つ。放たれる巨大なボルトには凶悪な『返し』がついていて、刺さったら最後引き抜くのが難しい仕組みになっている。


 そしてそのボルトにはワイヤーが結ばれていて、着弾を確認後、速やかに『杭』の穴にそれを接続、地面にゴルニアスを縫い付けてしまうというわけだ。


 そこまでくれば後はCチームの出番である。弱点部位である頭部、破壊推奨箇所である尾を中心に攻撃を続け、討伐をする。


 シンプルかつ、効果がありそうな作戦だが、ゴルニアスとヒッグ・ギッガは全く別の魔獣であり、素直にこの作戦が通用するとは限らない。


 故に……


「万が一この作戦が通用しなくとも案ずることはない! その時こそ真に数と力の暴力で押し込んでしまえば良いのだからな!」


 ワハハと笑うリオ隊長に頭を抱えるブレイブシャインと副長なのだった。

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