第二百六十七話 フォレムのギルド
シェリーに連れられ、私達一行はハンターズギルドにやってきました。
もう大分遅い時間だと言うのに、多くのハンター達が酒を飲んだり、何かの報告や相談をしたりと賑やかで、噂通り『ハンターの街』だなと感じた。
シェリーの後について中に入った瞬間、辺りがざわついたのは面白かったな。
(お、おいアレってレニーじゃねえか?)
(バカ言え!レニーはあんなに可愛くねえぞ)
(でも、肩に乗ってるのスミレとかいう妖精じゃねえか?)
(スミレさんは紫色の髪だよ!ありゃちがう)
(ああ、あれはカイザーだよ。レニーの機兵のさ)
(機兵? なんで妖精になってんだよ! つか、あの嬢ちゃんレニーじゃねえだろ)
(一緒にいるやつは誰だ? マシューってあんなにでかかったか?)
(ばかいえ! マシューちゃんは犬系獣人だ! 間違えんな!)
(でも、結構美人だぞ……? 差詰めミニブレイブシャインってとこか……)
これらがそっくり私達の耳に届くもんだから、皆揃って苦笑だよ。ていうか、私が機兵? 私が機兵に乗ってたんじゃなくて、私が機兵なの? なんだかよくわからないぞ。
そんなざわつきから逃げるように2階に連れて行かれ、通されたのは立派なお部屋。フォレムのギルドマスターが使う執務室でした。
良くわからない魔獣の素材が壁に飾られ、書類がうず高く積もった机が見えます。書類の山から顔を出した捉えどころが無い年齢不詳の男性が顔を出す。せめて名前くらいは特徴的であって欲しい……。
「よく来たね。私はフォレムのギルドマスターだ。君の姉であるレニー君も『ギルマス』と呼んでいた。どうか、君も気軽にそう呼んでくれると嬉しい。無論、ラムレット君にもそう呼んで欲しい」
この人名乗らないぞ!……あれ? 何かちょっとデジャブ。前にもこんな事があったような……。
「あの、失礼を承知でおたずねしますが、私ってやっぱり何度か貴方にあってたりします?」
私が恐る恐る訪ねると、ギルマスはちょっと寂しそうな顔をして答えてくれた。
「ああ、レニー君はフォレムのライダーだからね。そのレニー君のパートナーである君とは話した事は勿論あるし、その姿の君とも会った事があるよ」
「各地からの報告通り、最低限の記憶以外失っているようですね……」
シェリーもまた、寂しそうな顔をする。
うっすらとモヤが掛かったようではあるけれど、フォレムの記憶もあるようで、誰か大切な人がこの街に住んでいる、そんな気はしている。
ただ、何度か会っているというギルマスやシェリーの事は覚えていないし、街並みもやはり懐かしいと言うよりは新鮮に感じるため、覚えているとは言えないだろうな。
「徐々に記憶が戻ってる感じはあるんだけど……ごめんなさい、まだちょっと思い出せなくって」
と、私が頭を下げるとギルドの2人が微妙な顔を浮かべる。何故そんな顔をと思ったが、シェリーから突っ込まれてまたかと思う。
「カイザーさんが謝る事はありませんよ。それにその……非常に女性らしくなられたと言いますか……、以前の貴方はあくまでも男性が仕方なく女性の身体に入っている様な感じだったのですが、今の貴方は普通に可愛らしい妖精にしか見えなくて……なんというか、別人のようです」
「ああ、俺もそれは思った! びっくりしちゃったよ。偉そうなカイザーと話すつもりで居たらしおらしい妖精さんになってるんだから……と、失礼失礼。まあ、案外そっちの方が実は素だったのかもしれませんな」
なんだか気になる話しがホイホイと出てくるな……。いや、どうせブレイブシャインの人達と合流できれば更につっこんだ話しを聞けるはずだ。今はとにかく聞きたい事を収集しよう。
「それで……ブレイブシャインの人達はいつ頃到着するんですか?」
そう、尋ねると、ギルドの2人は少しだけ困った顔をして説明を始めた。
「ブレイブシャインに連絡が入ったのはザイーク、地図のここですな。そしてその頃……恐らくあなた方はパインウィードを目指して居たと思われます」
地図を見ればザイークという西端の街からフォレムまで王家の森を通ればそこまで遠い距離ではなさそうだった。増して彼女たちは機兵に乗っているらしいので、そこまで時間はかからなそう……あれ?
「私達はパインウィードまで徒歩でうごいてたんですけど、それを考えれば機兵に乗ってるブレイブシャインの方々はもう到着していてもおかしくはない頃ですよね?」
フィオラが聞きたいことを聞いてくれた。それを聞いたギルマスはうんうんと頷き、理由を語る。
「そう。彼女達であれば王家の森を通って帰ってくることは間違いなかった。もしそうであればとっくに到着し、我々と一緒に貴方達を出迎えたはず……だったのですが……」
シェリーが悔しそうな顔で何やら図鑑を開きます。
「ザイークとボックストンの中間地点にゴルニアスという超級のワニ型の魔獣が発生しました。イーヘイからもエードラム弐式を含む新型機が多数投入されたのですが、ザイークに居るということでブレイブシャインの皆さんにも緊急依頼として要請が入りまして……」
図鑑を見ると、全長は25mを超え、どっしりとした脚が6本、強靭な尾を持ち、討伐にはかなりの労を要すると書かれている。超級っていうのがどれだけのものなのか想像できないけど、超ってつく辺りヤバそう……。
ブレイブシャインの人達はそんなのと戦って大丈夫なんだろうか?
表情に出ていたのか、シェリーは優しく笑って言ってくれた。
「大丈夫ですよ。覚えてないでしょうけれども、貴方が鍛えた女の子たちです。レニーや貴方が欠けていたとしても、そう安々とワニ如きに負けるような子達じゃありません」
呼び出すことは出来なくても、心の何処かに記憶は残っているのだろう。シェリーの言葉は説得力があり、私の心にストンと入り込んでいった。うん、なんだかとっても大丈夫な気がする!
そして私達はブレイブシャインが戻るまでの間、ギルドの好意で宿を取ってもらえることになった。
ラムレットは「私はフォレムまで着いてきただけのおまけだから!」といって恐縮していたけど、
「ブレイブシャインが戻るまでの間、フィオラさんと一緒に依頼を受けるのでしょう? 言ってしまえば貴方達はパーティーを組んでいるわけです。フィオラさんに支援をするのではなく、パーティに対しての支援だと思って、どうか遠慮せず受け取って下さい」
シェリーにそう言われ、しょうがないなと受け入れていた。
ラムレットも今後どうするか迷っているみたいだし、ゆっくり考える時間が出来てよかったのかも知れないね。
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